指切りトンネル。(その10)灯花視点。
遅くなってすみません!(o*。_。)oペコッ
灯花は彼女の最後の言葉を聞いていた。
「高かったのよ……高かったの…」
赤い水たまりに、二つに割れた彼女の半身が映る。
もう一つの半身は既に火によって灰になっていた。
灯花は彼女に問う。
「何が、高かったの?」
彼女は動かない唇で言葉を出した。
「…はじ、めて、買った、くちべにが…」
彼女の言葉はそこで終わりだった。
だが、灯花はその言葉だけで理解し、ジャージのポケットから黒いスティクを取り出すと彼女の目の前に置いた。
「今度は、落とさないでね」
すると、赤い水たまりに映った半身は安堵の表情を浮かべ、灰の雪と共に静かに消えて行った。
初めて買った口紅は、高価な物だったのだろう。
今まで頑張った自分へのご褒美に。
綺麗になる為に。
自分の自信と強さの為に。
それがあったからこそ、この恐ろしい場所まで迷い込んだのだ。
灯花が振り返ると、山犬は刀を落としパタリと倒れた。
「…!、しっかりしてくだい!」
灯花はすぐに駆け寄った。
まだ息はある。
だが、大量の出血と腹には穴が空いていた。
膿蟲に吸われていたのだ。
内蔵を傷つけられた可能性があった。
「どうしょう…と、とにかく!手当てを…!」
灯花が山犬の痛々しい身体に触れると途端に身体の形状が変わった。
「……えっ!?」
黒スーツ中から、白が混じった黄土色のオオカミが現れた。
そうだった…。
彼は人狼だ。
本来の姿はこちらなのだ。
「しっかりして…!」
灯花はリュックから救急箱を取り出しては、できる限りの応急処置をした。
だが、処置をしても、このままにはして置くわけにはいかなかった。
オオカミの意識が朦朧としている今、油断が許さない状態だ。
早い所、ここから出ないと…!
灯花は周りを見渡しては、今の状況を見た。
「崩れないの…?」
膿蟲を倒した今、あの廃ビル同様に幽世は崩れるはずだ。
「まだ、この先にも何かいるのね…」
膿蟲となった彼女は被害者だ。
だとすると、必然的にこの指切りトンネルの元凶はまだ存在している。
灯花はオオカミを撫でながら、思考を巡らせた。
まずは、行動を決めよう。
自分は馬鹿だから、行動しながら色々と考えるのが得意ではない。
だがら、自分が先にすることを考えよう。
最初にすべきことは、負傷した人を放置するわけにはいかないことだ。
この場には私しかいない、私がこの人を守らないと…!
次にすることは、脱出だ。
早い所、病院に連れて行かないといけない。
時間が経つごとに命は削られている。
そして、行動の一つに諦めることがある。
今も彷徨っている川村君と硯鬼は申し訳ない。
…置いて行くしかない。
このまま、彼らを探しても彷徨うだけで、刻々と命の時間が削られるのだ。
心苦しい決断だ。
だが、彼らが生きていることを信じて行動するしかない。
灯花は考えをまとめる。
最初は、山犬の様子を伺いつつ脱出を目指そう。
そして、川村君達が彷徨っているのなら……例えばそう、合流目的で進むのではなく、脱出を求めて進んで行けば、もしかしたら合流できる可能性はあるんじゃないか?
川村君ならきっと、出る方法を探すはずだ。
そこを信じて行くしかない。
灯花は自分の手首を出しては、オオカミに向かって言葉を出した。
「山犬さん、私の血を飲んでください。ここから一緒に脱出しましょう」