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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第四章 走らなきゃだめですか…天狼さん。
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指切りトンネル。(その23)灯花視点。

 灯花と山犬はトンネル内をよく見渡しては進んで行った。

よく整備されたトンネルは通りやすく、電気も通っていた。

まるで、開通したばかりのトンネルのようだった。

もし、ここが葛切りのトンネルの過去の姿だとしたら、今のトンネルは相当荒れている。

今のトンネルは所々崩れていてとても危険な状態だった。

我ながらよく通れたと思う。

私と川村君はそのせいで落ちてしまったのだ。

地獄蟲がいる過去の方が安全性があるとはなんとも皮肉な話だ。

「それで、お前から見てこのトンネルはどう見る?」

山犬のいきなりの問いに灯花は正直に答えた。

「なんもないです」

いたって普通のトンネルだ。

いくら歩いたって一本道なのは変わらない。

「そうだな」

山犬は嘆息交じりに言葉を出した。

「この先を進んでも、ずっと同じ景色だろうし、このトンネルからは出られん」

「私もそう思います。先がないと言うべきでしょうか?」

「そうだ」

だとすると…。

このまま進んでも、埒が明かないということだ。

私達は踵を返しては、来た道を戻ることにした。

「何かあればいいのですけど…」

灯花は来た道もよく注意良く周りを見渡した。

コンクリートの壁ばかりで、特に変わった所はないが…。

念のために探して見ることにする。

私達が探しているのは、歪みだ。

幽世には、歪みがある。

空間と空間には不安定な場所がある。

そこが道となったり、出口となったりするのだ。

開いている道が出口とは限らないのだ。

灯花はふとあることを思い出した。

あの白装束の少女の都市伝説のことだ。

結局のところ、白装束の女性(偽物)は出てきても、その都市伝説の本物が出てない。

ニセ山犬は百鬼とかなんとか、言っていたけれど…。

いったい…何だったのだろう?

それを解決しないと出られない?

そんなことはないと思うのだが……。

「はあ……わっ!!」

ため息をした時、何かを踏んだ。

何か、もにもにした柔らかくて芯が固いものを足の裏で踏んだ。

山犬は灯花の驚きに言葉を出した。

「どうしたんだ?急に…」

「なんか…踏んだ」

すぐさま、それをライトで確かめる。

足をゆっくりと上げるとそれは、人間の手首があった。

「……っ!」

その手首は、胴体とは繋がってはなく、手首がポツンと置いてあった。

「わたし…なんてことを…」

仮にも手首だけでも、死体を踏むなんてこと。

灯花は自分の不注意に後悔した。

灯花が落ち込んでいると、山犬はそんな灯花を気にも留めずに、手首の前に屈んでは様子を見た。

「男性の右手だな…指にたこがある。鉛筆たこと言うものだろう。他に、たこがないということは、まだ学生だったのだろうな…」

「そ、そこまでいいますか…!」

その追及ぷり、なんともSを感じる。

最近、SMのアニメ見たからだろうか、色々と想像してしまう。

さぞかし、女性を追い詰めるのが好きなんだろう…。

なんて奴だ…。

「おい、そんな目で見るな。人をなんだと思っているんだ?」

「S」

「は?」

山犬は何を言っているだと呆れた様子になった。

「……とにかく、これを鑑識(かんしき)に回す。お前のそのリュックの中に入れてくれないか?」

「ドS!」

「言っておくが、お前が私のことをどう思っているのか知らんが、これは捜査の一環だ」

「…………」

灯花は引きつった顔をすると山犬は言葉を付け足した。

「お前は先ほど私に言ったな、協力しろと、それは嘘か?」

「…ず、ずるい…!」

何事も脱出のためだ。

ここは、山犬さんに協力しなければならない。

灯花は渋々、リュックを背中から降ろした。

「うっう…う…」

「お前な、黒蟲の餌食(えじき)になるのとそれを持つのとどっちがマシだと思う?」

「どっちも嫌ですぅ!」

「そうか、私は黒蟲が体の中にまで入っては内臓を食い荒らす方が一番性質(たち)悪いんだと思うんだが?」

じっと見られて、灯花は押し黙り、そして、謝った。

「…………ごめんなさい」

「わかればいい」

山犬の言いたいことはわかっている。

その体を黒蟲達に食い荒らされても、それでも戦わなくてはならない。

そんな状況より、死体を持ったほうがマシだと言いたいのだろう。

「山犬さん、一つ聞いても?」

「なんだ?」

「この死体を持って帰ると被害者の身元とかわかるんですか…?」

山犬さんの刑事ぽい発言から、そういうことがわかるんじゃないかと思った。

山犬さんはこの手首の持ち主を学生と言っていた。

きっと、あの四人組の大学生の一人なのだろう。

この死体が表に出た時、この幽世で亡くなった人たちはどう対応するのだろうか?

気になるところだ。

すると、山犬は灯花の言葉にきょとんとしては次第に目をそらした。

「なんですか?その反応…」

「とにかく、お前はそのリュックを私が良しと言うまで開けるなよ」

「え…」

既にリュックの中に入っているそれは、ゴソゴソと動き出していた。

「あれ…」

「私がしたことが…まさか、やり損いがあったとはな…」

「は?」

灯花は次第に顔色を青くした。

「ままま、まさか、蟲を入れたわけないですよね…!」

「協力すると言ったよな…お前」

「卑怯ですぅー!!」

あの白い芋虫が生きていた。

この白い芋虫は擬態(ぎたい)ができるらしい。

死体に擬態しては、私に踏まれ、リュックの中に入れたのだ。

「うぅうう~~~」

リュックを背負ると、もそもそと動くのがわかる。

灯花は観念しては、山犬に問う。

「しかし、蟲を持って帰っても、被害者を特定できるんですか?蟲の成分しか出ないじゃないですか?」

「それは、調べてみないとわからない。だが、こいつらは死体に擬態にできる。それができるなら、それなりに条件があるのだろう。例えば、死体を食さないとそれに擬態にできないとかな…それに、何を食っているのかは、それくらいはわかるだろう。とにかく、私は専門家じゃない。詳しい奴に任せるさ」

「そうですか…」

そこまで言われては、食い下がるしかない。

灯花はリュックを背負いながら被害者の重みを感じた。


 来た道を戻っていると灯花は山犬と目を合わせた。

山犬はトンネルの様子を見ては言葉を出した。

「閉じ込められたな」

何にとは、もちろんこのトンネルにだ。

いくら歩いてもこのトンネル内からは出られない。

灯花は最初、トンネルの入り口にいた。

そこにたどり着けないとなると確実にこれは、閉じ込められたと言うことだ。

「何だか、無駄足ばかり稼いでいますね…」

「そうだな…」

行く所行く所同じ景色ばかりで、何も変化がない。

あったのは、被害者の手首(白い毛虫)だけだった。

脱出に向けての行動にあまり進展がない。

「はあ…」

ため息をつくと山犬は言葉を出した。

「少し休もう」

「えっ?」

「…………」

山犬はコンクリートの壁に腕を組んでは背持たれた。

ずっと、歩き詰めの私に気を使ったのだろう。

灯花は地面にお尻をつけた。

廃トンネルと違って、地面は雨漏りで濡れてない。

だが、地面は氷の上に座っているような冷たさだった。

その冷たさで、お尻から身体が冷めてくるのがわかった。

それでも、お尻を上げないのは、冷たさより疲労のほうが回っていた。

「はあ…」

灯花は疲労からか、ため息が漏れた。

かれこれ、幽世に入ってから数時間は立っている。

自然と疲労が溜まり、体力が減るのもうなずける。

外と幽世の時間はずれているらしい。

幽世でどれだけ時間が経っても、外ではそんなに時間が経っていないことがある。

しかも、ここは閉じ込められた空間だ。

長い時間、幽世に居続けるとどうなるのか。

想像しただけで、過酷だ。

食料の備蓄がありようが、底をつけば、このままでは力尽きるだろう。

早く、幽世から出ないと…。

だが、そう思っても、身体は言うこと聞かない。

思っている以上に体力が減っている。

灯花はまたため息をついた。

ふと山犬の様子を見た。

彼もまた、疲労が溜まっているだろうし、なにより、大怪我をしている。

山犬はコンクリートの壁に背漏れたままびくとしない。

それどころか、青白い顔にうっすらと汗をかいているようだった。

「あの、大丈夫ですか…?」

「……何がだ?」

「顔色が悪いです」

「気にするな」

「しますよ」

「するな」

「やせ我慢」

「黙れ」

山犬さんはぶっきらぼうに答えたが、当の本人は辛いだろう。

早いとこ、病院に行って適切な処置をしてもらなければ…。

だけど、どう脱出する?

前も後ろも同じ景色で、どこにもたどり着けない。

同じところを何度もループしていると言っていい。

トンネル内も一面にコンクリートの壁、電気は一応通っているが薄暗い明りだ。

いたって、おかしな点はない。

歪みがあると思ったが、見渡す限りそれはない。

だとすると、私たちはこのトンネルに閉じ込められたということだ。

かつてないほどの、手詰まりだった。

灯花は頭を抱えた。

こうもヒントもないと出ようがない。

前の廃ビルも禁忌の箱も何かしらのヒントがあった。

灯花は過去に在った経験を思い出す。

まず、廃ビルの幽世は、屋上からの人の転落から始まったのだ。

要は自殺だ。

そして、脱出方法は、屋上からの落ちることだった。

特定の場所に落ちるか否かで、生死を分ける形となった。

私と真夜は女性山犬さんがいたから助かったけれど、下手をしたら助からなかった。

次に、禁忌の箱だ。

あそこは、未だにわからない所があるけれど…大体は同じだ。

私が迷い込んだ鬼の門のことは今は省いておこう。

分かりやすい、禁忌の箱のことを考えよう。

最初に天狼さん、私とオタ面さん、禁忌の箱と言われる蔵に入った。

そして、脱出方法は、禁忌の箱の管理者、綾女様による導きによって出られた。

導きはかなり意地悪なものだったが、最終的にたどり着いた場所は、禁忌の箱に似た蔵だった。

その蔵に入ると禁忌の箱から出られたのだ。

そのことを踏まえて、今回のことを考えると…。

廃トンネルを入る前、私と川村君は被害者の亡霊が乗った車に追われた。

追われるまま廃トンネルに入ったのだ。

私と川村君は、被害者の亡霊が乗った車は誘導だと判断し、そこで、まだ幽世に入っていないということがわかった。

ということは…幽世の入り口は…。

「穴だ…」

「あな?」

山犬は灯花が突然発言した言葉を反芻(はんすう)した。

「穴がどうした…?」

灯花は立ち上がると地面を見渡した。

ライトで地面を照らしては穴を探す。

そんな灯花の行動に山犬は問うた。

「猫みたいに這って、何をしている?」

「私と川村君は穴に落ちて、幽世に入ったの。もしかして、もう一度穴に落ちれば、出られるかも…」

山犬は少し考えては言葉を出した。

「……崩落」

山犬はコンクリートの壁から離れては、足を高く上げては蹴った。

「ふわっつ!えっなんでっ!」

いきなり壁を蹴りだす山犬に灯花は取り乱した。

「ええぇーー!!」

なんなの!

なんかキレるとこあった!?

山犬は壁に蹴っては、壁をじっと見た。

「ちっ…」

「舌打ち…Sの極みっすね」

「いちいちうるさいぞ」

山犬はもう一度、蹴った。

今度は強く蹴ったようだった。

壁は亀裂が入ったようだが、すぐさま、塗りたての壁のように修復した。

「駄目か」

蹴った衝撃のせいで、天井からパラパラと土屑が落ちて来ていた。

灯花は山犬の行動におずおずと聞いた。

「あの~どうしたんですか?」

山犬は今度は天井を見ては答えた。

「このトンネルは元々、崩落によって廃坑となった。ならば、トンネルを崩せば、お前が言う穴が現れるはずだ」

「そうなんですか!」

灯花は飛び上がった。

これで出られる!

灯花達はトンネルの天井を見た。

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