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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第四章 走らなきゃだめですか…天狼さん。
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番外編 オオカミ達のクリスマス。(その13)

 正俊達は勝馬を先行にして、ある部屋へと向かっていた。

そんな中、青年はあることを勝馬に聞いていた。

「あの、こんな時になんですけど、膿蟲はどうなったんですか?」

「倒した」

「ええぇ!もう滅したんですか!」

さすがだ。

自分が迷っている間に、事は済ませていたようだ。

「さすがっす!」

「だいぶ、手こずったがな…ところで、幽世が崩れている時点で気付かなかったのか?」

「すみません、わからなかったです」

自分の勉強不足が恥ずかしい。

「いやいい、次からはこの状況を覚えておくことだな。幽世は膿蟲を媒体にしているから出来ていると前に言ったな?」

「はいっす」

「その膿蟲を柱だと思ったほうが考えやすい。現世を挟んで幽世は存在しているから、膿蟲と言う柱を失うと現世の圧に押しつぶされ、幽世は崩壊する。この状況はそれだ」

「わかりましたっす」

なるほど、幽世は家だとすると、大黒柱である膿蟲を失うと家は崩壊するってことか。

「でも、それって、膿蟲と出口との距離が離れていると俺ら、そのまま墜ちてしまいませんか?」

「そうだな…だが、それを踏まえてこその我々だ。山犬ならば、幽世から堕ちても、堕ちなくとも出口を見つけられる力があるし、幽世から出られる力がある」

「…………」

それを聞いた青年は押し黙って下を向いた。

自分には、そんな力がないと思ってしまった。

勝馬は青年に言葉を送った。

「だからこそ、今、お前は成長しているんだろう?お前はまだ、子犬だ。きちんと山犬なってから、下を向け」

青年は勝馬を見た。

立派な山犬だった。

「はいっす!」

がんばろう、頑張って強くなろう!

そして、先輩達のような強い山犬になろう!

青年は強く想った。

 

 崩れて行く廊下を走って行きながら、青年は聞いた。

「ところで、勝馬さんは出口ってどこか分かるんっすか?」

その問いはすぐに返って来た。

「だいたいはな」

勝馬はある扉の前に止まった。

その扉のプレートには、205と書かれていた。

ここは、前に青年が入った場所だった。

騒音やテレビが点いたりして、この事件の原因というのがあった場所だ。

そんな所にもう一度入るなんて…

できるなら、もう入りたくはなかった。

青年は勝馬についで、その部屋に入って行った。

部屋は前に来たのと変わらなかったが、テレビは砂嵐のまま何も映ってはなかった。

オオカミ姿の正俊は慌てて部屋に入る。

「やっべえ~~もう、崩れて来ているぞ!」

幽世の崩壊は、間近までに迫っていた。

青年はこの状況で、不安を覚えた。

「勝馬さん」

不甲斐なく、つい言葉を出してしまう。

そんな青年の様子を見て、勝馬は言葉を出した。

「案ずるな、すぐに出られる」

そう言って、青年に優しく微笑んだ。

「…………」

青年はその顔をどこか天狼様に似ていると思った。

こうして緊迫している状況下で似ていると感じたのは、人狼としての血がそうさせているのだろう。

勝馬さんもその表情を不意に天狼様に似せているのかもしれない。

それはそれで、すごく安心感を覚えるからいいんだ。

それに、勝馬さんは勝馬さんなりの、励まし方だ。

大丈夫だと感じる。

だけど…心の奥底で、天狼様を想ってしまう。

青年は胸を押さえた。

それは、人狼達の中で共通として起きる現象だった。


 勝馬は、オオカミになっている正俊に担いでいた男の死体を投げ渡した。

「持ってろ」

「ちょっまぁ!」

オオカミの大きさは、大型犬より一回り大きい、その上に大人の男が乗っかかって来た。

潰れはしなかったものの、正俊は不快そうだ。

「おっさん草」

その光景を見た青年はくすりとわらった。

故人には悪いけど、先輩の不快そうがちょっとうけた。

青年は正俊に乗っている男の死体を担いだ。

「俺が持つっす」

「いーの?」

「はいっす」

死の重みは思ったより、重く感じられた。

だが、これは自分が抱えなきゃいけない重みだと思った。

勝馬は砂嵐が鳴っているテレビを調べていた。

「えっと…何しているんすか?」

早くしないと、幽世が崩壊してしまう。

青年が問うと勝馬は答えた。

「出口だ」

「へっ?」

どこに?

「このテレビの先が出口だ」

「テレビですよ…」

考えられない言葉に青年は戸惑った。

ってきり、この部屋の扉が出口と繋がっていると思っていた。

扉によって、俺たちは幽世に入ったんだし。

勝馬は続けて言葉を出した。

「正確には、この鏡の向こうが出口だ」

「そんな~バナナ!」

正俊がノリで言葉を出すと勝馬は正俊に近づいた。

「えっ!なになに!ちょっと待ってください!勝馬さ~ん!」

勝馬は正俊の首根っこ掴んで、テレビの方へ投げ飛ばした。

言葉通り、正俊は吸い込まれるように、テレビの中へと入ってしまった。

青年は啞然とした。

「…マジっすか」

「お前も早くしろ。時間がないぞ?」

「はあ…」

青年は変な汗をきながら、テレビに近づき、男の死体をしっかりと持つ。

そして、意を決して、テレビの中へと飛び込んだ。

視界一杯に、砂嵐の世界と音が鳴り響く。

感覚は、落ちている感覚だった。

青年はぐっと目を閉じると、身体に衝撃が走った。

「ぶっ!」

正面に冷たい地面にぶつかった感覚だった。

青年は目を開けると、雪で薄く積もった街が広がっていた。

衝撃のせいで、少しぼーとしてしてしまったが、目の前に広がっている光景に焦った。

「えっ外!?…って!先輩!」

先輩の姿が無いことに焦った。

青年は慌てて後ろを振り返ろうとした時、後ろからどっぷりと重い物が乗っかって来た。

「うわっ!」

「……すまん、大丈夫か?」

後ろから勝馬が降って来た。

勝馬はすかさず、青年から離れて状況を読んでいた。

「だ、大丈夫っす。ところで先輩の姿が見えないっす…」

「正俊か、正俊なら…あそこだ」

「あっ!」

正俊は担いでいたはずの男の死体によって、ひっくり返って押しつぶされていた。

きっと、落ちて来た衝撃でひっくり返ってしまったのだろう。

そして、青年が見えなかったのは、死体によって姿が見えなかっただけであった。

「あはは、先輩すみませんっす…」

青年は申し訳なさそうに、ひっくり返っている正俊に謝罪した。

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