小さな波紋。(その7)
ちょっと過激な内容が入っています。
ご注意ください。_(._.)_
社の中は灯りが消えており、辺りは闇に包まれていた。
道司は、警戒しながら中へと踏み込んだ。
中は、むせ返るほどの血臭が昇っていた。
血臭の若さで、こちらが血に酔いそうになる。
床をゆっくりと踏みしめると、軋む音と共に水の音が聴こえていた。
道司は目を細めた。
夜闇でも辺りはよく見えていた。
獣達やその他の生き物たちの死体がそこら中にあった。
道司の足元にもそれはある。
道司はそれを踏まないように足を運んだ。
天井の梁まで、死体がぶら下がっていたのを認識しながら進んで行く。
すると、進むにつれて咀嚼音が響いて来た。
近づくにつれて、その正体が露わになった。
その光景を見た道司は、何とも言えない気持ちになった。
あまり見たくなかったな…。
人狼としてそれが本性だとしても、彼の半分は人だ。
「……勝馬」
彼は天狼の護衛を務めていた。
そんな彼がオオカミの姿となって、死体を貪っていた。
黒狼がこちらに気づき、食事をやめた。
ぽたぽたと口元から、赤い液体をこぼしながら威嚇しだした。
その威嚇に反応して、複数のオオカミ達が影から現れ出した。
彼らもまた山犬であり、家族だ。
オオカミ達は、新たな獲物だと言わんばかりに目の色を変えた。
もう彼らの意識は神祖に乗っ取られていた。
道司は、懐から扇子を取り出した。
白く銀色の扇子は、竹や木では作られておらず、特殊な金属で作られた一品。
道司は、オオカミ達に扇子を向けた。
「僕だってね、一応君たちの長なんだから、ね」
道司が行動を起こすとオオカミ達はいっせいに襲いかかって来た。
襲って来たオオカミ達の一体に扇子で頭を叩き付け、喰らいつこうとするもう一体の攻撃を横にそれて避ける。
扇子を構え直し、オオカミの胴体に叩き付ける。
道司の反射でオオカミ達は怯んだものの、すぐに態勢を戻してしまった。
「あ、やっぱダメ?」
彼らに啖呵を切ったものの、道司にはオオカミ達を倒せる腕力がなかった。
ゴリラ並みの力がないと、彼らを気絶させることができない。
かと言って、術に頼っては彼らを燃やしてしまうのはいただけない。
つまりこれは…
「やばいね」
道司がそう呟くと黒狼が道司に襲いかかって来た。
道司は、扇子で防御しょうと動いた時。
派手に床を蹴る音が響いた。
「勝馬あああーー!!」
それは、声と共に襲い来る黒狼を殴ったのである。
道司は驚いた。
「まー君!」
正俊は息切れながら、道司の前に立っていた。
「みっちゃん!だいじょうぶ?」
「あ、うん…」
道司は彼の強い意志に驚いていた。
神祖の意志に反して行動している。
山犬の中でそれが出来るのは、ごく少数。
彼がそうだったことに、道司はありがたさを感じた。
そして、それがもう一人いた。
彼女は他のオオカミ達を一撃で倒していた。
「美鈴ちゃん!」
「…………」
返事はないが、彼女は頷くだけの反応をした。
あまり顔には出さない彼女だが、今は少し辛そうだ。
彼女なりに、神祖の意志と戦っているのだろう。
「美鈴ちゃん…」
道司は名を呼ぶくらいしか出来なかった。
美鈴はそんな道司をよそに、襲ってくるオオカミ達と対峙していた。
すると、いつまでもぼーとしている道司に美鈴が言葉を出した。
「行って!」
「そうだよ!みっちゃん!」
正俊も言葉をかけ、道司を促した。
「ごめん、二人とも!」
二人に言われて、道司は奥へと向かった。
残された正俊、美鈴は正気を失ったオオカミ達と向き直り言葉を出す。
「美鈴ちゃん、今度デートしない?」
「断る」
場の空気を読まない正俊といつだって平静の美鈴の会話だった。