指切りトンネル。(その1)
指切りトンネル。
そのトンネルは山にひっそりと存在していた。
今は使われておらず、それを進んで利用する人はいない。
そんな廃れたトンネルに奇妙な噂がある。
真夜中にその廃トンネルを通ると白装束の少女が現れる、その少女に会うと指をすべて食べられてしまうというもの。
噂は昔から伝わったものであり、灯花達も耳にしたこともあった。
そのトンネルが出来るだいぶ昔、山は捨て山と言われていたこともあった。
昔、貧しくて養えなくなった子供達やお年寄りを山に捨てるということがあったそうだ。
風習ではなかったが、山のふもとに住む村人達は、こぞって捨てていたそうだ。
当時は、飢饉や疫病などがあった時代だ。
そう言われている山は一つ二つではない話だろう。
時が進むにつれて、時代は近代化。
より便利さを求めて、山に穴を開けトンネルを作った。
そして、トンネルは普通に使われていたが、悲惨な事故が相次いで起きていたらしい。
事故は不可解なことで、トンネル内を自動車で運転していると突然、白装束の少女が現れ、指を食いちぎられるというもの。
運転の操作による事故で指を失ったのではないかと思われたのだか、指すべて無くなるという不自然な失い方だった。
そして、切断されたはずの指さえも無くなっていたそうだ。
そこで、その話を聞いた山のふもとに住んでいた元村人達がこれは、祟りではないかと言い出した。
そのことがきっかけで、不吉なトンネルと言われ、指切り、または地元の人は指食いとも言われた。
こうして、廃トンネルは心霊スポットとして有名になり、そしてごく最近、その指切りトンネルに心霊スポットとして訪れた若者の何人かが行方不明になったそうだ。
時間はお昼ごろ。
灯花達は、指切りトンネルの前まで来ていた。
ここまで、電車の乗り換えと長距離の徒歩に耐えた。
「やっと、たどり着いた~」
灯花が言葉を漏らすと川村は少し呆れながら言葉を出した。
「これくらいの距離、余裕だろ?体力ねーなー」
「そんなこと言われても、遠いよ~」
むしろ、公共とか使えばよかった。
灯花はその場に座り込んだ。
トンネルに入る前から、少しバテていた。
「お前がそんな重そうな荷物抱えて来るほうが悪いんだろ?」
川村の指摘に灯花は反発した。
「バカちんがっ!」
灯花が背負っているリュックの中には、必要最低限の物が入っていた。
トンネル内は暗いとわかっているから、ライト。
もしもの為の救急箱。
腹を空かしたらなんたらと食料を。
そして、走りやすいようにジャージ姿で来ては準備は万全だった。
だが、肝心の川村君の格好が非常識だった。
シャレたシャツとダメージジーンズ。
手持ちはライトのみ。
「なんだよ」
「なんだよじゃないよ!幽世なめとんのかっ!」
川村君は己の格好を見ては答えた。
「動きやすい恰好でいいだろ、それに、手持ちは軽い方でいいんだよ」
「バカちんがああ!戦場に行くのにそんな遊びに行くような恰好が許されるか!」
灯花は首に巻いていたタオルを使って、川村君に鞭のように引っ張叩く。
こんな軽装で本当に大丈夫だろうか。
地獄蟲との死のマラソンが待っているというのに…こやつは。