天狼さんがいない教室。(その5)
灯花は川村と一緒に天狼さんを探すことした。
まず、どこから探そう…?
こんなに徹底的に存在を隠されたんだ、そう簡単に見つかるはずはない。
灯花は思考を巡らせた。
「あ、そういえば…」
灯花は制服のポケットを探り始めた。
「どうしたんだよ?」
川村が問うと灯花は急に行動を始めた。
「私、いったん教室に戻るね」
「あっおい!」
川村の言葉を待たずに灯花は教室へと戻って行った。
灯花は教室に戻るとカバンの中を探った。
教室に残っている生徒は私だけで他は誰もいなかった。
「確か…」
…愁さんの電話番号が書いてあるメモがあったはず。
カバンの奥の方でぐしゃぐしゃになっている紙切れを見つけた。
「これだ!」
確かに愁さんから貰ったメモに違いなかった。
「これを使って…って、私携帯なかったんだ…」
失くしたことを親にも叱られたし。
近いうちに買いに行くことになっているが、それまで公衆電話でがまんだ。
灯花がカバンをチャックを閉じようとしたところで、一緒に中に入っている硯鬼と目が合った。
「…………」
「…………」
目線を合わせたまま、お互い固まった。
「……なんかしゃべれよ!」
硯鬼のつっこみで、灯花はようやく言葉を出すことができた。
「あ、しゃべった」
一瞬、カバンのチャックを閉じようかと思ったが、やめた。
灯花は机の上に硯鬼を置いた。
「…なんで黙っていたの?」
「うるせー」
硯鬼はそっぽを向いた。
硯鬼がそんな態度をするのは、私が雑な扱いをしたからだ。
そりゃあね…私だったら、無視をするに決まっている。
「硯鬼、ごめんね」
「…………」
「あなたを禁忌の箱から、連れ出したのは私なのに、無責任なことをした。…これから、きちんとあなたのこと考える」
「…………」
硯鬼はそっぽ向いたまま、振り向かなかった。
まあ、わかっていたけどね。
灯花はカバンを持って、硯鬼を持ち上げた。
硯鬼は見た目こそ、ミイラだがちゃんと感情がある。
これからは、その感情を無視をしないようにしょう。
理解しづらい存在だけど、少しずつ理解して行こう。
…たぶん、当分は黙ったままだけど。
灯花は困った顔をしながら、でも、ちょっぴり笑いながら教室を出た。
そうして灯花と小鬼は、川村君が待っている裏庭へと戻った。
裏庭に戻ると川村君はベンチに座って待っててくれた。
「ごめん、お待たせ」
「…ああ、って、なんだそれ」
「これは、硯鬼。一応、鬼です」
硯鬼を川村君に見せた。
「ゲテモノ好きな女子はいるって聞いたが、間近にいたか」
「それは、どういう意味?」
「趣味わりー」
「失礼な!」
「それで、何しに行ったんだ?」
灯花は川村君にメモのことと愁さんのことを話した。
「その愁って奴は、お前の知り合いなんだな?」
「うん、困っている時に助けてくれたんだ」
「ふーん、じゃあそいつに連絡取って見るか」
灯花は川村から携帯を貸してもらい、電話をかけてみる。
「…………」
「どうだ…?」
川村君に問われるが、答えられるはずもない。
灯花は顔を横に振った。
「時間を置いて、もう一回試してみる?」
「いいや、実際にそいつに会いに行った方が早いだろう。確か、車売りだろ。もしかしたら、公園にいるかもしれないしな」
「それもそうだね」
繋がらなかったのは、忙しいかったかもしれない。
灯花は携帯を川村君に返した。
だが、灯花達が公園にたどり着いても、車売りの愁さんの姿はなかった。