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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第三章 契りって何ですか?天狼さん。
103/310

幽世からの脱出、現世からの現実。最終

 灯花は日の明るさに目を細めながら、天狼の誓いの言葉に静かに頷いた。

こんな時、なにか言葉を掛けた方がいいのだろう。

その方が恰好が付くだろうし、明確な意思表示なるから言った方がいい。

だが、私の小さな脳みそは、今、盛大に盛り上がっていて、この場で口を開くわけにはいかなかった。

やっべぇえ~ちょお~~かっこいいぃい~~~!

げっへへへぇ~~~~!!やっべぇえ~~~!

男の人が膝を着く所を見ると、興奮してしまう。

こういうのは姉譲りかもしれない。

「…灯花」

天狼さんは、じっと私を見ては意志を伺う。

頷いただけじゃ、判断がつかなかったのだろう。

私は、ニヤつく顔を隠しながら、なんとか言葉を絞り出す。

乙女的に…そう、恋愛ゲームの乙女的に…

「……はぁぃ…」

その言葉は、小鳥のような声だった。

ナイス!わ、た、し!

こういう時の乙女ゲーよ!

天狼は灯花の了承を得たと判断し、その場から立ち上がり言葉を出した。

「戻ろうか…」

「…はい」

もちろん、顔を隠しながら返事だ。

ニヤつきが止められない。

やっばあ~~い!

ぐっふふふ…

そして、ちらりと見る。

天狼さんの横顔は、最高だった。

そんな灯花の様子を、硯鬼は口を開けて見ていた。

 

 帰り道は、再び、山道を通ることになった。

禁忌の箱から(蔵)から出て、すぐ近くの階段を下り、石畳みの道を通る。

そこで、石灯篭の青い火がまだ点いていることに気づく。

朝だとしても、まだ日が上がったばかりだ。

暗い所での明りはありがたい。

日が当たっていない所から、冷たい風をもらう。

白い息を吐きながら、朝を迎えたことを実感していた。

途中、天狼さんに言葉をかけられた。

ゆっくり歩けと言われたので、足元を気を付けながら歩む。

そのまま山道を戻って行くと、最後の鳥居の前にまで戻って来た。

「この鳥居…」

普通の鳥居ようだが、どこか重々しい雰囲気がある鳥居のようだ。

鮮やかな紅がうるしを塗りたてのようで、立派だった。

門に名前が刻まれいた。

鬼門と書いてあった。

すると、硯鬼が急に言葉を出した。

「おれ様をどうするんだ?ぶす」

「ブスはよけいじゃない?…そうね、ひとまず保留」

てか、何も考えてない。

「だけど、あそこから出れて良かったでしょう?泣いてたし、ね」

「……うるせーばぁか~!」

「はいはい」

硯鬼の件は、ひとまず、後で考えよう。

拾った分、責任は取らないとね。

そう思いながら、紅い鳥居をくぐった。

「……ふぁっ!!」

頭がふらついた。

まるでエレベーターに乗った時のあの感覚。

倒れはしなかったものの、そのまま、その場に座り込んだ。

「え…なに、これ、気持ち悪い…」

天狼は灯花に近づき様子を伺う。

「大丈夫か?あまり無理をするな…」

少し前に、天狼さんがゆっくり歩けって言われた理由がわかった。

さかいだ。鬼門との境にあたったんだ。禁忌の箱の中で、空間の行き違いが激しかったからな、よけい具合が悪かろう」

ああ、そう言えばあったな…

あの時は、オタ面さんが介抱してくれた。

確か、己の向かう場所を強く想えば、落ち着くとか言っていた。

だけど、ずっと前から帰りたい気持ちでいっぱいだ。

落ち着くどころじゃなかった。

もしかしたら、この酔いは疲れからも来ているのかもしれない。

「うえぇえ…」

硯鬼が瓶の中で、小さな手をぱたぱたと振って、慌てていた。

「うわっ吐くなよ!」

「うぇえ、気持ち悪…」

「おれみて、言うなっ!」

少しでも、気を紛らそうと上を向く。

鳥居の様子が変わっていることに気づく。

「…あ、れ?」

古びた鳥居となっていた。

漆が剥げて、色痩せてしまっていた。

あの立派な鳥居はいずこにと探すが見当たらなかった。

それに、周りの風景が変わっていた。

石畳みはそのままだが、石灯篭の青い火は消え、配置が換わっていた。

私達が通った来た長い山道はどこにもなく、ここからでも奥に社か何かが建っているのが見えた。

森林の雰囲気もなんだかガラリと変わったような気がした。

見間違い?

さっき通ったのに?

天狼さんはここを鬼門との境って言っていた。

鬼門って確か、幽世だ。

じゃあ、私がさっきまでいたところって、まだ、幽世だったんだ…ってきり、出れたんだと思っていた。

「天狼さん…」

「なんだ…?」

「私達、幽世から出れました?」

「ああ、ここはもう現世だ」

「そうですか…」

ようやくだった。

「だあぁああ~~~」

盛大に脱力した。

その場で、ぐでっていると。

「おや、二人ともこんな所で何してんの?」

軽い口調の男の声が聞こえた。

声の主は、言葉を続けた。

「あらら、大丈夫?」

灯花は声の主を見上げる。

「みち、つかささん?」

真白の短髪に深い青色の瞳を持ち、浮世離れした美男。

白地の着物に黒地の袴、その上に灰色の羽織。

首には藍色の毛糸のマフラーを巻き付けていた。

優男に見えて、彼は人狼であり、この土地の神使だそうだ。

「やぁ、灯花ちゃん」

道司は笑みを浮かべながら言葉をかけた。

「本当に大丈夫?」

「…まあ、なんとか…」

道司は腕を組んで、灯花達の様子を見ては言葉を続けた。

「そうぉ?…にしても、二人ともぼろぼろだねぇ~なんか、事件でもあった~?」

「その事件にあったのだが?」

天狼は怪しむように目を細めた。

「あらら~そうなの?あっもしかして、鬼門でも入った?あそこは鬼が住んでいる場所だよ~危なかったねぇ~」

道司は鳥居を見上げては言葉を続けた。

「昨夜、神さんが道を流したのなんだの言ってたし、まさか、鬼門が開いていたとはねぇー」

「えっと…」

どういうことだろう…

「滅多に開かないんだよ~あそこは、運が悪かったね☆」

「はあ…」

「そんなことより、今は灯花を休ませたい」

「うん、そうするといいよ~大変だったねぇ」

天狼は灯花に言葉をかけた。

「灯花、私の背に乗れ、おぶって行こう」

灯花は首を振った。

甘えたい所だけど、家に帰るまでが遠足と言うし、最後まで頑張りたい。

「…大丈夫です、歩けます…」

そう言って、灯花はふらつきながら立ち上がる。

「そこは、甘えた方が思うんだけどな~僕たちに比べて、幽世の往来は身に応えるものだよ」

道司さんはそう言って、気を使ってくれるが私は断った。

「いえ、ここまで来たんです…歩きます」

「そこまで言うのならいいんだけど…ふぅん、君は頑張り屋さんでいい子だね…いい子、いい子」

道司さんは笑みを浮かべてながら、灯花の頭を撫でた。

「…………」

なんだか、この人に褒められると、どうも落ち着かない。

天狼は言葉を出した。

「灯花、お前がそう言うのなら、無理にとは言わない…ゆっくり歩こう」

「…はい」

灯花は天狼の優しさには助かっている。

私のわがままに付き合ってくれて、本当にありがたい。

「ところで、道司。どこかに行くのか?」

「うん、ちょっと…」

道司の様子が少しそわそわしだした。

「……道司さん?」

道司は片目をつぶって言った。

「月ちゃんには内緒ね」

天狼は目を細めて言った。

「まさかと思うが、パチンコと言う娯楽に行くのではないのか?」

天狼がそう言うと、道司は手を振って早足でその場を立ち去った。

「朝パチに行ってきま~~す!」

「…………」

「………いいんですか…一応、聖職者なんじゃ…」

「言った所で、もう遅い…」

気づいたら、目を細めないと見えない、遠い所まで行っていた。

なんていう、足の速さ。

ちょっとした、ため息を吐いた。


 私達は山道を道なりに戻って行った。

途中、古びた小屋を見つける。

それを見つけた時、驚いて飛び上がった。

あの老婆を思い出したからだった。

びくびくと天狼さんの後ろに隠れた。

そんな灯花の様子に天狼は言葉をかける。

「大丈夫だ」

天狼はその小屋に近づき、扉を開けた。

扉の向こうは、ただの汲み取り式のトイレだった。

「うわっ!くさっ!」

ハエがいるじゃん!

天狼は眉をしかめた。

ああ、そう言えば、人狼って鼻が利くんじゃなかった?

私の倍は臭うだろう。

天狼は扉を閉めた。

「随分、手入れが入っていないものだな…まいったものだ」

灯花は鼻を押さえながら、言葉を出した。

「誰も使ってないんですか?」

「ここは、人が滅多に通らない山道だ。見た通り、管理が行き届いていない」

「私が迷った所って、そんな所だったの!?」

下手したら遭難していた。

外灯とか電柱とか色々ないし、社の近くぽいけれど、人の気配も民家の気配もない。

あるのは、古びた公衆トイレ。

「私って、やばいわ…」

ガックリと肩を落とす。

「そう肩を落とすな、お前がここにいることが大事だ」

「天狼さん…」

やっぱり、いい人だ…

「さて、戻るか。ここまで来たら、もうすぐだ」

「はい」

そう返事をしたものの、灯花はあの公衆トイレの場所に見覚えがあった。

形は違えど、トイレという共通点はある。

今度、トイレ入る時。

マジで気を付けよう…


 山道から、屋敷の敷地まで帰って来たが、このお屋敷はかなり広い。

塀が囲っているが、山奥まで広がっている。

屋敷の裏門があり、そこから屋敷の中に入る。

砂利道を通ると、牡丹ぼたん畑が広がっていた。

赤や白、桃色に淡い色の牡丹が畑一面に咲いており、一つ一つ丁寧に剪定せんていされていることから、よく管理されている花園だとわかった。

天狼さんに聞くと、この牡丹畑は奥方のために用意したものだとか。

そんな、花園を通ると、一匹のオオカミに出くわした。

黒と白のまだら模様のオオカミだった。

「お帰りなさいませ」

頭を下げ、お辞儀をする。

まだら、事はなかったか?」

「はい、天狼様がお耳に入れる事は起きておりません」

「そうか…」

天狼はオオカミにひと撫でした。

斑模様のオオカミは、灯花に近寄った。

「うおっ!」

「ご無事でなりよりです」

丁寧な言葉で使いでしゃべった。

「いち早く、お前の居所を教えてくれたのは、そのオオカミだ。斑と言う」

「斑です。お見知り置きを」

「あっはい、灯花です。よろしくお願いします。あぁあと、ありがとうございます」

「いえいえ、これも私めのお務めです。どうか気をお留めせず、お休めください」

「はあ…」

そんな柔らかな声と丁寧な口調で言われても、こっちも頭を下げたくなる。

天狼はそんな灯花をよそに先へと進んだ。

灯花は斑に軽く会釈して、慌てて後をついて行く。

斑は尻尾を振った。

まるで、いいですよーと言っているかのようだった。


 花園を過ぎると屋敷の中に入れる裏口まで来れた。

そこに入ると、そこには藍色の着物の女性が立っていた。

私と同じくらいの身長で小柄の女性。

茶色の瞳で、いつも目を細めて、笑っている。

黒髪で短髪、肌が色白く藍色の着物が良く似合っていた。

「お帰りなさい」

月子さんだった。

「ああ、ただいま」

「…ただいまです」

やっと帰れた。

その場にするすると床に座る。

「お湯は沸かしております」

「ああ、助かる」

「……?」

天狼さんと月子さんの会話を聞いていなかった。

「灯花ちゃん、お風呂に入りましょう。その格好じゃあ、学校に行けないもの」

私はピタリと固まった。

ああ、知ってましたよ。

学校ね、学校。

追試のことなんて、とっくに諦めている。

「学校…行かなきゃだめ?」

子犬のような態度をとってみる。

「はい、だめです」

「~~~~~っ」

泣きそうだ。

ここで、具合が悪くなったとか、言い訳を…

「はい、だめです。倒れるなら、学校でね」

「……っ!!」

月子さん、エスパー!

「月子殿、灯花は…」

そこで、天狼さんの助け船が…………

「はい、だめです。天狼様も学校に行かないといけません。教師たるとも、生徒を導かなくてはいけません。さあ、学校に行く準備をなさってくださいまし」

……沈没船となった。

さすがは、月子さん。

天狼さんをぐうの音も出せないほど、打ちかました。


 私は学校に行くために準備に取り掛かった。

風呂に入って、制服に着替えてとバタバタしながら準備を進める。

少しでも点数を上げる為に、教科書との睨み合いをしつつ、朝食を頂いた。

ここで、頭に入らないとか言っている場合じゃない。

一つでも覚えることが大事である。

泣きたくなるけど…

食事を取っていると、子供達の声が聴こえて来た。

バタバタと走る音が近づいて来て、部屋まで入って来た。

「ばああ~~!おおーー!ははー!よう!」

「おはあーようござーいまーす」

「………おはよう」

「おばようざいます」

「あばあばばっば^~~!」

「…うわああ~~~!」

元気よく入って来たのは、獣耳つきの子供たちだった。

五、六歳児ぐらいの子たちだ。

みんな、着物だったり、幼稚園児の制服着ていた。

とりあえず、挨拶をする。

「……おはよう、ございます」

てかっなんで入って来た?

私は子供は苦手なんだけど…

キラキラな目して近寄られても困る。

「なにたべてんの~~」

「わあ~あじ!あじ!」

「わかめ入りのみそしるしる~」

「もやしのおひたし~あははっもやし!」

元気よくはしゃぐ子供達。

ごめんそんな元気ないんだ…

ごめん…

あと、それ私の卵焼き。

「あれな~に?ひもの?」

「するめ?」

「かつおぶし?」

「みいらっじゃあない?」

「ツタンカーメン~!」

硯鬼入り瓶をぐるぐる回され、いじられていた。

あれだけいじられても、瓶のふたは開かないようだ。

それだけ厳重に封じているのだろう。

開けたら開けたで、厄介なことになりそうだけど……まあ、そん時でいいか…。

すると、開いた襖から天狼さんがスーツ姿で現れた。

紺のネクタイを絞めながら来たので、きゅんとしてしまった。

わあおっ!

「お前たち、食事の邪魔をするのではないぞ」

「じぃじぃ~!」

「じい様!」

「おじい様~」

子供達は見るや否や、天狼さんに飛びついた。

天狼さんは、腕の中に二、三人抱き上げては、大人しくするよう降ろす。

「じぃじぃ~~!」

さすが天狼さん、子供達に好かれている。

みんな嬉しそうに、天狼さんにくっつてはじゃれ合う。

灯花には、その光景が微笑ましく、そして、(うらや)羨ましかった。

「すまんな、食事中に…」

「いえいえ、お気になさらず」

「そうか…さて、お前たちそろそろバスが来る時間だ」

「え~~!じぃじぃ、もっと遊ぼうよ~!」

「じい様じい様、もっともっとだっこ~!

「……だっこ」

天狼さんは子供達を抱き上げては、あやすように言った。

「ん~、幼稚園から帰ってきたら、いくらでもしよう。それまで、良い子にいるのだぞ」

「う~ん…」

「え~~!」

「うぅ…」

子供達は納得してないようだが、渋々幼稚園に行く準備し行った。

「灯花、私はこの子等を送って行く、お前はゆっくり朝食を取ってくれ」

天狼さんは子供達を送迎のバス停まで送るそうだ。

「わかりました…」

天狼が行った後、灯花は食事を続けた。

テーブルの下に気配を感じ、覗いて見ると…

「…………」

「…………」

幼女がいた。

その幼女は、私の煮物を食べながらじっとこちらを見ていた。

どう見ても、幼稚園児。

ついさっき、天狼さんが園児たちを送りに行ったはず…

「……あの~バス来るんじゃない?みんな行ったよ?」

「…………」

幼女は煮物のジャガイモをぽろりと落とした。

「………っぅ」

「はっ!」

幼女は顔をくしゃくしゃにして今にも泣きだしそうだった。

「ちょっお!泣かないで!わかった!わかったよっ!」

灯花は幼女に手を差し出した。

幼女は顔を歪ませてながら、灯花の手を取った。

テーブルの下から幼女を引っ張り出し、わたわた慌てながら灯花は準備をし始める。

転がっている硯鬼をかばんに入れ、教科書も適当に突っ込む。

なにか硯鬼が言っていたけれど、それどころではない。

幼女を連れて、廊下に出る。

そこから、玄関まで急ぐ。

そう言えば、この子のかばんは…

「えっと、かばんは…」

すると、幼女はぱたぱたと走り、玄関の隅の戸棚に置いてあるかばんを取った。

いつでも、出れるように用意してあったのだ。

なんだ、あそこにあったんだ…

ああっ感心している場合じゃない。

私も靴を履かないと。

わたわたと靴を履いていると後ろから声をかけられた。

「あら、もう行くの?」

後ろを振り返ると月子さんとまだ幼稚園に行けない子達がいた。

月子さんに抱っこしてもらっている子、どこかで…

真澄ますみくん、お姉ちゃん達にいってらっしゃいは?」

真澄君は手を上げ、ばいばいしながら言った。

「いってらっ!」

「いってきます」

幼女は小さく不器用な声で返事をした。

「…ぃってきまぅ」

「はい、よんちゃん、灯花ちゃん、いってらっしゃい」

私達は玄関を出た。

朝日を浴びながら、道なりに進んだ。

途中から、道が違っていた。

私はここの土地をよく知らない。

バスがどこに来るのかわからない。

いつも私は駐車場の方へと行くのだが…

そうこうしていると、幼女は独りでに進んだ。

よかった、この子が道を知っていて…

幼女の後をついて行って、山道を抜け、不格好な石の階段を下がる。

すると、道路まで出て来れた。

道路の先にバス停があった。

「あっ!来てる!」

幼稚園バスは既に来ていて、他の幼稚園児はもう乗り込んでいた。

急いで、バス停まで走る。

一人足りてないことに気づいたのか、幼稚園の先生がバスから降りて待っててくれた。

天狼さんも気づいて、先生と何かしゃべっていた。

バス停にたどり着くと、幼女はバスに乗り込もうとしたが、何故か戻って来た。

「…!?」

皆が驚いていると私のそばに来ては私の手を取る。

「えっ?」

なにか柔らかいものを渡された。

幼女は渡し終えるとすぐにバスに乗り込み、バスは発車した。

「…………」

幼女から渡されたのは、煮物のにんじんだった。

何とも言えない気持ちになった。

バスが遠くなって行くと天狼さんから声をかけられた。

「灯花、助かった。置いて行ってしまう所だった」

「はあ…」

一つ聞きたい事があった。

「それより、天狼さん。そんな姿でよかったんですか?」

天狼の姿は獣の耳と尻尾を生やしている。

そんな姿を見られて、大丈夫なのだろうか。

「…?、ああそうか。あれはな、人外でも受け入れてくれる幼稚園なんだ。だから、人狼の姿を見られても平気だ」

「そう、なんですか…」

意外、色々と隠されていると思っていた。

「そろそろ、時間じゃないのか?」

「えっ?」

天狼さんの言葉に疑問を持つと…

「学校、遅刻するぞ」

「やばいっす!」

すぐさま、私達は来た道を戻ることになった。

道路から山道へと戻る途中、自転車のベルの音が鳴った。

すぐさま道を開けると、緑色の物体が通り過ぎた。

「マジ…」

緑色の肌に、頭の上に白い皿と背中には大きな甲羅。

河童かっぱだった。

その河童は、無駄にカッコいい聖剣エクスカリバーを自転車に取り付けて漕いでいた。

「…………」

「灯花、急がないと遅れるぞ?」

天狼さんは、アレを見ても何も感じないのだろうか。

「あ…はい」

なんだか、どっと疲れた。


 学校までは、車で送ってくれることになった。

黒塗りの高級車。

相変わらずのちょぴりの不機嫌の国光さん。

性格まできっちりとした黒スーツと黒の短髪。

赤縁の眼鏡には紫の瞳がきつく覗かせていた。

泣きほくろって、よく泣く人のことを言うのかと思ったけれど、そうでもないね。

「おはようございます、天狼様、朝峰様」

「お、おはようございます…」

「その様子ですと、あまり追試の結果は期待できそうにありませんね」

グサッ

「朝から、そう言うのではない。大目に見てやってくれ」

「うっうっ…」

うなりながら車に乗り込み、教科書を開く。

うぐっ…

全然、頭の中に入らない。

すると、隣の座席に天狼が乗り込んできた。

「あれ…天狼さん?」

「私は一応、担任だが?」

「……先生、へるぷみーです」

「出来るだけのことをしよう」

「せんせぃい~~~!」

国光はその会話を聞きながら、運転席に座った。

「くれぐれも下ばかり見て、酔わないでくださいね」

国光は車を発進させた。

天狼は懐から白い布に包んでいる何かを取り出した。

「灯花、口を開けろ」

「…?」

言われた通りに口を開ける。

すると、口の中に何かを突っ込まれた。

「ぐむっ!」

それは、表面がちょっぴり苦いが、噛むと甘みが増し、口の中でとろけるものだった。

「急いで来たから、まともに食事ができなかっただろう?せめてこれを口に入れて腹の足しにしてくれ」

「………もぐもぐぅん」

「どうだ?」

「おいしいです」

灯花は良く噛んで、それを食べる。

「これ、禁忌の箱から持って来たんですか?」

「うん」

天狼は笑みを浮かべて頷いた。

それは、不思議で危険な箱で作られた干し柿だった。

詳しいことは分からないが、あの作られていた干し柿たちは、なんだか特別な意味があるような気がした。

禁忌の箱に入ってくる者たちの為に作っていたとか………まさかね。

灯花はその干し柿を味わって食べた。

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