小さな波紋。(その2)
天狼を祀る社は、幽世によって出来ている。
それは、社と言う幽世を展開させることで、山犬達の住処を隠すことができ、天狼を守護することに繋がるからである。それに、この祝い時に天狼の社を建てることで、他の土地神や地位がある種族に示しがつくからでもある。
彼らもまた、地獄蟲の脅威に恐れている。
棲む場所を奪われ、喰いつくされるからだ。
天狼は地獄蟲から彼らの存在とその土地を守護している。
それは古くから行っていることで、年を越した今でもこうして参拝者が断たないほどだ。
天狼と彼らとの縁は深いものだと伺える。
正俊は参拝者の列を眺めながら、眉をひそめていた。
「う~~ん?」
ただの自分の勘違いならいい。
勝馬に叱られるだけで終わる。
山犬の警備は、隅々まで行っているから、蟲一匹、入れはしない。
だが、微かに参拝者の中に蟲のにおいがした。
「こういうのって、俺だけだもんな~~ま、いいけど」
正俊の鼻は、山犬の中でもより優れていた。
正俊は、行動を始めた。
なんだか胸騒ぎする。
「年明け早々に、ほんとなんかなぁ~」
自分の頭を掻きながら、顔を隠した参拝者の流れに逆らって歩き出した。
提灯の鮮やかな灯が影って見えるのは、何かを示しているのだろうか?
正俊は、歩く速さを早めた。
道中に後輩を見つけては、蹴りを入れる。
「あいたっ!なな、なんでっすか!急に!」
後輩君もまた狩衣姿で、辺りを警備していた。
「お前、ちょっと手伝え」
「ええー!ちょっと!待ってくださいっす!」
後輩の襟を掴んで、強制的に連れて行く。
「先輩!おれの持ち場があ~!」
「大丈夫だよ~~!もっと、いい持ち場があるから~!」
「つまみ食いは嫌っすよ~~!」
後輩は、捧げもの(料理)のつまみ食いに行くと勘違いしているようだ。
「良し、年越しそばを食いに行こう」
「すみません~俺、先に頂いたっす!」
「おいおい、なにちゃっかり食べてんの~!罰として、俺とちょっと年明けデートしない?」
「遠慮しまっす!」
「いいから、いいから~!」
「放してくださいっす~~!」
正俊は後輩を連れて、幽世を見回ることにした。