表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第一章 助けてください!天狼さん。
17/310

ここは、どこ?(その5)

 オオカミは思った。

これいつまで見ないといけんのー!

いや感動の再開はわかるけれども…。

ねえー!そこで見てる国みっちゃん!どうにかしてくれ!

目配せで突っ立っている国光に合図を送るがガン無視された。

ちょお!国みっちゃん!

結局、自分が声をかけないといけないのか…。

ため息交じりながらも、声をかけた。

「お二人ともー!仲がいいのはいいことだけど、そろそろぼくもういいかなー!そろそろ、おやつの時間なんでー!」

天狼が反応した。

「少しは気を利かせないのか」

「こっちの身にもなってよー!」

「ほう、月子つきこ殿が探し回っていたようだったが、はてあれは…。」

「よし!わかった黙ってる!」

「うむ」

そんな会話を聞いていた私は、天狼さんの腕の中で恥ずかしさでいっぱいだった。


 少し落ち着いてから、私たちは場所を移した。

ある畳部屋へ案内された。

客間なのだろうか。

客間には私と天狼さんの二人きりとなった。

天狼さんは、私に休むように促した。

言われるまま、座椅子に座った。

天狼さんは座椅子にも座布団にも座らずにそのまま畳の上に座った。

「まず、お前をいきなりここに連れて来てしまってすまない」

天狼さんが頭を下げた。

私は慌てて天狼さんに頭を上げさせた。

「だっだいじょうぶです!だいじょうぶでしたので…気にしないでください!」

「だが、本来客人として迎えたはずが、お前を女中のようなことをさせてしまった。私の不手際だ。すまなかった」

「ああ謝らないでください!たったしかに、なんでこんなことって思ったですけど!天狼さんに会えたから!それだけでいいです!むっむしろっき聞きたい事が!私!花嫁候補ってほんとですか!」

手伝いの子と称して花嫁候補ってゆず子さんに聞いた。

天狼さんは申し訳なさそうに言った。

「それは、誤解だ。私はお前を客人として迎え入れるつもりだったがどこかの手違いで、お前をそのように扱ってしまった」

「…そう、ですか」

あれ?

ここは安心する所なのに私は気持ちが落ち込んだ。

「灯花?」

名前を呼ばれて明るく言った。

「あっほんとに大丈夫です!たぶんいい経験になったと思いますので!」

天狼はそんな灯花の様子に肩を落とした。

「無理をするな…さっき泣いていただろう」

「…そっそれはっ!」

「それに、色々あってお前は混乱していた。その上、いきなり連れて来たんだ。無理もない。」

「…………。」

それを言われて何も言えなくなった。

天狼さんの言う通りだったからだ。

「お前をここに連れて来たのは此度の件をきちんと話せばなと思ってな」

「えっあっ」

保健の先生のこととあの化け物ことだ。

もうただの夢ではないことを言っているのだろう。

「……もう夢じゃあ、ないんですね」

「そうだ。お前の夢は全て現になった」

もう言い逃れはできないのだろう。

ここで分からず逃げてしまうときっと後悔すると思った。

「……聞かせてください」

天狼さんは少し困った顔をして言った。

「いいのか?お前にとって耳を塞ぎたくなる話だぞ。」

「構いません。」

天狼さんは私の迷いのない返事に少し驚いた様子だったが次第に「わかった」とそう言って話始めた。

「ならばまず、灯花は何が聞きたいか?何を知りたいかこの天狼に話すとよい」

私にとっては知りたいことは。

「どうして、保健の先生が私を…殺そうとしたんですか?」

あの時のことは鮮明に覚えてる。

優しかった先生がまさかあんなことを…

今でもあの言葉を思い出す。

あなたが死ねばよかったのにと。

天狼さんは答えた。

「あれは、私があの者の娘を殺したからだ」

「!?っ……そう、なこと」

ないですよね…?

突然の事に後悔した。

まさか人殺しは本当だった?

「…だが、実際は死体だ」

「えっ?」

話が読めない。

「私は、死体を殺した」

「えっとどうことですか?まさか、ゾンビみたいに生き返ったなんてこと…」

天狼さんは少し傾けて言った。

「今は、死体が動くことをぞんびと呼ぶのか?」

「ああはい、そうです」

「そうか、ならばそのぞんびを私は殺した」

「あっはい…」

なんだこれ。

「要するに最初からお前を餌として利用していた。しかし、それが失敗し私があの者のぞんびを殺してしまったことに強い怒りを覚え、お前を襲ったのだろう。ようは復讐のようなものだろうな。」

「先生が復讐…」

「誰にでも身内が亡くなれば、冷静にはなれん」

先生の娘さん。

きっと、私と歳が近かったと思う。

大量の毛虫と共に現れた先生の娘さん。

最後は天狼さんが刀で斬って灰となって消えてしまった。

「どうして…先生の娘さんがゾンビになってしまったのですか?」

「死体は、そのまま死体だ。だが、その死体を操るモノがいる」

「死体を操る?」

「そうだ、それによって死体は動く。そして、死んだことを忘れたように生きるようになる」

「まさしく…ゾンビ?」

「ぞんびだな」

リアルゾンビきた。

「その、死体を操るモノってなんですか?」

むしだ」

「虫?」

「正確には、地獄蟲じごくちゅうと呼ばれる蟲だ」

「じごくちゅう?」

「地獄蟲は死体に卵を産み付ける、そして孵化し膿蟲うじとなる」

「ウジ虫のことですか?」

「普通のうじ虫と近いかもしれんが、こちらはもっと性質が悪い。死体を操るすべを知っている。操った死体を使い、己の糧になる餌を集めて喰う。そして、成虫となり、次の死体に卵を産み付けて数を増やす」

なんだかすごく気持ち悪い!

ウジ虫だけでも気持ち悪いのになお気持ち悪さが引き立つ。

「…まるで寄生虫みたいですね」

「そうだな、寄生虫のようなものだと思えばいい」

死体を苗床にするむし

地獄蟲じごくちゅう

死体を操る膿蟲うじ

「天狼さんは、その蟲退治をしているんですか?」

「そうだ」

「じゃあ、天狼さんはあの夜、パーティー会場でも蟲退治を?」

「あれは…そうだな…」

うん?ちょっと天狼さん言いにくそう…

「その日もお前を巻き込んでしまった」

「ああ、気にしないでください!天狼さんはちゃんと守ってくれましたから!だから、大丈夫です!」

「お前は強いな」

「え?」

私が!まさか!ずっと泣きっぱなしなのに?

「普通の人ならば、精神を病んでしまう出来事ばかりだ。何度、命の危機にあってもお前は壊れずにいる。心を保つことは難しいことだ、道を外すこともある。関わらずお前はずっとそのままだ。とても強い子だと私は思う」

「……私、泣いてばっかりですよ。さっきだって天狼さんいなかったらどうしょうと不安だったし」

「それでも、つよい子だ」

天狼さんに褒められるとやっぱりうれしい。

すると、天狼さんから頭を撫でられてくすぐったい。

「しかし…。」

「うん?」

天狼さんは撫でていた手を止めた。

「お前は私の術をよく解けたな」

「じゅつ?」

「私はお前に術をかけた。ようは暗示だ。一度目はお前を隠すために、二度目は記憶を忘れるために。」

「じゃあ、おねーちゃんが天狼さんのことを覚えていなかったことも、あれも天狼さんの術?」

「私は、お前にしか術をかけてない。お前の姉とその場にいた者には、私の仲間たちが術をかけた」

「…そうなんですね」

「あの時は、幽世と現世が混じり合い、会場内にいた全員が幽世に入った。ほとんどの者がぞんびを見てしまっていた。下手をしたら会場内いた者全員喰われていたかもしれなかった。だからこそ、仲間たち総出で対処してもらった」

「なんか知らないうちに、大変なことになっていたんですね。あの!天狼さん!」

「うん、なんだ?」

「あの時は助けてくれてありがとうございました!」

私は深々と頭を下げた。

一番これが言いたかった。

「そして、今回の時も助けてくれてありがとうございました」

天狼さんがいなかったら私は死んでいただろう。

ずっと、今日まで助けてくれて本当にありがとう!

天狼さんはふと笑って言った。

「どういたしまして」

私はゆっくり顔をあげると天狼さんは優しく微笑んでいた。

気持ちが心にこもる。

ああ、私は天狼さんの事が好きなんだな。

こんなに笑ってくれる人なんていままでいなかったから、私は天狼さんのことを好きになってしまったんだな。

「…私は、パーティーのあと姉から天狼さんの事、知らないことになってしまって夢なんじゃないかと思いました。それに、もう会えないんじゃないかと思いました」

「それはすまないことをしたな、まさか、お前が私の事を覚えているなど知りもしなかったのでな」

「いいえ、覚えててよかったと思います。確かに嫌なことばかりだったけど、天狼さんのことだけは特別でした。私の中に天狼さんがいなかったら私はきっと今頃、心は壊れていたと思います」

きっとずっと壊れたままだった。

「だから、私の記憶を消さないでください。お願いします!」

これからも覚えていたい。

ずっと。

「灯花、私はもうお前の事を消せはしないのだ」

「…え?」

「どういうわけか、私の術が効かぬのでな」

「じゃあ。」

「だが、人は誰にでも忘れたいこともある、それだけは覚えてくれ」

「はい!ありがとうございます!」

私は頭を下げた。

「ところで、灯花」

「はい?」

「私たちのことは聞いたのか?山犬のことだ。先ほど、道司みちつかさと話をしていたが、怖くはなかったのか?」

「あっ大丈夫でした」

あの真っ白いオオカミのことかな。

「あの、山犬のことはゆず子さんから聞いたのでだいたいは聞いたです。だから、オオカミが喋ってることは大丈夫です」

「そうか、それはよかった」

天狼さんは安堵したようだった。

「あの、天狼さんもオオカミになれるんですよね?」

天狼さんはきょとんとしたが次第に怪しい顔をした。

「えっと…天狼さん?」

着物の襟を掴んで、首筋を私に見せてきた。

「なんだ、見たいのか?」

「つっつつ謹んでお断りします!」

何してんだぁ!

天狼さんはまたきょとんして今度は残念そうな顔した。

「そうか…」

ほんとに残念そうだ。

今でも着物を脱ぎそうだったからやばかった。

脱ぐなよ頼むから。

内心動揺してたがあることを思い出した。

そういえば、天狼さんはうちの高校の先生になっていた。

蟲退治に関係あるのかな…

だからって私に、げろを吐かせたのは解せなかったが。

「天狼さん」

「なんだ?」

「どうして、先生になったんですか?」

「……なんとなく、かな?」

なんとなく職業決める人始めて見た。

「実のところは、隆二りゅうじ殿に頼まれたのでな…」

「りゅうじ?」

「田中隆二。お前の担任のはずだが…」

田中先生ー!

確かバイク事故で入院中のだった。

「どうして、田中先生が?」

「その…隆二殿を引いたのは私だ」

「はい!?」

田中先生!!

「私は、その、あれだ、車の運転が苦手でな…つい」

ついって!

「お陰で、せっかく取れた免許を剥奪されてな…残念だ」

一体どんな運転を?

「まあ、車の運転が出来なくても、足があるからいい」

天狼さんはぷいっと向いた。

なんかふてくされていません?


 しばらくして、襖から女性の声がした。

「天狼様、月子つきこでございます」

「うむ、入って参れ」

「失礼いたします」

襖が開き現れたのは、紫の着物を着た女性だった。

女性はどうやら、お茶と茶菓子を持って来たようだった。

「天狼様、お話の間にお茶をと思いまして…」

「そうだな、月子殿助かる」

「はい、天狼様。そして、この場をお借りして客人にご無礼を致しましたことをここでお詫び申し上げます」

「…えっあっ!そのもういいです!気にしないでください!私、そのお役に立てずに泣き出してしまって、こちらこそすみませんでした。それに元々、私がちゃんと言えばこんなことにならなかったですし…。だからすみませんでした」

頭を下げると、少し笑い声がした。

「まあ、お優しい娘さんですこと。天狼様は隅におけませんね」

「えっと?」

「月子殿、それくらいにしてくれ…」

「仕方ないよねー!天狼ちゃんが女の子を連れて来るんだもん!いっそのことうちに来るー?」

突然出てきたのは、銀色の短髪をした青年だった。白の着物と羽織を着ていて、扇子を持っていた。深い青の瞳が私に向いていた。

「やっほー!先ほどぶりだねー!」

「えっと!?」

こんな人会ったっけ?

道司みちつかさ、お前いい加減にしろ。元はと言うとお前が勘違いして灯花をそのような扱いをしたのだろう。」

「かんちがい?」

「だってー!珍しかったからーついね!…千鶴さんには僕が言ったんだ、新しく入った子って。彼女に悪気はないよ、だからごめーんね!」

誠実風に見えて中身はまったくチャラい。

「はあ…」

でっ誰なんだろう…

「あれー、まだわかんない?僕だよ!かわいいオオカミだったでしょ!」

オオカミって…あの白いオオカミ。

「ああ、あのチャラいオオカミ…」

「チャラいって!」

「ちゃらいとはなんだ?」

「天狼様、浮ついた人のことを指しますわ」

「ほう、確かにちゃらいな!」

「月ちゃん、月ちゃん、そんなこと天狼ちゃんに教えないで!」

そんなやり取りがあったあとだった。

「とりあえず、僕は久遠道司くおんみちつかさ、ここの神使をしているよん」

しんし?

「神使ってね、神に仕えてる動物のことなんだよー。まあ、狛犬みたいなことだよん」

「狛犬って神社でよくある、あれですか?」

「そう、あれ」

そういえば、天狼さんは神さまみたいな存在だと言っていた。

「…天狼さんの?」

ぼそっと言ったつもりだったがきっちり聞こえたみたいだった。

「いや違うよ、僕はここの土地神に仕えてるよ。うちの水神様をよろしくー!」

神様に仕えてる山犬もいるんだ。

神社の神主みたいなことをするのかな?

「そうですか…」

「そして、こっちの美女は」

紫の着物を着ている女性だ。

おっとりそうな女性だ。

伏見月子ふしみつきこと申します。どうか月子と呼んでくださいませ。」

こちらも自己紹介をしなければ。

「朝峰灯花と言います。よろしくお願いします。」

私に今起こっていることはだいたいわかった。

だけど、これから私はどうなるのだろう? 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ