天狼さんがいない教室。(その1)
冬休みが明けた。
正月の話題で、クラスは盛り上がりを見せていた。
そんな賑わいの中、ぽつんと席についているぼっちがいた。
灯花は、下を向いた。
どうしょう…わたし、浮いてる。
久々の学校で、張り切って教室に入ったものの、その空気に気圧された。
灯花は小さくため息をついた。
結局、真夜は戻ってこなかった。
冬休みが終わるまでには、戻ってくると思っていた。
やっぱり、忙しいのかな…
灯花はちらりと周りを見ては、友達と楽しく会話をしているクラスメイトを見た。
私もあんな風に、喋りたい。
友達と喋りたい。
この羨ましい気持ちは、本当に久々だ。
そんでもって、その気持ちを気づいて、自分でもちょっと驚いた。
中学以来のことだった。
早く真夜と会って、正月どう過ごしていたか聞いてみたい。
私の初夢を聞かせてあげたい。
そんな喋りたい欲求を抱えながら、灯花はチャイムを待った。
チャイムが鳴った時、灯花は顔を上げた。
天狼さんに会うのは、追試以来だ。
あの日は、自分のわがままで帰っちゃったけれど、会ってきちんとお話したい。
人の姿に変えて教卓に立つであろう天狼さんを待ちわびた。
だが、教卓に立ったのは、別の先生だった。
女性の先生で、国語の先生だった。
国語の先生は言葉を出した。
「田中先生は、再入院しました。みんな、田中先生がいなくても、この3学期一緒に頑張りましょうね」
田中先生のことはわかった。
だけど、天狼さんのことを誰一人、言葉に出す人はいなかった。
天狼さんは、学校の人気者だ。
話題に出さないはずはない。
「あ、れ…?」
灯花は違和感につい言葉を漏らしてしまった。
自分だけ、世界が違うような感覚だった。
息がつまりそうになった。
まるで、天狼さんは最初から存在していなかった世界のようだった。