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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第一章 助けてください!天狼さん。
12/310

帰って来た?

 全てが夢であったように、私はベットの上で横たわっていた。

制服に着替えたはずなのに赤いジャージ姿に戻っていた。

灰が舞う屋上で、突然強いめまいがした。気持ち悪さが体中に回って、足元がふらついて転んだ。

助けを呼ぼうとしたけど声すら出せなかった。

溺れたように世界が暗転し、次に目を見開いたら保健室のベットの上だった。

突然の出来事について行けなくなってしまう。

また、あれは夢だったの?

あの出来事は私の記憶にも身体にもしっかりと刻まれているのになかったことになるの?

うずくまるように頭を抱えた。

まだ、あのめまいの感覚が残っているようで気持ち悪い。

一体どうなっているのよ!

教えてよ!天狼さん!

!?

ベットを囲むカーテンが突然開けられた。

現れたのは、保健の先生だった。

「先生?」

先生の様子がおかしい。

いつもの微笑みがなく、人を恨むような鋭い瞳をしていた。

顔色が血の気がないように冷めた色をして、髪も服も白衣も薄汚れていた。

「せん…せい?どうしっ」

「どうもこうもないわよ!よくも!私の娘を殺したな!」

「はっ!!」

パッチン!

顔をひっかくように叩かれた。

頭の中が真っ白になった。

「……っ!」

「お前のせいだ!この人殺し!」

先生は机にあった、カッターナイフを取り出した。

カチカチカチカチッと刃を長く出した。

これがなにかの夢であってほしい…とかすむように願った。

「死ねえー!」

刃が振り下ろされるその時。

ガッシャーーン!

何かが派手に割れる音が響いた。

「まずい!間に合え!」

どこか聞いたことがある声がした。

「なに!」

カツンッ!

黒くて長い棒状の物が、カッターナイフを持っていた先生の手首に当たった。

カッターナイフは床に落ちた、同時に黒い長い棒状の物も床に転げ落ちた。

随分重みがある音がした。

よく見たら、黒い鞘に入った刀だった。

先生が躊躇しているそのすきに、金髪の青年が先生の腕を取り押さえた。

「まじでもう堪忍しろ!おまえの娘はとっくに死んでいる!いい加減あきらめろ!」

金髪の青年は、先生を床にぐっと押さえながら説得をしていた。

金髪の青年は黒スーツ姿だったが、上半身が開いていた。赤のネクタイも首に掛けただけで上着も着ただけのかなり雑な着方だった。

「灯花!」

名前を呼ばれてはっとした。

この声…

目の前に飛び出してきたのは、天狼さんだった。

人狼姿の銀色の天狼さんだった。

私の様子に間をおかずに、天狼さんは私を包み込むように抱きしめた。

「もう大丈夫だ!灯花!もう大丈夫!」

天狼さんの声とぬくもりに絶望じみた氷が一気に溶けた。

「てん…ろうさん、…てんろうさん!うっくっつ……うわあん!」

小さな子供のように泣いた。

「灯花はよくやった。よく頑張った。よい子だ。」

優しく頭を撫でてもらいながら、落ち着く声とともに泣いた。

すると、うなるような声が聞こえた。

「人食い狼め!」

「だまれ!」

「よくも!よくもっ娘を喰ったな!地獄へ落ちろ!」

「おまえが言うな!」

金髪の青年は威圧するが、先生はなおも毒を吐いた。

「朝峰さん…あなた、が、死んでくれたら、よかったのに…」

「…っ!」

凍り付くような言葉を受けた。

「黙れ」

今度は、天狼さんが威圧した。

それは、刃のような重い声だった。

それを真に受けた先生は、何も言い返せなくなった。

「ぐっ…」

「りん」

「わかってるって!」

金髪の青年は、手錠を取り出して先生の手首に付けた。

そしてそのまま、先生を連れて行った。

先生は去る間際までずっと、私たちを睨み付けていた。

先生に恨まれることなんてした覚えがない。

むしろ先生には感謝しかなかったというに…怪我の治療してもらったり、気にかけて話しかけてもらったりして助けてくれたことばかりだ。

なのにどうしてこうなったのだろう?

わたし…は…

「灯花!私はお前が生きてくれて嬉しい」

「…っ!」

天狼さんの真剣な眼差しに心打たれた。

今度は、少し強く抱きしめて天狼さんは言った。

「だから、あの者の言葉に真に受けるな…よいな」

「…ぐずっ…はいっ」

嗚咽が漏れながらの返事だった。

天狼さんのシャツは、涙と鼻水でクシャクシャになっているだろう。

それでも構わず天狼さんは、私をぎゅっと抱きしめたままだった。

「怪我はないか?」

「ひっく、うん…」

しばらくして、私が少し落ち着くと天狼さんは赤くなったほほに触れた。

「少し腫れてる」

「えっ…あ…」

そういえば、先生に叩かれたんだ

地味にじんじんと痛みは、あるけどたいした怪我ではない。

じっと顔を見られて今まで以上に赤くなるを感じた。

今一番ひどい顔を見られて、すごく恥ずかしい。

だんだんと、天狼さんの顔が近くなっていくのがわかった。

反射的に目を閉じてしまった。

天狼さんの温かい吐息が肌に感じた。

この状況で、どうすればいいのかわからなかった。

「……………冷やそう、待ってろ何か冷やすものを用意する」

そう言って、天狼さんは私をゆっくり放した。

………………………………………………………………。

………………………………。

………へっ?

てっきり、なにかされるんじゃないかと思った。

恥ずかしさがまたこみ上げてきた。

………うわあっー!!!

心の中で、バタバタと暴れてる自分がいた。

まさか、勘違いするなんて!はずい!はずい!はず過ぎる!

こんなリア充みたいなこと!わたしが期待するなんて!!

なんで、こんなことになったの!

私!だいじょうぶか!あっいやだいじょうぶじゃない!

あっやばい帰りたくなった!

ひきこもりの性が出てきた。

帰りたい!

おうちに帰って布団にこむりたい!

冬場のリスのようにこもりたい!

…………ダトシタラ行動は一つ!

「……私、帰ります」

天狼さんが、目を向いて驚いていた。

突然、すっと立ち上がって帰ろうとする私に驚いたのだろう。

「まっ待て!もう大丈夫なのか?」

「ハイ、モウダイジョウブデス」

「もう少し、休んだ方が良いのではないか?」

「センセイ、サヨウナラ!」

声が裏がっていたのは言うまでもないが、保健室の扉が壊れていたのは驚いた。

全開の入り口に何事もなく通ろうしている私がいた。

一度に色んな事があったから、今さらだった。

私の頭の中は、とにかく帰りたい!だった。

それどころか、帰ってゲームしよ!

そして、学校休もう!

今後の予定まで組む始末だった。

「あっははは!!」

その様子を見た天狼は、どう声をかけたらいいのか悩んでしまった。


 私は、ずかずかと廊下を歩いていた。

天狼さんから、逃げるように出て行ってしまった。

窓の外も廊下も暗かったけど、もう気にしなかった。

教室の電気がところどころに点いていて、その明かりを頼りに廊下を歩いて行った。

途中、懐中電気を持った男の先生に出くわした。

一瞬びびった…

生徒の帰宅時間はとっくに超えている時間だったなんのなんなので、その先生に怒られた。

怒鳴ることはなかったけど、しつこく注意を受けた。

私のジャージ姿に、まだ着替えてなかったのか!っと言われる始末。

着替えて戻ったんです!と誰も信じてはくれないだろう。

更衣室は当然閉まっていて、カギを取りに行く羽目になった。

職員室に行くと扉は開いていた。

私が来たことを気づかず、複数の先生が集まって何かを話していた。

先生たちにもう捕まりたくないのでそそくさとカギをとって退室した。

更衣室で今度こそ制服に着替えた。

いまいちパッとしない制服だが、着替えられてようやく落ち着いた。

地味に安心感がある。

ふと、天狼さんのことを思い出す。

今でも火山が噴きそうな密着ぶりにもん絶する。

ふとジャージに匂いをかいだ。

自分の匂いと酸っぱい匂いがした。

何だこの酸っぱい匂いは!臭いじゃないか!

あ。

天狼さんにやられて吐いたんだった。

胃液の臭いかこれは!

どうやらこの臭いのせいで天狼さんの匂いは付かなかったらしい。

ちっ

このジャージは洗濯行きだな…


 更衣室を出て、カバンを取りに教室に戻った。

先に自分の持ち物を取りに行こうと思ったからである。

教室は真っ暗で誰もいなかった。

電気を点けると自分のカバンだけが残っていた。

まだ、私は夢を見ているのだろうか?

天狼さんが言う、幽世と言う世界じゃないだろうか?

じゃないと保健の先生があんなに豹変するわけがない。

後悔した。

思い出すとやっぱりすごく怖い。

もっと天狼さんのそばにいればよかった。

その場にうずくまるように座り込む。

怖くなって動けなくなった。

もうやだ!

さっきまで天狼さんのこと考えていたから大丈夫だったけど、あんな化け物とか先生のこととか考えるとやっぱり怖い!すごく怖い!

「…うっ」

しばらくして人の足音がした。

心臓が早打ちしているのがわかった。

だけど、今の私ではどうしょうもできなかった。

じっと耐えることしかできなかった。

足音がだんだんと近づいてくるのがわかった。

そして、私のすぐそばまで迫った。

「失礼、朝峰さん。聞こえますか?」

どっかで聞いたことがあるような声がした。

「あなたを迎えに来たんです」

そう言われて、ゆっくり顔をあげた。

そこには、黒スーツの男の人が立っていた。

この人…

黒髪の短髪で赤い眼鏡をかけていて、眼鏡の奥には天狼さんと同じ紫の瞳をしていた。肌は白く右目の下にほくろがあった。

確か、パーティー会場で会った人だ。

「その様子ですと私の事を覚えているようですね。さあ、立てますか?天狼様からあなたのことを受け賜っております」

言われてゆっくり立ち上がった。

沈黙が少し続いた。

「…いつまで突っ立っているのです?早く用を済ませてください」

「…っあ」

またもや言われて動いた。

少しふらつきながら自分の机に向かい、机の中の教科書類と持っていたジャージをカバンに突っ込んだ。

「それで全部ですか?」

「…えっと、はい…」

「では」

私が持っていたカバンをスッと取った。

「えっ!」

「さあ、行きますよ」

「えっでも…」

私の戸惑いの言葉を無視して、スタスタと歩いて行ってしまった。

「何をしているのです?行きますよ」

「…っ!」

私はこの人について行くことにした。

ふらふら足元がおぼつかなかった。

それでもこの人について行くしかなかった。

着いた所は玄関だった。

「何をしているのです、早く履き替えなさい」

「あっはい…」

言われた通りに上履きから履き替えた。

玄関から外に出ると肌寒い風が吹いた。

外はとっくに夜で外灯の明かりが点々と点いていた。

ようやく学校の外に出られたんだな…

一時は二度と学校から、出られないんじゃないかと思った。

名前忘れた人について行って、たどり着いた所は駐車場だった。

そこには、パトカーが止まっていた。

警察官が何人かいて、黒スーツの人も何人かいた。

じろじろと見られたが誰も何も言ってはこなかった。

一体この人たちはなに?

また何が起きているの?

ずっと深い不安が解消されずにいる。

天狼さん…

逃げるんじゃなかったな…

「少しここで待ってください、今車を回してきます」

名前忘れた人の言われた通り大人しく待った。

ほどなくして、黒塗りの車が私の前に止まった。

高級車って感じがした。

わたし本当にだいじょうぶ?

名前忘れた人は車から降りて、後座席のドアを開けた。

「さあ、どうぞ」

「…………。」

乗りたくない気持ちになった。

わけのわからないことばかりで、早く帰ろうとしてもなかなか帰れなくて、嫌になる。

周りは知らない人ばかりで、おっかない人ばかりで、ほんと嫌になる。

「どうしたんです?さあ」

催促されたが、足が一歩も動かさなかった。

乗りたくない。

乗ってしまったら私はどうなってしまうの?

また襲われるの?

このまま走って逃げてしまおうか?

そうしたほうがいい…

きっとそう…

天狼さんから逃げるようにしたんだから、最後まで逃げようかな…。

「さあ、乗ってください…………っ!?」

肩を掴まれそうになり、私は走った。

逃げるように走った。

だけど、うまく走れるわけがなかった。

右足を痛めていたことを忘れていた。

みっともなく転んだ。

痛くて、また泣いた。

膝から血がにじみ出て来た。

それでも立とうとしたが力が入らなかった。

「うっ…くう…っつ…」

それを見かねた周りが私に近寄って来た。

黒スーツの人も警察の人も近寄ってくる。

……うっ…

名前忘れた人が来ると思った時だった。

「だから、少し休んだ方がいいと言ったんだがな…」

その声は、天狼さん。

銀色の人狼が私をひょいっと抱き上げた。

「全く心配したぞ、灯花」

「…うん」

私も天狼さんに抱き着いた。

天狼さんが、あまりにも優しく微笑んでくれたから私はまた泣いた。

まるで、わかままを言った小さな子供ようだった。

黒スーツの人が慌てて天狼さんに近づき言った。

「天狼様!お姿をお隠しくださいませ!」

「天狼様!!どうかお隠しを」

しまいには、着ていた上着を天狼さんにかぶせたほどだ。

確かに今の天狼さんは、普通の人に見られるのはいけないかもしれない。

銀色の長い髪に獣耳が付いていて、お尻にはふわふわの真っ白い尻尾がついているから。

「おまえたち、私の事はいい。持ち場に戻れ」

「ですが…」

「少し気を利かせてくれ」

「……承知しました」

黒スーツの人たちが持ち場に戻った。

「国光、少し擦りむいたみたいだ。手当してもらえぬか?」

天狼は名前忘れた人に言った。

「承知しました」

「灯花もよいな」

私を抱っこしたまま、あやすように言った。

「国光は怖くはないぞ。少しきついことを言われたかもしれんが、ただ真面目なだけだ。許してやってくれ」

…そっか、国光って言う名前だった。

ちょっと申し訳なさそうな顔をしている国光さんが見えた。

怖くて逃げてしまって、なんだかこちらが申し訳がない。

「灯花?」

天狼さんに名前を呼ばれても口が開かなかった。

力が全く入らず、天狼さんに体重を預けるようになってしまった。

涙で視界がぼやけてきて、周りが見えなくなった。

天狼さんが何か言ってたけど、水の中に入っているかのようによく聞き取れなかった。

そのまま、ゆっくり水の中に意識を落とした。 

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