小さな波紋。(その3)
正俊が後輩を連れて幽世を回ろうとした時、声をかけられた。
「お前たち、年明け早々サボりか?」
同じく警備に回っていた同胞に見つかってしまった。
「亜紺さ~ん!」
後輩はすぐに助け舟を出した。
声をかけて来た同胞は、正俊と勝馬の先輩で兄弟子。
「こら、正俊。後輩をいじめるんじゃない」
「えー」
いじめたつもりはない。
むしろ可愛がっている方だ。
「正俊、お前天狼様の護衛はどうした?」
「抜けて来ましたー」
正俊が軽く答えると頭をがっしりと掴まれた。
「あらん」
「なんだ、遊んでほしいのか?」
掴まれた頭からめきめきと音がなった。
「いい、いい…ち、違います。ちょっと、ちょっと気になることがあ!」
亜紺は掴む力を緩めた。
「気になること?…曲者か?」
正俊は亜紺の様子を伺いながら答えた。
「そんなところ…」
亜紺は掴んでいた正俊の頭を離した。
「なんだ、そいうことなら早く言え。お前のことだから、またサボりだと思ったんだが?つい先日も、お前がサボるもんだから、勝馬がお前の写真(オオカミの姿)を使ってチラシ作っていたぞ。そのうち迷子犬として捕獲されるんじゃないか?」
「あはは、勝馬がそんな…………まじで?」
「ああ大まじだぞ?それで、どうなんだ?」
「まだ、なんとも…」
「なんだ、はっきりしていないのか。まあいい、何かあったらすぐに呼べ」
「ういっす」
亜紺は、後輩にも指示出した。
「お前も、正俊について行って一緒に探れ。…何事もなければいいが、気を付けろ」
「あっはいっす!」
後輩の返事を聞いた亜紺は、正俊の肩を叩いては引き寄せた。
「今年の参拝者の数がやけに多い。もし動くとしたら、単体ではない可能性がある」
「わお」
「万が一だ。予測はしていた方がいい、いざとなったらすぐに動けるだろう?」
「さすがっすね」
「でだ、最近、黒と青の所の動きが、どうも怪しい動きをしているらしい」
「えー疑うの嫌っすよ~~」
「安心しろ、昔からだ」
「うえぇ…」
正俊はうんざりしながら言葉を出した。
「山犬も大変だぁ…」
「まあな、それも万が一だ」
亜紺は正俊にそう伝えて、警備の方へと戻って行った。
正俊は一つため息を出した。
内輪ごとは勘弁してほしい。
後輩がそんな正俊に伺った。
「先輩?」
「いや、何でもないよ。…ただ、仲間同士で争うのは嫌だなーって思っただけだよ」
「そうですね…」
後輩は、正俊がいきなりそう思ったのか知りもしなかった。
正俊はそんな後輩を見ては再び歩き出した。