ここは、どこ?(その3)
食事を終えてもう一度、無地の紺の着物の着付けをしてもらっていた。
だいぶ最初のと比べて楽な着付け方だった。
「あんた、今いくつ?まだ十代みたいけど」
「16です。」
いちょう色の着物着た女性、ゆず子さんに着付けしてもらいながら私は答えた。
「そう、まだ若いのに大変ねえ」
「…助けてください…」
ぼそっと言ったが聞こえたみたいだった。
「悪いけど、あんたの事情はあたし知らないから無理」
「そんなあぁー!」
ガックリ、肩を落としていると足元に白っぽい黄色の子犬がいた。
「わ!犬!」
「なに、山犬のことも知らないの?」
きゃんきゃんと鳴いてる子犬を抱っこして、着付けを終えたゆず子さんは言った。
「山犬は、オオカミにも人にもなれるのよ。ねえーまーちゃん!」
まーちゃんって!
「真澄君?」
「そうだよ」
「きゃんきゃん!」
ああーそういえば、天狼さんも一瞬だったけど狼の姿になっていた。
おまけにりんって言う人も。
「まあ、人狼って言った方が分かりやすいか?」
最初は、コスプレだと思っていた。
あの白銀の長い髪と獣耳と尻尾を思い出す。
じゃあ…天狼さんのあの姿は正真正銘、本物だったんだ。
ゆず子さんは子犬を下ろして、近くに落ちてる小さな着物を拾った。
「ほら、まーちゃん!ちゃんと服着なさい!」
子犬は私の周りをクルクルと回っていた。
わあわあ!
「あっちなみに犬って言ったら失礼だから。ちゃんと山犬って言うのよ!」
「あっはい。」
どっかの人も犬って言ったら失礼って言われたような。
バタバタと聞こえてきたら、裸の男の子が回っていた。
「わあ!」
「こら!まーちゃん!」
ゆず子さんは真澄君を捕まえて着物を着せた。
あれ?
「真澄君、人の耳になってる」
さっきまでは、獣耳と尻尾が生えていたのに。
「ああこれね…人狼は本来オオカミよりなのよ。でも、生きていくためには人間と同化しなきゃいけない。オオカミの姿だと人間社会には溶け込めないから、こうして人間に化けて人間社会に混じって暮らしているのよ」
真澄君の人間の耳をつんつんと指でつついてゆず子さんは続けた。
真澄君はくすぐったそうに笑ってた。
「まーちゃんが産まれてた時はオオカミの耳と尻尾が生えていたわ。でもすぐにオオカミの姿になった」
事情を知らなかったら大変じゃないか!
「まあ、出産する前に色々聞いていたし大丈夫だったけど。人狼と人の子は必ず人狼か人かどちらか産まれるらしいから、あんたも頑張りなさいよ!」
「へっ?」
「なにぽけっとしてるのよ!あんたも産むから言っているのよ!」
「えっえええーー!」
何を言ってるのこの人!まだ作る予定はまだまだないよ!
「言っておくけど、ここにいるってことはオオカミの眷属らしいから!誰の嫁になるかは知んないけど、少なくともここの女はみんなオオカミの嫁よ!」
「わたっわたし!結婚するんですか!」
「大抵、連れて来られた女は花嫁になってるけど」
「!!!」
今顔が赤くなっているかもしれない。
「さっさっきまで、お手伝いだとか言ってませんでした?千鶴さんが!」
「だから、花嫁修業」
「なっ!!」
お手伝いの子と称して花嫁候補ってこと!
「きっ聞いてません!聞いてませんよ!」
いつの間にそんなことになっていたなんて!
そうだ!天狼さん!
天狼さんなら何か知ってるはず!
最初からちゃんと聞けばよかった。
「あっああの!私!天狼さんに会いたいです!」」
天狼さんに会えば分かるはず!
「あんた、めったなことを言うんじゃないよ!」
「えっ」
「天狼様には会えないよ!」
「えっ?どうしてですか!」
「天狼様は山犬にとって神様みたいな存在なんだ。私達とってもそれは同じ、下手にしたら首を斬られるよ!」
「はっ!だっだから!どうゆうことですか!天狼さんが神様?そんなの知りません!天狼さんは私の担任の先生です!」
突然、私が叫んだから真澄君が泣き出した。
「あっあんた!」
ここまで巻き込まれて天狼さんに会えないなんて信じられない!
わけがわからない続きでうんざり!
「だったら!会えないなら会いに行く!」
「会いに行くって!あんた!ちょっとどこに行くの!」
もう一度会えばきっとわかるはず!
私は、ゆず子さんの言う事を無視して部屋から出た。