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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第四章 走らなきゃだめですか…天狼さん。
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指切りトンネル。(その17)灯花視点。

 灯花は目の前の光景に息を呑んだ。

これからどうするか、そんなの決まっている。

逃げるが一番。

天井にへばり付く白装束の女性から壁ギリギリまで距離を取り、そこから、壁を伝って通る。

私はゴキブリ…私はゴキブリ…。

出来るだけ蟲ぽく、ゴキブリぽく、移動する。

そうして、気づかせないように先を進むと…。

何事もなく白装束の女性をやり過ごせた。

やればできるじゃん!

内心ガッツポーズ。

だけど、耳障りな骨を掻く音がいつまでも鳴っていた。


 灯花は地面をライトで照らしながら進んだ。

もしかしたら、他にも落ちているかもしれない。

あの扇子さえあれば、襲われてもワンチャンスある。

今考えたら、私ものすっごいことしてたんだな…。

扇子から火の粉が出ては、膿蟲を焼いたのだから、驚きだ。

それに…。

まさか、私の右目が四次元ポケットだったとは…恐るべし。

今度、綾女さまにお礼いっとこ。

白装束の女性とかなり距離を取れた所で、靴音が鳴った。

革靴の甲高い音だった。

「…誰か、いるの?」

灯花はライトを遠くに向けた。

すると、男性の声が聞こえた。

「……生きていたのね、運がいいこと」

「……?」

灯花は耳を潜ませた。

ライトを左右に動かし、声の居場所を探した。

探していると真後ろに気配を感じて、後ろを振り返ると黒スーツを着た男性が立っていた。

「………ひゃ!むぐっ!むぅう…」

驚いて叫び声を上げそうになった時、いきなり、口を塞がれた。

「死にたくなかったら、口は閉じることだ…」

灯花の口を塞いだのは、眼鏡をかけた男性だった。

この人、確か…もう一人の山犬さん…?

喪服のような黒スーツ、腰には刀を差していることから、間違いなく山犬だ。

そうとわかれば、灯花は返事をするため首を縦に振った。

山犬はゆっくりと灯花を離した。

彼は前に会った時と同じ、厳しい態度のままだった。

無理もない、こんな所に高校生がいるんだ。

自然と叱りつけるように厳しくなるのは当たり前だ。

「それで、一人なのか?もう一人いただろ?」

…川村君の事だろう。

灯花は正直に言葉を出した。

「その、川村君とははぐれちゃって…」

「そうか…なら、私と同行してもらう。ここは危険だ」

そう言葉を出して、灯花の腕を掴んだ。

「わっ!」

掴まれて驚く、まさかこうなるとは思っていなかった。

山犬はこれ以上の事を灯花に問い詰めることなく、先へと歩き出した。

引きずられるように連れて行かれ、灯花は不安を覚えた。

山犬にどこへ向かうのかと問う。

「あ、あっあの!」

「……なんだ?」

じろりと睨み付けられ、灯花は怯えるように言葉を出してしまう。

「い、いえ…」

なんだろう…この人、怖い。

灯花はが怖気つき、そのまま、連れられて行った。


 しばらくすると、トンネル内に再び、地面を引っ掻く音が鳴った。

灯花は引っ張られながら上を見上げた。

また、あの女の人が引っ掻いているの…?

ガリガリガリ…。

ガリガリガリガリ。

すると、山犬の口から言葉が漏れた。

「そろそろ潮時ね…」

「…?」

口調が変わった気がした。

山犬の顔つきも雰囲気も至って厳しいままだ。

気のせいよね…でも、なんか違和感がある人だな…。

灯花はそう思っていると山犬は、突然立ち止った。

「…むぐっ!」

上を見ていたせいで、山犬の背中に顔をぶつけてしまった。

「すみまっひゃあ!…なっ!なに!?」

灯花は慌てて謝ろうとした時、頭に何かの雫が降って来た。

それを触れるとぬるりとした透明な液体だった。

灯花はもう一度上を見上げるとそこには…低い音と共に現れた。

「ああ…ああ、、、ああ、ああ…ああ、あ…」

膿蟲だ。

白装束の女性と同様に大学生くらいの男が、天井に張り付いていた。

だが、その見た目だけが違っていた。

異様に首を長くぶら下げ、四つに裂けた口を大きく開いていた。

透明な液体は、その口から零れたものだった。

灯花はその正体にあまり驚きはしなかったが、身を危険を感じた。

「あ、ああ、あ…あああ、ああ、ああ…」

「…ああ、、、ああ…あああ…あああ、、、あ…」

「ああ、あああ、、、ああ…あああ、、ああ…」

「…うそ、何体いる、の…?」

白装束の女性と真上にいる男の他に、奥に何体かいるようだった。

ガリガリガリと骨を引っ掻きながら、こちらに近づいて来ているようだった。

そして、膿蟲達の前にも全く反応しない、灯花の前にいる山犬。

それはそれは、奇妙で悪寒を覚えるものだった。

「…まだまだ、試作段階だったのよね。形だけを模試しても、やっぱり、オリジナルとかけ離れている」

「…何を、話しているのですか…?」

灯花はつい言葉を滑らせてしまった。

すると、腕を掴んでいる手に震えがあった。

…笑っているの…?

山犬は肩を震わせながら笑っていた。

そして、こちらを向き直っては愉快そうに言葉を出し始めた。

「ふふっふっふ…ごめんなさいねぇ、こっちの話なの。けど…あなた、蟲を見てもあまり驚かないのね。ゆかりがある子かしら?」

灯花は的を射止めらて動けなくなった。

冷たい汗が這った。

普通は泣き叫んでもおかしくない状況だ。

ここでの私の反応は、普通じゃない。

「ワンちゃん達の家族かしら?」

山犬は問う。

灯花は唇を震えながら答えた。

ここでのだんまりは、やめた方がいいと思ったからだ。

真上にいる膿蟲がじっと私を見ている。

「ちがう…」

「そう…」

山犬は女性のような振る舞いをした。

灯花は気づく。

山犬の口調がオカマ口調だと。

そして、山犬の姿をしているけれど、中身は違う人だという事を。

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