番外編 オオカミ達のクリスマス。(その7)
正俊はひっくり返っては、くしゃみをした。
「ふぇっくっしょん!」
「風邪か…いつも腹を出して寝ているからな、いつかは風邪を引くと思っていた」
「勝馬くん、そんな冷静に答えないでくれる?多分だけど、これは誰かが俺のことを噂していると思うんだけど…」
「そうだな…お前がゴキブリ並みの生命力だと言っているのかもしれん」
「それ、ほとんど悪口じゃん!」
「褒めていると思うぞ?」
「いやいやいや!」
正俊は慌てて起き上がった。
膿蟲に投げ出された衝撃で頭を打ったせいで、痛みとめまいがした。
「うぐっ頭痛い…おうちかえりたい…」
「残念だが、家には帰れないぞ。ここから出られても、我々には報告義務と言うものがある。本部に戻り、今後の対応をしなければならない」
「あたたっ!頭痛い!痛いよー!俺、早退していい?」
「それが出来るのならいいのだが…この任務が終わりしだい、首根っこ掴んで局長の元へ連れてこいと言われている。お前、何かしたのか?」
「…マジで」
「大まじだ」
「俺さぁ、局長が隠し持っていた菓子類を食ったんだけど、それかな~?きちんとハッピー〇ーンの粉を残したはずなんだけどな~」
「正俊、伝えたからな」
「あっ勝馬くん、ひどい!って勝馬くん、パトラッシュになってる!」
勝馬の姿はオオカミの姿となっていた。
「だまれ、少し休んだら元に戻る」
黒毛のオオカミは灰色の瞳をして、暗がりの場所でもその瞳が光って見えた。
体毛で隠れているが顔には傷があった。
勝馬は力を使い過ぎたのか、身体を伏せって動けないでいた。
「そう…ちなみに俺ってどうなったわけ?」
正俊が聞くと勝馬は答えた。
「お前は膿蟲との戦闘で頭を打って気絶していた。その間、膿蟲の隙を見て戦闘を離脱し、お前を連れて隠れている所だ」
「後輩ちゃんは?」
「黒蟲に連れ去られた」
「マジか」
だとすると、まだ時間はある。
親蟲に産み付けられるか、膿蟲の餌となるかは、それはあいつ次第だ。
あいつが早々にくたばる野郎なら、最初から連れて行かない。
耐えろよ、山犬なんだから…かっこわりぃとこ見せんじゃねーぞ。
正俊はそう念じながら、立ち上がった。
「あの後輩ちゃんが、くたばる前に動きますかな。しかし、あの膿蟲やべぇ~な!」
「孵化直前だった。完全になる前に滅しなければ…」
「違う違う、あのねーちゃんのケツがヤバかったって話だ」
「…………」
勝馬は呆れた目になった。
「いいケツしてた」
正俊はわきわきと指を動かしていた。
「孵化する前に、あのケツを守らなければ」
「…孵化する前に、滅することはわかった。だが、お前の脳みその大半が馬鹿になって、手遅れになっていることが深刻だ。一度、死に戻りしたらどうだ?治るかもしれん」
「治るか!」
正俊はオオカミに向かってつっこんだ。
「ところで勝馬くん、ここはどこ?」
正俊は周りを見渡した。
幾つかロッカーがあり、テーブルとイスがある所から休憩所のような場所だった。
しいて言うなら、従業員が使うような場所だった。
「逃走の際、適当な部屋に入ったからな、ここがどこに位置するのかはわからない」
「ふ~ん」
正俊はこの部屋を探り始めた。
電気のスイッチを見つけては点けて見た。
電気は見事に点いた。
「ふん~ふ~ん」
「正俊、何をしている」
「何って、調べもの~」
正俊はロッカーを開けては探っていた。
「ほら、俺らがここに来た理由って、従業員行方不明があったからでしょ?」
「そうだ」
「店長は災難だね。いきなり、何人も従業員がいなくなっちゃうだもの。そんでもって、人攫いの容疑者としてなっちゃうし、可哀そうだわ」
「仕方ない、表向きでは証明できないことだ。だが、だからと言って、このまま冤罪を見逃すわけにはいかない。この事件を解決することで、我々がその証明に立てることができる」
「そだねぇ~」
「どうした?」
「ん~?奴さんがどういう気持ちで、地獄蟲と契約をしたのかなってさ~。あのねーちゃん、美人だったし」
「言っておくが、同情はするなよ。地獄蟲との契約は人道を外れている。理由はともあれ、罰を受けるべきだ。一つ聞くがさっきから、何を探している?」
正俊は、ずっとロッカーの中を探っていた。
「行方不明者は、ほとんど女の子だよね」
「そうだ」
「その彼女達の物が全部ここにある」
正俊は勝馬にロッカーの中身を見せた。
血がついた女物が入っていた。
その奥にあるものも。
勝馬はそれを見た時、目を細めた。
正俊達が行方不明事件を聞いた時から、この案件は手遅れに近かった。
膿蟲が孵化間近と迫って来ている今、被害者は一人二人ではないだろう。
正俊は小さく呟いた。
「わかっているよ…」
勝馬に言われなくても、わかっている。
別に地獄蟲に魅了された奴に同情はしていない。
ただ、行き場のない怒りが膨らんだだけだ。
これから出会うであろう奴に、冷静に対応するために、肝に銘じておきたかった。
地獄蟲に囚われた彼女も喰われた彼女達もみんな、この呪縛から解き放つ。
正俊は床に転がっていた刀を拾った。
勝馬はオオカミから人の姿に戻り、床に散乱した服を拾った。
準備が整えると二人はその部屋から出た。
部屋から出るとそこは短い通路だった。
その通路はレンガ模様の壁紙を使っており、レトロを感じさせるものだった。
通路を抜けるとそこは喫茶店の店内だった。
店内は先ほどの通路と同じレンガ模様をモチーフにした店内だった。
その店内に着ぐるみと一人の男性が店内の末席に座って居た。
着ぐるみはシカっぽい着ぐるみを着ていた。
長くていかつい角がついているのだからシカだろう。
男性はただずっと下を向いて虚ろげだ。
正俊達が警戒しながら近づくとシカの着ぐるみは言葉を吐いた。
「メリークリスマス、オオカミさん」
正俊はシカの言葉に答えた。
「シカくん、仕事場間違ってない?サンタはどこ行ったの?」
シカの着ぐるみは口から煙を吐いた。
着ぐるみの中でタバコを一服しているようだ。
「オレは、シカじゃねーよ。オレは、ウシだよ」
シカの着ぐるみは、角を取った。
ウシだった。
正俊は言葉を出した。
「紛らわしいんだけど…?」
「これも営業なんだよ、今日はクリスマスだからな。言っておくが、サンタは目の前にいるぞ?」
ウシの答えに目の前の男はビクっと怯えるように反応した。
「へえぇ~あんたがサンタなんだ?何配ってんの?」
正俊の言葉に男性は震えながら答えた。
一応、喋れるみたいだった。
「お、おま、お前たちが悪いんだっ!お、おれの彼女をっ!ころ、殺した!」
「はあ?何言ってんの?」
ウシはタバコを灰皿で潰してから、言葉を出した。
「オオカミさん達、そこまでにしてもらっていいか?」
「こっちも仕事なんでね、無理なんだわ。ウシさんあんたから、蟲のにおいするんだけど?臭いんだけど?」
「ウシさん、このタバコ臭ささがアイデンティティーなんだけど、ちょっとショックだわ。後でウサギさんに慰めてもらおう」
ウシは携帯を取り出しては、ぽちぽちと打っていた。
ウシは着ぐるみを着ていても携帯を使いこなせていた。
「ちょっとウシさん、話まだ終わってないんだけど?」
「オオカミさん、今日は雪が降っているみたいだ。こんな日に、夢を壊すなんてことはいけないよ」
ウシは立ち上がり、俯く男の肩を叩いては、そのまま店の出口に向かった。
「待て!」
勝馬が鬼火を使い、出口を防いだ。
正俊は刀から刀身を出し、ウシに斬りかかった。
「やれやれ、オオカミさんは怖いねぇ…すぐに喰ってかかる」
正俊の刃はウシの素手によって止められた。
「……っ!」
そのまま、刀ごと投げ出されてしまった。
勝馬が鬼火を追加しようとした時、背後に黒蟲がいた。
2メートル級の黒蟲がいた。
「くっ…!」
勝馬は直ちにそれを焼き切るが、湧いて出る黒蟲達に足を取られる。
すると、一匹の黒蟲がウシの前に現れた。
その黒蟲は身体を蛍光していた。
まるで蛍のようだった。
「オレはなぁ…蛍が好きなんだ。ほう~ほう~ほ~たる~こいってなぁ…」
蛍のような黒蟲はいきなりその身体を膨張し始めた。
勝馬は嫌な予感がした。
「……っ!!」
派手な爆発音を奏で、店内の一部を破壊した。
勝馬は吹き飛ばされた。
蛍のような黒蟲は爆弾だったのだ。
煙が舞う中、ウシは店内からそのまま出てしまった。




