表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第四章 走らなきゃだめですか…天狼さん。
171/310

指切りトンネル。(その22)灯花視点。

投稿が遅れまして申し訳ございません。(o*。_。)oペコッ

これからも頑張って投稿していますので、どうぞ楽しんでいってください!

 「泣いてませんよ…!」

灯花は涙目で訴え、山犬の腹を叩いた。

「うっ…」

「わっ!ごめんなさい…つい…」

山犬の腹には膿蟲による開けられた穴がある。

人の姿をしても、受けた傷は早々には癒えないのだろう。

山犬は一つため息を落とすと灯花にある物を渡した。

「これは、お前の物だろう?」

「あ」

それは、黒い扇子だった。

黒蟲の大群に襲われた時に失くしていた。

「もう手放すな」

灯花は扇子を受け取ると胸に抱き止めた。

「はい…ありがとうございます」

私の強みが返ってきた。

火をつける程度だけど、少しは戦える。

あのニセ山犬に、ふと泡吹かせたい。

「あの、私も戦います…うぎゃあ!」

山犬に頭をガッツリと掴まれた。

「自惚れるな。お前の火は、煙管程度のものだ。役に立たん」

「えっ?けど、膿蟲一匹倒せましたよ?って痛いです!」

人の頭をハンドボールのように掴んでは、ぐっと下を向かせていた。

「お前は(うずら)の雛のように、ガタガタ震えていろ」

「うずらって…あと痛いです」

「とにかく、引っ込んでいろ」

「…わかりました、あの…ほんとに痛いです」

「ふん…」

山犬は灯花を離すと早々に踵を返した。

灯花は頭をさすりながら言葉を漏らした。

「……大丈夫ですか?」

「なんだ?」

「なんだって…その…もう一人の山犬さん…」

灯花は言いにくそうに言葉を出すが、山犬は何も答えず先へと足を運んだ。

「…………」

その背中は、オオカミの姿より小さく感じた。

それも、しなやかな背が固くなっていることも気づいた。

灯花はその背中を見ながら後を追った。


 トンネル内を少し進むと山犬は言葉を出した。

「…ここから、脱出するぞ」

「……っ!」

灯花は驚いた。

てっきり、仇を討つのかと思っていたからだ。

「いいのですか?」

「一般人の身の安全が最優先だ」

「…………」

灯花はおずおずと頷いた。

本当なら仇を討ちたいのだろう。

山犬さんからにじみ出る気迫から伺えた。

灯花はそのまま、山犬の背中を見ながら言葉を出した。

「…それで、脱出方法はわかるんですか?」

そう言葉を出すと山犬は立ち止った。

「…っ!…あの…?」

「…それは…これから探す」

なんとなく、わかっていた。

灯花は山犬に問う。

「………思ったんですけど、山犬さん達ってどうやって幽世に入って、どうやって脱出しているんですか?」

「それを答える前に、お前はいったい何者だ?」

山犬はじっと灯花を見た。

「…………」

鋭い目に睨まれて言葉に詰まった。

だが、ここで黙っていも、状況は悪くはなるが良くはならない。

灯花は正直に話すことにした。

「何者でもないですよ。私達は普通の高校生です。私達はただ天狼さんに会いたいだけなんです」

山犬はきょとんと目を見開いては、驚いていた。

「…愁に会いたいのではなかったのか?」

「愁さんに会いたかったのは、天狼さんの居場所を教えてもらおうと思って…私達、山犬の知り合いは愁さんしかいなくて…」

山犬は今度は怪しむように言葉を出した。

「なぜ、天狼様に会いたいんだ?」

灯花は負けじと言葉に出した。

ここで言わないとここまで来た意味がない。

「天狼さんは、私達の先生なんです!その先生が急にいなくなったら、心配するし、嫌じゃないですか!」

「……っ!お前は、あの高校の生徒なのか?」

「はい!」

灯花は勢いよく答えた。

すると、山犬は驚き、しばらく黙った。

「…………」

一時の間、沈黙が続いた。

そして、ゆっくりと破られた。

山犬はため息交じりに言葉を出した。

「まさか…天狼様を覚えていたとは…」

その言葉で灯花は確信した。

「やっぱり、記憶を…みんなの記憶を山犬さんが改ざんしたのですね」

「そうだ…私が担当したわけではないが、山犬数人で術をかけた」

「…………」

今度は灯花の方が疑いの目を向けた。

術による記憶を改ざんしたとなるとよっぽどのことがあったのだろう。

だけど、その力はとても恐ろしい。

「そんな目で見るな、仕方ないことだ。それに…天狼様のことは極秘事項だ」

「ごくひ、じこう…?」

「お前達が関わることじゃない」

切り捨てるような言葉に灯花は言葉を出した。

「そんな…!ここまで来たのに!」

そんな灯花の訴えを山犬は避けては、わざと話を変えた。

「とにかく、ここから脱出するぞ。何事も、ここから出ないと何もできん」

「…………」

灯花は納得できないが、山犬の言う通りだ。

ここで、何を言っても時間ばかり過ぎるだけで、状況は悪化するだけだ。

灯花は悔しい思いをしつつも脱出を目指すことにした。

そんな灯花に山犬は言葉を出した。

「我々が幽世にどうやって入っているかと言う質問だが…」

「答えてくれるんですか?」

「それくらいならいい…お前は幽世のことどれくらい知っている?」

灯花は知っている限りのことを山犬に話した。

これまであった怪異事件のことを簡単に話し、天狼さんに教えてもらったことを付け加えた。

すると、山犬は眉をしかめた。

話につれ、避けては通れない天狼さんとの関係が関わってくるのだ。

天狼さんと私はもう、ただの知り合いではない。

山犬は少し観念したように言葉を出した。

「なるほど…それで、幽世の事を知っていたのだな。ある程度のことはわかっているならいい。むしろ、説明は不要だな」

「そうなんですか?」

「ああ、我々もそんな特殊なことはしていない。幽世の入り方はお前達が迷い込んだ同様に、入っている。出方だが、我々はその入口を(しるし)として、行動している」

「しるし?」

「入口と出口は表裏一体。幽世を家に例えると家の玄関だ。その玄関を(しるし)と呼んでいる。標を出口として考え、幽世を行動している。標を目指して行動すれば出られる」

「なるほど…」

つまり、最初から出口を決めれば、あとは戻るだけだ。

一番わかりやすい幽世から出る脱出方法だ。

だが…。

「その標は、今はわかるんですか?」

山犬はちらりと灯花を見た。

「…わかれば苦労しない」

要は標を見失ったのだ。

「聞きますけど、どうして標を見失ったのですか?」

山犬は素直に答えた。

「ここの幽世に入った直後、地獄蟲の奇襲を受けた。それと同時に相棒と別れ、気づいた時には深く迷い込んでいた」

地獄蟲とは、あのニセ山犬の事だろう。

あのニセ山犬は、もう一人の山犬を殺しては擬態(ぎたい)した。

その後、ニセ山犬は大量の白い幼虫の姿となり、それらを一掃することになったが…まだ、生きているような気がする。

私が対峙したわけでないが、あまりにも、手ごたえがなさすぎる。

山犬をここまで追い詰めたほどの地獄蟲だ。

ただの地獄蟲ではないだろう。

それだと、あのニセ山犬の正体が一体何だったのか気になるところだ。

まだ、この幽世にいるのだろうか?

潮時だと言っていたが、もうどこかに行ってしまったのだろうか…?

ともあれ、この状況は一度立て直さないと地獄蟲を討つどころではない。

山犬は続けて答えた。

「ここは深度(しんど)が深い、まだ深く潜れそうだが…」

「深度?」

「幽世には深度がある。広さとも言うかもな…幽世はその広さも個々ある。深く潜れば潜るほど、標からも遠ざかる」

灯花は山犬に問う。

「じゃあ、山犬さんが標が見失うほど、ここは深いってことですか?」

「…ああ」

「やばいですね」

「そうだな…」

つまり、私達は命綱が切れた迷子状態ということだ。

こうなったら、自力で出口を見つけなきゃいけない。

灯花は目を半目になった。

「なんだ、いつも通りか…」

「ん?いつも通りだと…?」

灯花の発言は山犬にとっては意外なものだった。

「だって私、毎度毎度、地道に出口を探しているもの。てっきり、山犬さん達が特殊な出方をしているかと思ったんですけど、そうじゃなかった。なーんだと思って…」

すると、山犬は目をつぶっては軽く笑った。

「ふっ…お前の中ではかなり期待されていたのだな、山犬は…」

山犬の言葉に灯花は思う。

ちょっと失礼だったかもしれない…と。

「その、すみません。生意気なこと言って…」

「いや、お前の言う通りだ。もっと能力がある奴はすぐにでも出られたろう。期待するのもわかる。実際、私も痛感している」

「そんな…」

私の馬鹿。

山犬さんに余計なことを言った。

山犬は自嘲しながら言葉を続ける。

「これは言い訳だが…黒蟲の大群に襲われた際、私は力を出し尽くしていた。お前に何とかしろと言われてもどうしょうもできなかった。そして、ここまで深く潜ってしまったのは、私の落ち度。すまなかった」

山犬が謝ってきて、灯花は焦った。

「いやいやいや!そういう意味で言ったわけではないんです!謝ってほしいとかじゃなく…その…協力しましょうって意味です…」

「協力…?」

「はい、私一人だと膿蟲に喰われていましたし…さっきだって、本当に喰われそうだったし…」

自分で言っていて、なんか私、やばくね…?

「…………」

「だから、その、力の優劣じゃなくてここはお互い助け合って、協力して、ここから出ましょうって意味です!」

今まで通り、みんなと協力する。

学校でも廃ビルでも禁忌の箱でも、私はそうして幽世から脱出して来た。

山犬はきょとんとしては言葉を出した。

「お前は強いんだな」

「…それ、どういう意味です?」

「勘ぐるな、単の誉め言葉だ。一般人なら、まずは焦るだろう?」

「神経が図太いと?」

「素直に受け取れ」

お互い、どこかつんけんな会話だ。

山犬はまた灯花に背を向けては言葉を出した。

「でも、お前の言う通り、ここは協力して行動した方がいい………かもな」

「素直じゃないですね~」

「黙れ」

そう言って再びトンネル内を進みだした。

灯花はその背中をもう一度見ては、少し安堵した。

先ほどの不安を(あお)るような背中ではなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ