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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第四章 走らなきゃだめですか…天狼さん。
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小さな波紋。(その5)

 社の灯が消える数時間前、久遠道司くおんみちつかさは、現世うつつよで子供達と一緒にマシュマロを焼いていた。

「やけた~」

「焼けたね~」

道司は、子供達が上手にマシュマロを焼いているのを見ては、微笑みながら見守っていた。

水神を祀る社で初詣が行われる中、参拝者に甘酒や焚火などを提供をしていた。

山犬や奥方達は、その提供の為に働いていた。

そんな中、道司は山犬の子供達を連れて、くじを引いたり、焚火でマシュマロや餅などを焼いては、過ごしていた。

断じて、サボっているわけではない。

子守りと言う仕事をしている。

一応、道司はここの宮司だが、断じて、サボりではない。

色々と宮司として、やらないといけないが…

難いことは、適任している人がいるのでその人に任せている。

そんでもって道司は、のほほんと正月を楽しんでいた。

そんな道司に言葉をかける老人がいた。

「こんばんは、久遠さん」

「ああこれはこれは、頼本さんじゃないですか。こんばんは」

「今年もいい賑わいですな」

「おかげ様です、これも頼本さんがお力を貸していただいたおかげです。たくさんのお米、本当にありがとうございます」

「いえいえ、こうして参拝の人たちが楽しんでいくれたなら、この上ない喜びです」

「そんなそんな」

「いえいえ」

「ところで、頼本さんご入院されていたとか」

「ええ、もうこの年ですしお迎えが近いかもしれません」

「そんなこと、おっしゃらないでください。まだまだ、これからではありませんか」

「そうですねぇ……でも、今年もまた、こうして来られただけでも、嬉しいものです」

「いい事でもあったんですか?」

「孫が遊びに来てくれたんですよ」

「それはそれは」

「都会と比べて何にもない田舎なのに、言ってくれたんですよ、じいちゃんの餅が食べたいって、そう言ってくれただけでも、生きたかいがあったもんです」

「良かったじゃないですか、お孫さん結構、喜ばれたんじゃないですか?」

「はいそれはもう…初詣も一緒に来てるんですよ」

「そうなんですか」

「はい」

老人は嬉しそうに語り、お孫さん達と一緒にそのまま帰って行った。

道司はそんな彼らを眩しそうに微笑みながら見送った。

深夜の初詣の中、疲れたのか子供達の中で眠たそうにしていた子が出て来ていた。

そろそろ限界だろう。

屋敷に居ても、誰もいないから連れて来たけれど、さすがに疲れがピークだ。

道司は、子供達を屋敷に帰すことにした。

もう十分遊んだし、満足だろう。

明日には、明日の楽しみが待っている。

きっと、またはしゃいでくれる。

それは、道司なりの楽しみの一つだ。


 道司は、子供達を寝かしつけた後、屋敷内を少し見回った。

山犬達のほとんどが出払っていて、静けさだけが残っていた。

すると、明日の準備をしていた国光くにみつと出くわした。

外で炊き出しをする為であろう。

国光は大きな鍋を抱えていた。

それに足して、真面目な彼に似つかない恰好が目についた。

スーツの上にピンクのフリル付きのエプロンを身に付けていた。

「愉快なエプロンだね」

「これしかなかったんです。何かご用ですか?」

「いえいえ、なーんにもありません。とにかく、国みっちゃん」

「なんです?」

「ことよろ~」

「…そうですね」

国光は持っていた鍋を降ろしては、膝をついて挨拶をした。

「今年もどうぞ宜しくお願い致します。灰山の山犬、久遠国光くおんくにみつ

「堅いよ~」

道司の軽さに国光はすぐに立ち上がり、いつも通りの対応をした。

「貴方一応、灰山の頭領かしらでしょう。いつまでも、ちゃらんぽらんでいる方が駄目です」

「ええー」

「それに、喪中ですし」

「難しいよね~そこんところ。うちの神さんと天狼ちゃんは祀らないといけないし、灰山の山犬の方は喪中って、なんかヤバくない?」

一応、山犬内だけは、喪中をしている。

「神使である貴方が言ってどうするんです。大事な神事でしょう?山犬に関しては、こればっかりは仕方ないことです。それに、こうして借り出されるのは明らかに山犬不足が原因です。年を越す前にきちんと話合いましたよね?」

「そうだっけ?」

「そうです。もう少し、しっかりなさってください。貴方は肩書ばかりが立派過ぎます。その肩書が相応しい貴方になるべきです」

道司は国光に叱られながら、そうだったと思い出した。

「年を越しても、国みっちゃんは国みっちゃんだよね」

「その呼び方は、いい加減やめなさい!」

道司はその場から逃げた。

姑のように、いつまでも言われそうだったからだ。


 道司は、ある部屋へと入り込んだ。

それは、明日の為に準備した料理が並んでいた。

厨房に入りきれなかったからか、この部屋に並べてあった。

白の布の下は、美味しそうな料理が覗いていた。

「不用心だね~」

道司はそうっと覗いている料理に手を出そうとした。

すると、先客だろうか。

テーブルの下に、小さな人影が見えた。

「おやおや」

道司は、テーブルの下を覗き込み言葉を出した。

「貴方もつまみ食いですか?」

「もぐ、もぐもぐ…ごくん。…月子には内緒だぞ?」

銀髪の子共が饅頭まんじゅうを食べながら答えてくれた。

「ええ、もちろんです」

道司もまた、つまみ食いをしに来たのだ。

かまぼこをひとつまみして、口に入れる。

「深夜のつまみ食いは、ひと味違いますね」

道司がそう感想を述べると銀髪の子共は、いきなりテーブルの下から這い出しては廊下出ては、庭の方へと向かった。

「おやぁ?」

その時、銀髪の子供の両手には、紅い盃が乗ってあった。

そのことに道司は疑問に思い後を追った。

道司が庭に出ると、すっかり寂しくなったお庭に銀髪の子共が座り込んでいた。

紅い盃をじっと見て、微動だにしなかった。

道司は言葉をかけた。

「いきなり、どうしたんです?」

「…………」

銀髪の子共は黙ったままだった。

だが、道司は言葉を続けた。

「駄目ですよ~その姿で酒なんて飲んだら、僕が怒られるんですから~」

道司はその紅い盃を取り上げようとした時。

銀色の子共は、盃に入っていた酒を勢いよく捨てた。

「……っ!」

道司は驚き、銀髪の子共はようやく言葉を出した。

「黒水だ、道司」

その言葉を聞いたとたん、山犬の遠吠えが聴こえた。

「……っ!!」

道司は何事だと問う前に、一匹の山犬が庭に現れ、それは伝わった。

天狼が倒れた、と…。

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