番外編 オオカミ達のクリスマス。(その6)
暗闇の中で青年は目を覚めた。
どれぐらい意識を飛ばしていたのだろうか?
身体の痛みから、そんなに経っていないと思う。
膿蟲に叩きつけられた衝撃で背中が痛い。
それもそうか、打った所を体重をかけているから、そりゃあ痛い。
青年は身体を動かした。
あ…動く。
黒蟲に群がれて身動き取れなかったのに、今は、普通に動かせることができた。
むっくりと起き上がる。
「いっつう…」
背中痛い…
青年は頭を掻いた。
「耳とか出てないよな…」
あれだけのことがあって、オオカミに戻る事はなかったが…
おねしょ、もとい、中途半端になることは避けたい。
「ああ、よかった…出てないすね…ケツも…出てない」
尻尾とか勘弁だな…
ズボンに穴を開けていないから、もっこりなりそうだ。
新調したスーツに穴を開けたくはなかったが、これから何度もこんなことが起きる。
人前でもっこりなる前に、穴を開けなくては…
「はあ…」
自然とため息をついた。
「俺、かっこわるいっす…」
あの一撃を防げたのに、まんまと受けて、結果はこれだ。
「…はぁ…」
まさか、正俊さんがああなるとは思わなかった。
結構、実力がある人だと聞いていた。
「俺、騙されている…?いやいやいや…まさかね?…正俊さん、無事かな…?ヤバかったらどうしよう…。自分で言うのもなんだけど、あの人、馬鹿そうだし…アホそうだし…そんでもって、ゴキブリ並みの生命力だと思うし大丈夫っすね!」
なんか元気出た。
「むしろ勝馬さんの方が、危なくないすか?」
あれだけ、鬼火を使ったんだ。
体力的にも危ない。
「助けに行かないと…!」
青年は立ち上がった。
少しふらついたが、問題ない。
「しかし、ここはどこっすか?」
真っ暗で何も見えない。
においを嗅いでみる。
「くんくん、おえ…」
血生臭いのは変わらない。
気配は……今の所は何も無い。
黒蟲の蠢く気配、膿蟲の気配、人狼の気配も感じられない。
「俺、一人っすか…」
ぼっちだ…俺、今ぼっちだ…。
そんでもって…
「俺、鬼火使えない」
この暗闇で、鬼火が使えないのは痛感だった。
鬼火は黒蟲を滅するのも有効な術の一つだ。
鬼火が使えなくても、他の術を使えばいいだけの話だが、青年は術すら使えなかった。
地獄蟲を滅するための術が使えないとなると、それはただの人狼だ。
だが、青年はこうなることをわかっていた。
他の人狼の足を引っ張ることも、命の危機にだって陥るのもわかっている。
わかっていて、山犬になることを決意し、ここまで頑張って来た。
「せっかく、山犬になったんっす!弱音は吐かないっす!」
青年は暗闇の中をしっかりとした足取りで進んだ。
すると、足に何か当たった。
重みがある物だった。
足に当たった物を手に取る。
「こ、これは!俺の!紅桜っす~~~!」
手になじむ延べ棒は、俺の武器だ。
すべすべの紅桜を撫でまわして、武器の調子を見てみる。
暗闇だから、そこまでわからないが、床を軽く叩いて音を確かめる。
重みがある低くい音が響いた。
「いいっすね」
武器の調子はいいみたいだ。
そうして、青年は警戒しながら、暗闇の中を進んで行った。
暗闇の中を歩いて、おでこをぶつける。
もん絶しつつ、目の前に壁があることを認識した。
青年は額を押さえながら、壁伝いに歩いた。
すると、ドアノブらしきものを手に触れて、そこは扉だと認識する。
「ここっすね!」
青年は一気にドアノブを回し扉を開けた。
視界一杯の明るさに目を細めた。
青年の前に広がったのは、廊下だった。
それも、幾つもの扉がある廊下だ。
「ここって…戦った場所とは違うっすね…」
扉にはプレートがつけられている。
プレートには番号があり、それぞれ順につけられていた。
青年が出て来た扉には、105と番号がふられていた。
向かいの扉には104とふっていた。
きちんとした番号がふられていることから、確立した世界だと認識した。
正俊達といた場所は、廊下と扉が歪んでいた。
異常だとすぐにわかった。
だが、ここは誰かに言われないとわからない場所だ。
長い廊下はなく、行き止まりがあり、上へと続く階段があった。
反対の通路には、カウンターがありレジがあった。
カウンターの先には、出口らしき扉もあった。
現世の世界と似た世界だった。
一般の人が迷ったら確実に現世だと間違えるだろう。
「ここって、カラオケボックスっすよね?えらく広い建物っすねぇ…」
きっと上の層もカラオケボックスになっていると違いない。
青年はとりあえず、出口の方に向かい、開くかどうか確かめた。
「やっぱりっすか…」
扉はガッチリしまっていて、開かなかった。
ここは幽世、そう簡単には帰してはもらえない。
「なんなら、どうするか…頑張るしかないっすね」
青年はこの空間を見渡し、気合を入れた。
「さて、幽世攻略と行くっす!」
どれぐらい、一人で行けるかわからない。
だが、動かなければ何も始まらない。




