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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第四章 走らなきゃだめですか…天狼さん。
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指切りトンネル。(その28)

 白装束の少女が亡骸に触れた。

すると、視界が悪くなるほどの突風が吹いた。

空間を埋め尽くしていた落ち葉が一気に舞い上がった。

「……くっ!」

「うわっ!」

灯花と川村は吹き飛ばされないように地面にしがみついた。

枝木や葉先が身体中に当たって、痛い。

痛みに耐えていると風は時が止まったようにやんだ。

そして、灯花達は驚く光景を見ることになった。

「なんだ、よ…あれ」

「…………」

川村は言葉を漏らす中、灯花は言葉さえ出せなかった。

それは、山の主であり、神。

白骨した鹿の頭を被った少女がいた。

見た目はそれだけでよかった。

だが、少女が被る鹿の被り物は異常だった。

樹木のように伸びていた角は、そのまま樹木となったのだ。

紅葉した木を持つ鹿。

灯花達がそれを目にした時、再び、大量の落ち葉が舞った。

それは、神秘的な光景だった。

白装束の少女に首を(かじ)られたオオカミがゆっくりと言葉を出した。

「君達は逃げるんだ…」

「……っ!なんだよ晃!」

何を言っているんだと川村は叫ぶ。

「なら、神相手に何ができる?」

オオカミの言葉に灯花はぞっとした。

「これが、神様?」

「しいて言うなら、山の主だ。力がある主は、死してもなお存在できるのだ。むしろ君達は、あれを何と呼ぶのだ?」

オオカミの問いに川村は吠えた。

「ざっけんな!こっちは、妖怪とか山姥だと思ったんだが!」

「それは、こちらの見解。女が山に長く住めば、何とやらだ」

つまりそれは、他者から見れば山姥に似ていたから、そう呼ばれただけだった。

「真実は、実際にこの目で見ないとわからないものだ」

オオカミの言葉で灯花は息を呑んだ。

目の前にある光景が真実だということを。


 灯花達はまた、危機に陥っていた。

白装束の少女は獣のような振舞だった。

だから、隙ができ、ここまで立ち回れた。

だが、目の前にいる神様はなんだ?

人から怪物になったのなら、まだ容量の余地があった。

だけど、人ではないモノが神へとなったのなら、それは、いったいなんだ?

灯花は恐怖した。

得体の知れないモノに恐怖した。

「こわい…」

灯花の口から自然とその言葉が零れた。

そのたった一言で、積み重ねて来た勇気が崩れた。

「怖いよう…」

灯花が恐怖を覚えたところで、川村もまた、怖気づき始めた。

「なんだよ…お前まで…」

川村もまた、その場に動けなくなった。

そして、山の神は動き始めた。

小さな右足をゆっくりと前へと動かした。

動いた時、その場の空気も地面も揺れた。

樹木が動いているような揺れだった。

樹木から紅葉した葉が散る。

散った葉は、また風に舞った。

山の神は今度は、左足を前へと動かした。

灯花達は思った。

殺しに来ると。

白装束の少女を傷つけた報いを受けさせるために。

灯花が恐怖で瞳を濡らした時、声が上がった。

「けけっこんな時の鏡だろうが…」

「えっ?」

その声は硯鬼…?

「なんなら、その右目…オレ様に喰わせろ」

灯花の視界が真っ黒になった。

「……っ!」

硯鬼が何を言っているのか、わからない。

わからないんだけど…!

だけど!

「悪いことするとまた、瓶を振るわよ!」

灯花は目の前の真っ暗に平手打ちをした。

パチンと手と手が弾いた音が鳴り、真っ暗が一気に晴れた。

灯花は真っ暗の正体がわかった。

それは、硯鬼の黒手だった。

黒霧が散った今、目の前には硯鬼入り瓶があった。

「硯鬼…」

「けけっ」

灯花は瓶の中で笑う硯鬼を見た。

そういえば、このミイラもまた、得体の知れないモノだった。

「くすっ…」

硯鬼を見ていると自然と笑ってしまう。

灯花は言葉を出した。

「わかったわ!右目を使えばいいのね!」

右目って、どうやって使うのって言いたいけれど…。

そこは、頑張るしかない。

灯花は右目を押さえては、色々と考えた。

この右目に入っているのは、綾女様から頂いた鏡だ。

それは、いったい何に使うのかはわからないが、何かのヒントになるだろう。

禁忌の箱には、白猿(はくえい)という巨大な猿がいた。

いや、白猿という鏡があった。

その白猿は、禁忌の箱の目録をしていた。

目録の意味すらわからないが、禁忌の箱の管理をしていた。

だったら、この鏡を使って何か出せるのだろうか?

白猿も鏡を使って、武器を出していたわけだし…。

「武器って…確か、悪い武器だったような…うーん、この際、オタ面さん出てこないかな?」

オタ面さんの姿を想像する。

黒の着物を着た鬼の面をつけた人狼の姿を。

すると…右目がかっと熱くなった。

「んっ!」

右目が何かを映した。

水の中にいるような、あるいは水の上にいるような空間を見ては、そこから円を描くような波紋を見た。

「はっ!」

灯花が気が付くと、先ほどの視界に戻っていた。

右目の違和感に目をこすっては、ぱっと目を見開く。

すると、下駄を履いた人物が見えた。

「…………呼んだか?」

聞いたことがある声に灯花はビビる。

「灯花たん」

「いやいやいや…まさか、あの変態が出てくるわけが…」

すると、そばにいた川村が声を上げた。

「なんだよ!おっさん!」

鳥肌が立った。

「………まじで」

灯花は目の前で起きた出来事に驚いた。

顔を上げると、目の前には鬼の面をしたオタ面さん…陽炎(かげろう)がいた。

「時間勤務中でごさる!」

灯花は顔を一気に青ざめた。

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