指切りトンネル。(その11)川村視点。
マイペースで投稿してます。
遅くて、すまんでござる!( ゜Д゜)
川村は、近づいてくる白装束の少女に恐怖していた。
こいつ、ヤバい…!
口元から赤い液体をこぼしながら笑う少女は、見るからに狂っていた。
川村の身体は既に震えて動けなくなっていた。
それを見透かしているのか少女の歩みは止まらず、獲物を見るような目でこちらを射止めていた。
「くっへへぇー!」
イカれた声が洞窟を満たしながら、少女は血に濡れた口を開いては襲って来た。
「……っ!!」
川村はとっさに身構え目を瞑ったが、石壁に叩き付ける派手な音を聞くと大きく目を見開いた。
「おいっ!シャキシャキ動け!このウスノロ!」
その声の持ち主は、先の程まで鬱陶しく思っていた奴だった。
「けん、き…か?」
霧状の影から巨大な黒い手が現れていた。
その手は、まるで巨人の手。
人を簡単に握りつぶせる5本の指を持っており、墨のような黒い肌に紅く濡れた鋭い爪を持っていた。
硯鬼は、襲ってくる白装束の少女を石壁に叩き飛ばしていた。
川村は震えていた身体を動かす。
「……うっせーよ!」
この場から離れようと足を動かすと、不気味な笑い声が上がった。
「くひゃひゃひゃあはぁっ!」
「あいつ、生きてんのか…!」
あの衝撃で無傷では済まないはずだが、少女はむくりと起き上がった。
「化け物…!」
川村は落ち葉を蹴っては、走った。
開けた空間から更にその奥を目指す。
川村はライトと硯鬼を落とさないように力を入れる。
この二つが頼みの綱。
川村は奥へと向うとその先は、絶望的だった。
「行き止まりかよっ!ちきしょう!」
洞窟の先は大岩によって塞がっていた。
このままでは、まずい…!
奴はケラケラと笑いながら、こちらに向かって来ていた。
「おいっ!硯鬼!お前の力であいつをどうにか出来ねぇか?」
「けけっオレ様に頼るのか?そいつはお門違いだぜ」
「なんだと?おまえさっき、助けてくれただろ!」
「おいおい、人間の小童がオレ様を使うなんざ、千年はえーよ」
「言っておくが、お前が力を貸してくれねぇと、このままあいつの餌食だぜ…!それも、瓶から取り出して、お前の頭からせんべいみたいにバリバリと…」
川村は硯鬼に半ば脅迫めいた言葉をかける。
何としても硯鬼の力を借りたい。
今、この状況を何とか出来るのは硯鬼だけだ。
「ただとは言わねぇよ…その大岩だけでもどかしてくれたら、貸しを一つやっていい…」
「ふんっ!なら聞くが、オレ様が岩をどかしている間、お前はどうする?あのババアとやり合う気か?」
「やるしかねぇだろ…!つーか、ババアってなんだよ?」
そうこうしているうちに、少女はすぐ近くまで来ていた。
川村は大岩の方に硯鬼を転がしては、注意を引く為に大きく落ち葉を蹴った。
「おい悪食野郎!腐ったミカンでも食わしてやる!」
その挑発に少女は反応し、楽しいそうに口を開いた。
硯鬼はしかたなーく、塞いでいる大岩をどかすことにした。
小童が喰われても、封印されている以上どっちみち己の自由はない。
なら、マシな方を選ぶに決まっている。
小娘との生活は、あの暗い箱の中より、なかなかマシな方だったし。
「小娘のねーちゃんは、おっぱいもケツもよかったしな…」
…また、拝みたい。
硯鬼は周りに漂っている血の粒子を使い、巨大な鬼の手を創造させる。
硯鬼は血を司る鬼。
チヲ…チヲ、集めよ…。
硯鬼が大岩をどかしている間、川村は白装束の少女の注意を引いていた。
少女が川村に襲ってかかって来た時、瞬時にライトの光を強くした。
川村は少女の目に当てては、目くらましをする。
「だてに、高いライトを持って来てねぇんだよ!」
少女は急な光に当てられて呻いた。
ずっと暗闇の中にいたのだ。
急な光には弱い。
だが、それは一時的なもので、あまり時間稼ぎにはならない。
川村はすぐに少女から離れた。
すると、呻いていた少女が再び笑い出し、こちらを獣のようにぎらついた目で見ていた。
「やっべ…!本気にさせちまったか…?」
狂い笑いをする少女は、獣のような鋭い爪を立てながら再び襲いかかる。
どんなに川村が少女から離れてもすぐに追いつかれ、襲いかかる力に川村は押し倒された。
「……うぐっ!」
大量の落ち葉が舞う中、落ち葉に埋もれながら首に喰らいつこうとする少女に、ライトを銜えさせ押し返す。
バキバキとライトが割れる音を聞く。
押し返す腕が痺れて来ていた。
「お、まえ、なんつう…ちから、、つえーんだよ!」
川村は少女の胴体に蹴りを入れる。
だが、蹴る威力は少女の人離れした身体には、まったく通用しない。
「くっそ、う…」
バキバキとライトが割れて行く。
ライトが割れれば、そこでおしまいだ。
光と首を失うことになる。
「なに…が、指、だよ!」
指喰わねーじゃん!
少女はガッツリと首の根を喰らいに来ていた。
「早く、しろ…!硯鬼!」
さっさと岩をどかして、こっちを助けてくれ!
硯鬼はようやく隙間をこじ開けた。
だが、人が通れる隙間を作るのは、まだまだかかりそうだった。
「くっそう…!」
川村が限界の声を上げそうになった時、風が鳴った。
それは、塞がっていた岩の方からやって来た。
硯鬼が開けた隙間から、するりと茶色いモノが現れ、そのまま白装束の少女の首に喰らいついた。
「……っっ!!」
「グルルル…!!」
少女は喰らいつかれ、横転。
川村は押し倒された身体を起こす。
「……マジか」
茶色いモノの正体は、オオカミだった。