小さな波紋。(その1)
天狼は神酒が入った盃に口をつけては、盃に浮かぶ小さな波紋を見ていた。
すると、正俊は口いっぱいに食べ物を詰め込んでは、喋り出した。
「てんほう…もぐもぐ、さん、もぐもぐんぐ」
「正俊、口の中の食べ物を飲み込んでから喋りなさい」
話はちゃんと聞くから。
正俊は、甘酒と一緒に口の中の食べ物を飲み込んだ。
「ぷはっ…で、天狼様、あの参拝客いったい何もんですか?やけに、怪しい恰好してますけど~」
「ん?正俊は今回が初めてだったか?」
「いや、何度か護衛になったことがありますよ。そうっすね~ちょっと気になって、あれって人じゃあないっすよね?」
正俊の言う通り、参拝者のほとんどが人ではない。
人狼が存在しているのなら、人狼以外のも存在している。
笠や布で人の形はしているものの、中身はまったくの別物で、物の怪や獣などが人に化けていることが多い。
彼らは、土地神や地位がある種族には従順だ。
こうした日には、参拝者として敬意を示してくれる。
「なんだ、気になる者でもいたか?」
「そんなとこ」
正俊の視線が、探りたいと訴えていた。
「今は、祝いの日。表立ってすることではない…………だが」
正俊は、腰を上げ膝を着き頭を垂れた。
「怪しき者なら探れ」
正俊はニヤリと笑い言葉を出した。
「承知」
言葉を述べるとその場から立ち上がった。
「あっ天狼様!勝馬が来たら、そう伝えといて!」
「わかった、くれぐれも無茶だけは…」
「わーてるよ。それと、あけおめ!」
天狼は微笑んで言葉を贈った。
「あけましておめでとう」
正俊は天狼の言葉を聞いてから去った。
天狼は瞼を閉じて、神としての役目を再び始めた。