指切りトンネル。(その29)
遅くなってすみません。(o*。_。)oペコッ
彼の容姿と背格好は天狼さんに似ている。
だから、ちょっとだけ安心したことは、内緒にして欲しい。
天狼さんは、彼の事を陽炎と呼んでいた。
だが私は、彼の事をオタク気質の鬼お面、略して、オタ面と呼んでいる。
一応、さんはつけているのだが…。
「灯花た~ん!拙者のこと忘れたのかと思ったのでござるよ~!」
陽炎は両手を広げては灯花に抱き着こうとして来た。
「ちょっと、近づかないでください!」
「ぐふふっ拙者と灯花たんとの仲でござろう…?」
黒の生地に白の刺繡の曼殊沙華が施されている流し着物を着こなし、鬼の面をつけている黒人狼。
見た目に反して、かなり変態だ。
「いい、い、嫌です!」
セクハラって、こういうことを言うんじゃないかな…。
「おいおっさん!」
セクハラを受けている灯花に助け舟が来た。
川村君…!
「おっさんではない!!」
陽炎はいきなり怒りの剣幕で言葉を出した。
「……わ、悪かったよ…」
川村君、そこは謝らないで…。
「ふんっこれだから小僧は…」
なんでこの人は、偉そうなんだ…。
「して…またのない逢瀬を、邪魔をする不届きモノはお主か?」
鈴の音が鳴った。
「…………」
陽炎の問いに山の神は答えない。
「ふん、言葉まで失ったか…。皆離れておけ、こやつは拙者が葬るぞ」
陽炎は灯花達の前に出ては、背に差している刀に腕を回した。
いつの間にか、黒糸が洞窟中に張り巡らされていた。
「……っ!」
その黒糸に引っかかっているのは、山の神だった。
白装束の少女の身体は黒糸によって、拘束されていた。
「オタ面さん!」
灯花は彼のあだ名を呼んでは、言葉を続けた。
「オタ面さん!あれは、地獄蟲じゃないです!」
「わかっているでござるよ~さては、堕ち神の類であろう?この手のモノは、よくおる」
陽炎の言葉に反応したのは茶色い毛並みを持つオオカミだった。
「手を出してはならん!呪いをもらってしまうぞ!」
「呪い?結構でござるぞ~棍棒で打ち返して見せるぞよ!それに、神である道理から外れたモノは、神であらず。目の前にいるモノは、ただの悪鬼でござるよ」
「あなたはいったい…?」
オオカミが問うと陽炎は軽く笑った。
「拙者は、鬼門の門番でござる」
「…っ!あなたはまさか!先代の…」
オオカミが驚いていると、山の神の角から伸びる樹木から木の幹が、こちらに向かって襲い掛かって来た。
山の神は私達を串刺しにするつもりだ。
すると、再び鈴の音が鳴った。
「三弦…」
次の音は、弦の弾く音とパンッと弾ける音だった。
襲い掛かって来ていた木の幹が突然、し散した。
川村はこの光景に言葉を漏らした。
「嘘だろ…」
危機に陥っていた状況が一気に逆転した瞬間だった。
灯花は陽炎の戦闘力に驚いていた。
強いことは知っていたけれど…ここまでだったとは思わなかった。
「………あ!」
唖然としている場合じゃなかった。
灯花は、川村達から離れ、岩壁に持たれている山犬に駆け寄った。
山犬の様子は深刻だった。
腹から出血があり、ぐったりとしていた。
「山犬さん!しっかりして…!」
「うっ…」
息はあるようだが、早い治療が必要だった。
すると、灯花の行動に見かねた川村がこちらに来ては言葉を出した。
「おい!救急箱を出せ!早いとこ出血を止めるぞ!」
「う、うん…」
灯花は言われた通りにリュックから救急箱を出した。
すると、片脚でよたよたと今でも崩れそうなオオカミが寄って来た。
「隼人、しっかりするんだ…」
首には痛々しく、肉が裂けていた。
「あ…」
言葉が詰まるほどだった。
「私のことはいい…隼人を見てくれ…頼む…」
その言葉を聞いた川村は、オオカミを睨んだ。
オオカミはその視線に少し困った顔すると、山の神の方へと視線を向けた。
陽炎と山の神との戦闘は繰り広げられていた。
陽炎が山の神の隙をついては、一気に近づいた。
そして、山の神の頭蓋に刀身を振り落とした。
バッキッ!
枝木が折れる音響いた時。
洞窟内に反響するほどの声が響いて来た。
「アワレ、ナ、ムスメ…ヒトニ、ステラレ、ヒトニ、イミキラワレ…ヒトニ、ナレナイ…アワレナ、ムスメ」
山の神の言葉は、娘を憐れむ言葉ばかりだった。
「アワレナ、ムスメのタメニ…ヤクソク、ヲ、タガエル…モノ。ユビヲ、オトス」
指を落とす。
その言葉は、この土地…指切りトンネルと言う呼び名がついたのと、関係があるのだろうか。
指は約束事に使う。
灯花は呟く。
「まさか、指切りげんまん?」
この山は、かつて捨て山だった。
山に捨てる人、捨てられる人、その背景は自然と思い浮かぶ。
捨てられる人は、まさか自分が捨てられるとは思わないだろう。
家族だから、信頼している人だからこそ…。
捨てる人は、どうやって捨てるか、悩むだろう。
山から戻って来られては困るからだ。
なら、有効な手段は約束を取り付けることだろう。
指切りげんまんを使って。
白装束の少女は、両親、また信頼する人と約束をした。
そして、少女は山に捨てられた。
その少女を哀れと思った山の神。
山の神が人の指を落とす行為を繰り返すのは、きっと、約束をなかったことにしたかったじゃないだろうか?
哀れな少女を解放するために…。
陽炎は鬼の面を押さえては、声音を変えては言葉を出した。
「お主もまた、哀れだな…人に関わって魔に堕ちた」
山の神は陽炎の同情に耳を貸さず、枝木を陽炎に向け、千本の針のように突き出そうとした。
「ユビヲ、オトス、ユビヲ、オトスオトスオトスオトスオトスー!!」
陽炎の瞳が朱く光った。
その様子はまさに、鬼の様だった。
「そのまま、終わっていればよかったものを…娘と共に、逝くがいい」
陽炎が張り巡らせた黒糸は、襲い来る千本の針を糸を通すように突き刺した。
千本の針は、陽炎の目の前で時が止まったように静止し、山の神の頭蓋骨は受けた傷から、広がりを見せ、そして、砕けた。
砕けた頭蓋骨から、少女の顔が現れた。
少女の表情は、人のように悲しみ暮れていた。
その少女の背後には、オオカミの姿があった。
そして、少女はそのオオカミに喰われて、育ての親と共に逝くことになった。
この小説をここまで、読んでくださりありがとうございます!!
新人賞を逃してから、落ち込んだ日々がありました。
一時は、一次選考者の名前をデスノートに書き込もうと考えたりしてました。
よくよく考えたら、あれって、偽名だよね…………ちっ命拾いしたな…。
などと作者として、やっちゃいけないことを考えていましたー。
こんな意地汚い、作者ですが今後ともよろしくお願いします。by落田プリン。