番外編 オオカミ達のクリスマス。(その15)最終
正俊達は、喫茶店から車に戻った。
正俊は、オオカミから人へと戻り服を着た。
マッパ(はだか)のままで外で服を着るなと勝馬に車の中に押し込まれた。
適当なシャツとズボンを穿いては車から出た。
勝馬はすぐに報告するために、携帯を使っては通話を始めた。
青年は男の死体に白い布をかけ、男が持っているカバンを取り上げた。
すると、正俊達の車の隣に黒塗りの車が停車した。
黒塗りの車から、釘バットを持った黒スーツ姿の女性とオオカミの被り物を被った少年が降りて来た。
正俊はその人物を見た瞬間、青年の後ろに隠れた。
「あばばばっ!」
「ちょっ先輩?」
青年はいきなり、正俊が隠れたことに少し戸惑った。
勝馬は通話を切っては、降りて来た女性と対面した。
「お疲れ様です」
「状況は?」
「喫茶店に潜む、膿蟲一体を駆逐。幽世の崩壊を確認しました。うち、媒体者一名を残念な結果となりました」
「喰われたのか?」
「いえ、蜂蟲による黒針で即死です。死体はこちらが回収しております」
「それで」
「幽世を進行中、他の媒体者と接触しましたが……逃がしました」
「ほぉ…」
その場にいる正俊達は威圧を受けた。
青年は女性に怯えつつその場に硬直していた。
女性が放つ言葉が重く感じる。
その時、じろりと女性から睨まれ、心臓が跳ね上がった。
後ろにいる正俊も視線を感じ、一層縮こまった。
女性は癖が入った短い黒髪で肌は色白い。
瞳は黒く、眼鏡をかけていても、その細い目は尖って見えた。
黒のパンツスタイルのスーツで胸には、十字のブローチがつけられていた。
見た目、カリスマOLの容姿だが、雰囲気は女軍人だ。
青年がじっと耐えていると女性は言葉を出した。
「それで、正俊」
「……っ!」
名を呼ばれた正俊は青年の後ろから出た。
「はい!何でありますか!」
女性は指で正俊を誘う。
正俊は冷や汗を掻きながら女性に近づくと、突然、胸倉を掴まれて顔を近づかれた。
「次、へましたら殺す」
眼光開いて、凄むような声音で脅された。
「はぁい……」
女性はそれだけを言い残して、少年と共に再び車に乗り込んだ。
勝馬は頭を深々と降ろして、その車を見送った。
その間、脅された正俊は灰のように白く脱力していた。
青年も腰を抜かしていた。
勝馬は二人を見ては、息を吐く。
勝馬もまた緊張していた。
青年はゆっくり言葉を出した。
「あの人、何だったんすか…?すごく、怖かったっす…」
答えたのは勝馬だった。
「あの方は、我々の先輩であり、直属ではないが一応は上司だ。彼女もまた山犬だ。名は、藤原晶子、今回こちらに来たのは、我々の報告が遅かったからだろう」
「…………」
青年は何も言えなかった。
「気を落とすな、いつものことだ。あの方は、仕事一途の所がある。昨夜だけで六件の案件を任命されていた。その彼女が、我々の所まで来たということは…」
「片つけた後ってことっすか…」
「そうだろうな…何せ今日は、いや、昨日はクリスマスだったからな、蟲による案件が多かった。あの方が、出てくるのは想定していた」
「まじですか…」
すると、脱力していた正俊が半泣きで勝馬にすり寄って来た。
「かつま~~!おれ、死ぬ!次あったら、あの人に殺される~~!」
「だろうな…」
「かつま~~!」
「あの、もしかしてっすけど、半殺しになったって言うのは…」
青年はふと思い出したように言葉を出した。
「うわあぁあん!」
正俊が子犬のように泣き出した。
勝馬はそんな正俊を鬱陶しそうに答えた。
「お前が我々の元で、任務をこなすように、我々も新人のころは、あの方の下で任務をこなしていた。当然、我々の面倒も見ていた」
青年は血の気が引いた。
色々と想像がついた。
すると、青年はおしりに違和感を覚えた。
「……はっ」
おしりを触るともっこりしていた。
今ので、オオカミの一部が戻ってしまっていた。
慌てて、おしりを押さえたが、すでに正俊達に見られていた。
「あ~~!」
正俊はさっきまで、泣き目だったのにもう元気になっていた。
「ちょっと、見ないでくださいっすよ!これは、決してちびった訳じゃないっす!」
「またまたぁ~!」
「見ないでくださいっすよ~~!」
青年は慌てて車の中へと入った。
こうなるなら、あの時、ズボンに穴を開けるべきだった。
青年は後悔しつつ、尻尾を押さえた。
初の任務は、こんな形になるとは思わなかった。
だが、これが仕事なんだと思った。
これから、こうした嫌モノをたくさん見るし、失敗も経験して行くのだろう。
山犬としてまだまだ未熟だが、目指す目標は出来た。
二人のような強い山犬になりたい。
青年はそう心に誓った。
しばらくして、喫茶店に警察が辿りついた。
勝馬が呼んだのだろう。
勝馬は警察に状況を報告していた。
これから、再びあの喫茶店に調査が入るだろう。
喫茶店の幽世が崩壊した今、行方不明になっていた彼女達はいずれ何ならの形で見つかるはずだ。
最初の行方不明から、かなり時間が経っていた。
残念な結果となってしまったのが、いたたまれない。
正俊は、今回の案件を少し振り返った。
この案件には、他の媒介者の接触があった。
あのウシの着ぐるみは、どこか特別だった。
きっと組織の一人なのだろう。
今回の媒体者を殺されたのも、口封じのためだ。
そして、それをやったのは間違いなく奴らだ。
だとしたら、ウシを取り逃がしたのは、本当に痛かった。
また、次の犠牲者が現れるだろう。
あのウシ、次は必ず捕まえてやる。
「吸い殻は、きちんと捨てなきゃだめだよ…ウシさん」
朝の陽射しを浴びながらそう呟き、相棒の元へ向かった。
オオカミ達のクリスマス。
読んでくれてありがとうございます!
今後とも、助けてください!天狼さん。をどうぞよろしくお願いします。
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