グラマー巫女。
駅の切符売り場にて、灯花は絶望した。
お金が無い。
お財布ごと地獄蟲に喰われました。
「あの蟲ども、いつかガ〇ャポンに詰めてやる…」
何か、十円玉でもいいから何かないかとかばんを探る。
瓶詰めの硯鬼と目があった。
硯鬼が何かを喋り出す前にかばんのチャックを閉めた。
いつまでも駅でたむろしては迷惑だと思い、気分も変えたくて駅から離れた。
駅から、ぽつぽつ歩いて行って、公園にたどり着く。
どうやって、家に帰ろうかと途方に暮れて、公園のベンチに座った。
天狼さんに一言言ってから、帰ればよかったと後悔した。
車を降りてから、すぐに教室に向かったから、何も言えておらず、お礼も何も出来てない。
しかも、自分の身勝手な考えで、真夜を置いて先に帰っちゃった。
これじゃあ、すぐ友達がいなくなるのも頷ける。
私って、ほんと嫌な奴だな…
落ち込んでいると、冬のそよ風が吹いた。
同時に甘い匂いが流れて来た。
匂いの元をたどると、車売りがそこにあった。
「たい焼き?」
そう言えば、お昼は取っていなかった。
追試のことばかりで食べる暇はなかった。
お腹空いた…
でも、お金持ってない。
頭がふらふらするし、身体に力が入らない。
灯花はベンチに座ったまま、動けないでいた。
一晩中、禁忌の箱を駆け回ったあとの追試は、さすがにピークに達していた。
ウトウトと瞼を落していく。
今、寝たら、3日ぐらい寝られそう…
ここで寝たら駄目だ、寝たら駄目だ…
ホームレスになっちまう…
…………
……
…
「あんた、ここで寝たら襲われるよ」
その声で、はっと目を覚ました。
まさか、声をかけられると思っていなかったからだ。
落ちていた顔を上げると、そこには見覚えがある人が立っていた。
「って、あんた…りんと一緒にいた…灯花、ちゃんか?」
目の前にいる男性は、灰色の短髪と銀色のピヤスが特徴的だった。
黒シャツと作業ズボンを着ていて、その上に黒地のエプロン。
頭にタオルを巻いては、汗をぬぐっていた。
まるで、ラーメン屋のお兄さんだ。
こんな人とお知り合いだったけ…?
男の茶色の瞳と目が合った。
あっやっべ……。
目が合っても、思い出せてない。
焦っていると、男は自分の首をもみながら言葉を出した。
「そんな目で見なくても、喰ったりはしない」
びくっ!
「あ、えっと…そ、そんなつもりでは…」
私が怯えていると勘違いしたのだろう。
まあちょっと、怖いけど…
「その…どちら、さまでしたっけ…?」
灯花の言葉に男は一度はきょとんとして、そして、くすっと笑った。
「なんだ、俺の事忘れたか?ま、一回しか会ってないもんな、仕方ないか…俺は、梓川愁、前はたこ焼きやっていたが、今はたい焼き屋をしている」
「あずさがわ…しゅう、愁さん?あ、たこ焼き屋の!」
私は、この公園でりんさんとたこ焼きを食べたことがあった。
その時のたこ焼き屋が愁さんだ。
「思い出したか?」
「あ、はい…すみません、忘れてて…」
「いいさ、別に気にしてない」
私はもう一度、謝ることにした。
「愁さん…すみません…」
それを聞いた愁は、一息吐いて言葉を出した。
「灯花ちゃん、りんの事は謝るな。りんの事はちゃんと聞いているし、理解もしている。これ以上、灯花ちゃんが気に病むことじゃない」
「…愁さん」
「むしろ、りんが灯花ちゃんを守れたことが何よりだ。山犬として誇れることをしたんだ。だからさ、灯花ちゃん、あいつの為にも笑っててくれ…頼むよ」
灯花は息苦しくなった。
そんな優しい言葉をかけられても困るのだ。
「…………」
前よりは泣かなくなった。
だけど、うまく笑えないのだ。
今の私の顔は、とてもひきつった顔だと思った。
「それでいい…」
愁さんの顔は、天狼さんと同じ優しい微笑みだった。
少し間を置いてから、愁さんから言葉をかけられた。
「ところで、灯花ちゃん。ここで何してたんだ?待ち合わせか?」
そう問われて、少し言いずらいが正直に話すことにした。
「お金が無いんです…だから、その、家に帰れなくて…」
「携帯は?」
「…なくしました」
「そいう事なら、早く言いな。家の電話番号は?携帯貸すよ?」
「…いいんですか!」
「いいよ」
「ありがとうございます!」
天の助けだ~~!
愁さんから、さっそく携帯を貸してもらい電話をかける。
…が、家になかなか電話が繋がらない。
迎えに来てもらおうと思っていたんだけど、繋がらないんじゃあどうしようもできない。
携帯からお留守電話の声が流れ、気持ちが真っ青になった。
「………繋がらないか?」
「あはは…みたいです…」
ガックリと肩を落とした。
いつもなら、ゲームしているお母さまが家にいるんだけど、今日に限っていない。
せっかく、携帯を貸してくれた愁さんに申し訳ない。
「…なんなら、家まで送ろうか?」
愁さんから、そんな言葉を聞いて、戸惑う。
「愁さん…でも、お仕事が…」
彼は車売りでたい焼きを売っている。
仕事の邪魔はしたくはない。
「う~~ん、待ってくれたら送るよ。このまま、ほっとくのも心配だしな」
愁さんの言葉に灯花は頭を下げた。
「すみません、お願いします」
ここはお願いするしかなかった。
見た目はちょっと怖いけど、愁さんは本当に優しい人だと思った。
すると、公園に一つのスクーターが止まった。
そのスクーターが自然と目に入った。
スクーターから降りて、ヘルメットを取った人は恰好が特殊だった。
「…巫女さん?」
それも、胸がでかい巫女さんだった。
わあ…でかい!
その巫女さんは背は高くはなく、スタイルはぽっちゃり系だった。
いわゆる、グラマーってやつだ。
なんか…巫女さん、こっち来てない?
「しゅ~うちゃ~~ん!」
声高めに、こちらに向かって走って来たのである。
近くまで来た時には、胸のデカさがはっきりとわかった。
この人、でかい!
巫女さんは、愁さんの元にたどり着くと言葉を出した。
「愁ちゃん、おまたせー!」
「待ってない」
「愁ちゃん、つめた~い!」
「冷たくない」
愁さんが答えると、巫女さんはこちらを向いた。
ブラウンのショートの髪に、前髪だけイチゴのヘアゴムで止めていた。
ふくよかな顔立ちにもっちりとした肌と柔らかそうな桃色の唇。
長いまつ毛と灰色の瞳を持っていた。
巫女の特徴とする、真っ白い着物に紅の袴に、たぶんD以上はあるんじゃないと思うほどの胸、おっぱい。
そのおっぱいがゆさゆさと揺らしながら、こちらを見ていた。
「もしかして、愁ちゃんの彼女!?」
「…ちがいます」
灯花は冷静かつ低いトーンで答えた。
たぶん、色々と元気がなかったからかもしれない。
「ちげーよ、姉貴。その子は俺の知り合いだ。ほら、前に話しただろ、りんの…」
巫女さんは、思い出したように言葉を出した。
「あ~陸道のご子息ね、聞いているわぁ。とても、残念よねぇ…あなたもまだ高校生なのに運が悪かったねぇ…」
「はぁ…」
巫女さんは、りんさんのことを聞いているみたいだ。
私の事はついでにと聞いているのだろう。
灯花がそう思っていると愁は灯花に言葉をかけた。
「突然悪いな、灯花ちゃん……姉貴、大きいだろ」
「はい…大きいです。ってお姉さんなんですか?」
「ああ…梓川市子通称梓川農園のぽっちゃりイチゴ」
「…えぇへ」
市子さん、愁さんのこと見ていますよ。
「も~愁ちゃん、めっだよ~!市子、愁ちゃんのイチジク潰したくないよ~!」
めっちゃ可愛く言っているけど、何気にサラッと脅しているし…
市子さんは改めて、私に向き直って言った。
「え~とぉ市子で~す!よろしくね!」
「あ、灯花です。朝峰灯花です」
私は市子さんと握手をした。
市子さんの手は、ふっくら柔らかった。




