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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第三章 契りって何ですか?天狼さん。
102/310

奪衣婆と箱からの脱出。

 天狼は笑みを浮かべながら、言葉を出した。

「ならば、示して見せよ」

これは、言わば挑戦的だ。

今まで、守られてばかりだったから気づかなかった。

天狼さんは、私を人として見ていなかったんだと。

信用はしていたが、信頼はしていなかった。

だから、今試されている。

灯花は、身を引き締め返事をした。

「はい!」

天狼さんを止めたことを自覚して、私は道を選ばねばならない。


 複数の道の内、半分は絞れた。

崩れた鳥居は通らず、崩れていない鳥居を通ることにする。

だが、ここからもっと絞らないといけない。

決めた所で、また破壊の音が鳴った。

鬼のような老婆がすぐそこまで、迫って来ていた。

老婆は、うめき声を上げながら石で出来た鳥居を破壊する。

同時に、陽炎が張り巡らせた黒糸を引き千切って行く。

よく見てみると、陽炎の手が血に濡れていることに気づく。

時間はないのは確かだ。

天狼も迫ってくる老婆に応戦した。

暴れる老婆に天狼は近づき、襲いかかってくる長い腕の一つを素手でへし折った。

あらぬ方向に折ったが、たちまち元に戻ることを知っているのか、天狼はその腕をそのまま、ねじり切った。

天狼さんに、どこにそんな力があったのか、おかしくて恐ろしい。

その残酷さが、人ではない証だろう。

老婆が悲鳴を上げた。

血の飛沫が飛び、その場が血に濡れる。

天狼は、冷たい表情のまま、老婆を見下ろす。

老婆が怯みだす。

すると、呆然としている灯花は声に掛かる。

「急げ」

天狼さんの言葉にはっとする。

「あっ…はい!」

灯花は硯鬼を抱えて、鳥居の方へと走った。


 陽炎は後ろに下がりながらの交戦から、天狼が加わったことで状況が変わった。

「また、派手なことを…」

天狼の行動に少し呆れながら、黒糸に血液を流し込むんだ。

陽炎が持つ、黒糸は地獄蟲の繭、黒蚕かいこから出来ていた。

それは、悪器あっき

血を吸うことで、強度が増す武器。

陽炎は己の血を悪器に注ぐことで、黒糸をより鋭く、強く老婆を縛り上げた。

そんな老婆に、さらに追い込みをかける天狼。

天狼は片手を上げて、青い火をかざし、風を呼び込み、より強力に炎を上げる。

青い火と風が混じり合い、青炎の風となった。

それを一気に、老婆に叩き込んだ。

青い風が老婆を巻き込みながら燃え上がる。

老婆の叫び声が響いた。

陽炎と天狼の連携れんけいで、老婆を倒した。

だが、ここで終わらないのが、禁忌。

老婆は地獄蟲のように、灰にはならなかった。

肉が焦げた臭いが充満する中、黒糸で釣っている老婆の身体に突然、痙攣けいれんが起きた。

痙攣を起こしていた老婆の背中から、血の飛沫と共に、枯れた枝木のような腕が飛び出して来た。

蜘蛛のような長い腕が次々と中から飛び出ては、その姿が露わになった。

姿は、黒髪の老婆だが、蜘蛛のような六本の長い腕と脚を持っていた。

白髪の老婆とさほど変わらない姿だが、沈んだ目から、溢れ出てくる殺意と悪意は尋常でない。

老婆は脱皮をして、肉体を強化したのだ。

老婆からケタケタと笑い声が響いた。

「さて、第二ラウンドと行きますかな…」

陽炎の呟きに、天狼は身を引き締めた。


 灯花は、崩れていない鳥居を調べた。

石が高く積み重なっているだけで、特に目立つものはなかった。

だが、あの綾女さまのことだ。

きっと、なにかヒントはあるはず。

焦る気持ちを必死に抑えながら、次々と鳥居を調べ回った。

灯花の後ろで、老婆の笑い声と派手な爆音が鳴り響いていた。

天狼さん達が老婆を押さえている。

その間に、退路を見つけなくてはいけない。

焦ったら駄目だと思っていても、焦ってしまう。

そうなると集中できなくなる。

「うっ…う…」

己の精神の弱さが、足を引っ張る。

苦し紛れに唸っていると手元の硯鬼が瓶を叩いた。

「……っ!」

「みっともなっ!あの天狼にたんかきっといて、そのざまあぁとわな!」

「うるさい!」

干からびている奴に言われたくない。

「そんなんだから、出られないんだよ!ば~かぁ~!」

「なによ!そっちこそ!綾女さまに思いっ切り、下っ端にされていた癖に!」

硯鬼が入っている瓶を振った。

「あがっががっ!やめろ~~~!」

「だったら手伝ってよ!鬼なんでしょ!オレ様やっているんだったら、かっこいいことしてよー!」

「ふ、るさ~~い~~、ふ、るの~やめれれぇ~~~」

瓶を振るのをやめると、硯鬼は瓶の中でふらつきながら、ゆっくりと手を上げた。

「それって、白旗?」

「お、れ、さまを、なめんな…うえ、だ…うえ…」

「上?」

上を見上げると、それはあった。

「……うそでしょ…」

辺りの霧が役割を果たし、月光によって明るく照らされていた。

「川、なんて…」

夜空に川が流れていた。

霧で溝や淵を作り、それに沿うように水が流れていた。

天の川とは違う。

なぜなら、星ではなく、水が流れていたからだ。

鳴り響く川の音は、ここからだったのだ。

「…ほらっ見ろ!ばあっ…」

「硯鬼!超かっこいい!!」

灯花は硯鬼を強く抱きしめ、そして、高く上げた。

「うわあぁああ~~!!や~め~れ~~!!」

「よくやった!えらい!すごくえらいよ!やったね!」

「ひとの~はな、し~き~け~!ぶん、まわ~すな~~!」

気づけば、また瓶を振っていた。

「あっ!ごめん…」

硯鬼はぐっしょりと萎れていた。

だが、硯鬼のおかげで、道は絞れたのだ。

ここまで派手にやっているんだ。

道は自ずとわかる。

夜空の川に沿って走る。

「てかっ気づくか!このボケェエええーー!」

時間をかければ、気づくだろうと思うけれど、性質が悪い。

性格悪いぞ!綾女さま!

すると、一つの鳥居の前に立ち止まった。

川はこの鳥居を真上を流れていた。

そして、鳥居は崩れておらず普通に通れそうだった。

「…ここだ!」

この先の向こうに出口はあると灯花は確信した。

夜空の川が、鳥居の先にも道を指していたからだ。


 すぐにでも、天狼さん達にこのことを伝えようと振り向いた時。

白い物体が目の前に飛んで来て、鳥居を壊した。

「ぎゃあああ!!」

積み重ねていた石がこちらに崩れて来て、危うく下敷きになりそうになった。

ここは、危機一髪だった。

とっさに離れたから、小石が飛んできた程度で済んだ。

だが、飛んで来た白い物体が何なのかわかると、驚愕きょうがくした。

「天狼さん!!」

天狼は、崩れた石の山に埋もれながら倒れていた。

すぐにも近寄ろうとした時に、声が上がった。

「来るなっ!」

鋭い声だった。

天狼は、ゆっくりと石の山から這い出ては、ふらつきながら立ち上がった。

顔は、長い銀色の髪がさえぎっていて見えなかった。

「まったく、やってくれる…この天狼にここまでしてくれようとはな…」

天狼は怒気がはらんだ言葉を並べては、長い髪を払った。

老婆によって投げ飛ばされ、背中を強く打っていたが、骨には何ともないようだ。

天狼は口に入った土を吐き出して、言葉を出した。

「灯花!」

返事は、震えながら答えた。

「…天狼さんっ…」

天狼は一息吐いてから、言葉を出した。

「道は選んだか?」

天狼さんの顔は、真剣だった。

できるだけ、優しく言おうとしているのが、みてわかった。

灯花は泣きそうになりつつも、その問いにはっきりと答えた。

「はい、天狼さん!道は選びました!出口はこの先です!」

私は、腕を上げて道を指した。

天狼はその道に頷いた。

「わかった」

天狼は、続けて言葉を出した。

「灯花、すまないがそこにいてくれ、すぐに終わらせる」

その気迫に怯みそうになったが、しっかりと答えた。

「はい…」

灯花は天狼さんの背を見送った。


 天狼は再び、暴れる老婆の前に立った。

陽炎は暴れる老婆に黒糸を縛り上げていた。

なぜ、陽炎が老婆を何度も縛り上げるのは、その老婆が不死だからだ。

いくら相手しても、先ほどように脱皮しては再生を繰り返す。

しかも、脱皮して行くともに、力も動きも倍になって行く。

性質が悪い。

天狼は暴れる老婆に前にして言葉を出す。

「だが、脱皮もこれまで、皮をはぐのはこれでおしまいだ、奪衣婆だつえば

長い黒髪を振り乱す老婆に天狼は身を屈め、刀を構えた。

天狼の刀は折れたはずだが、折れた刀で戦おうとしていた。

天狼は目を閉じて、呟いた。

その言葉は、人狼のしょくの意味。

「血はすすれ、肉はじれ、骨は絶て、御霊は死に帰れ」

老婆は、渾身の力を込め六本の腕を伸ばし、天狼へと叩き込もうとしていた。

すると、天狼の夜明けの瞳に鋭い光が宿り、青い閃光が大きく弧を描いた。

折れた刀が鞘に収まる音が鳴ると、後から重いものが崩れ落ちる音が嫌に響いた。

一瞬の出来事。

一振りで、六本の腕を斬り落とし、老婆の首を落した。

力なく崩れた老婆の姿がそこにあった。

天狼は急いで、老婆の胴体に近づいた。

老婆を滅せる方法は一つ、核を破壊しなければならない。

核は、の中だ。(胃の中)

異の中に己の分身を生成し、肉体が崩ればそこから這い出て来る。

異の中から這い出てくる前に、滅せなければ。

天狼は、老婆の胴体に直に手を突っ込んだ。

爪で肉をえぐり、異を掴み、握り潰した。

それと同時に、青い炎で燃やし尽くした。



 一方、綾女さまは額を押さえて、ひっくり返っていた。

突然、石が飛んできて、額に当たったのである。

涙目になって、恨めしそうにつぶやいていた。

「…く、うぐっ天狼めぇえ~~!」

布団の上で額をさすりながら、手鏡の様子を見る。

「まさか、天狼が吹っ飛んで来るとは…白猿の位置が悪かったのか?それとも?…うぐうぅう、これもあの蚯蚓みみず娘のせいだあ!」

小型の白猿を鳥居に潜ませて、様子を伺っていた。

だが、そこに天狼が吹っ飛んで来て、鳥居が崩れたのである。

そして、見事に石の山に埋もれたのである。

布団の上は、石がごろごろと転がっていた。

白猿と我の手鏡は繋がっている。

「ちんたらちんたらちんたら!あの小娘が迷っていたからだ!……ちょっと…心配したではないかっ!下級の人間のくせに!生意気だあ!!」

布団の上の石を蹴飛ばしては、足の親指を痛める。

「うぐううぅう…おのれぇえ!これも天狼のせいぃだあぁあ!!」

一人、布団の上で絶叫をしていた。



 灯花は老婆が崩れる光景をしっかりと見ていた。

「終わったの?…」

老婆は青い炎に包まれて行った。

あの炎は、跡形もなく焼き切るだろう。

硯鬼を抱きとめて、この寒さを凌いだ。

すると、風が吹いたと思ったら、いきなり突風が吹いた。

「…え?」

その突風は、銀色を運んで来た。

灯花はいつの間にか、風と共に銀色にさらわれていた。

「て、てってんろうさんん!」

天狼は灯花を抱えて、風のように駆けていた。

「この道でいいんだな?」

天狼の言葉に灯花は、舌を噛みそうになりながらも答えた。

「あははぃいぃ!そおぉおですうぅう!」

風のような速さと俵担ぎでお腹か苦しかったから、上手く喋れるはずもない。

「ぐへぇえっ!」

鳥居は崩れてしまったが、夜空の川は道を示していた。

天狼は灯花の言葉を理解し、その鳥居を通った。

天狼の後を陽炎が追走していた。

陽炎は鬼の面がずれないように支えて駆けていた。

オタ面さんは、無事だった。

手の平の血が気になるが、今はそれどころでない。

灯花は、硯鬼を落さないように気を付けた。


 崩れた鳥居をくぐると、まだ山道は続いていた。

そして、また同じような石の鳥居が私達を取り囲んだ。

でも、道はわかる。

「天狼さん!あの鳥居です!」

夜空の川は、道を示している。

灯花はその通りに、天狼に伝えた。

天狼は言われた通りに、その道を駆ける。

そうして、私達は幾つもの鳥居を抜けて行った。

夜空の川に沿って行くと、階段が見えて来た。

天狼さん達は、その階段を飛ぶように駆け上がった。

階段を駆け上がると、社のような建物があった。

それは、見たことがある社だった。

古びた社のようで、扉には鈴を付けた錆びたくさりと札がつけられていた。

「陽炎!」

「承知!」

二つ返事にて、陽炎は黒糸を使い、社の鈴を鳴らした。

すると、社の扉が勝手に開き、鈴の音と共に、私達はその扉の中に飛び入りした。

扉の向こうは、闇だった。

だけど、それは一瞬だった。

埃くさい空間に、青い火のろうそくが灯ったのだ。

天狼は、灯花を抱えたまま、早足で床を踏む。

床がきしむ音が響いた。

ここは、古い家屋の廊下のようだ。

私達はここを通ったことがある。

禁忌の箱に入った時、この廊下があった。

その時、私はこの先には行けなかった。

なぜなら、この先にあのトイレがあったからだ。

青い火のろうそくが並ぶ廊下を進んで行くと、また古びた扉があった。

天狼さんは、その扉を開けた。

眩い光が入りこんで、光が私達を包んだ。

その光は、夜明けの光だった。

「眩しい…」

うまく目が開けられないほどの明るい光だった。

日の温かみが身体を包みだす。

冷たいのと温もりがある風が吹いて来ていた。

日の明りで、私達がどこにいるかすぐにわかった。

「えっ…」

丁度、古びた社から出ていた。

てっきり、あの廊下に奥があるのかと思っていた。

だが、そこは鏡写しのように社から出ていた。

目の前に、鈴が付いた鎖の束がある。

錆びた鎖と大量の札。

重々しい雰囲気のある社で間違いない。

「で、出られた、の?……」

「そのようだな…」

天狼さんは、ゆっくり私を降ろした。

天狼さんの言葉で、息が詰まっていた。

「あ、あっ…あ…」

「よく頑張ったな…」

天狼さんの優しい言葉で、ぽろりと涙が零れた。


 私達は、禁忌の箱であるこの場所から離れた。

そう言えば…

「あの、天狼さん怪我大丈夫ですか?オタ面さんも…」

天狼さんは、肩に着いた土を払った。

「大事無い」

「本当ですか?」

疑ってみる。

「本当だ」

じっと見てみる。

「本当だ」

夜明けの瞳と目が合う。

こっちが照れてしまう。

「…………それで、オタ面さんは…」

「超痛いぃでござる~~!」

私を抱きしめようと迫ったが、すかさず避ける。

「あ、平気そうでよかったです」

もう、油断しない。

軽口言えるほどだ。

大丈夫なのだろう。

「灯花、お前は大事ないか?」

ぬうっと天狼さんが私を覗き込む。

さっき泣いたばっかだし、あんまり見られたくない。

「だっだいじょうぶです!」

適当の言葉を言って身を引こうとすると、天狼さんの大きな手が伸びて来た。

驚いて、固まっているとその手は私の顔にそっと触れた。

ほほに付いた涙の跡を拭う。

「泣かせてばかりで、すまなかったな…」

柔らかな言葉とその表情にこっちが見惚れてしまう。

これで、あきらめろというのは、ひどい話だ。

禁忌の箱の中で、私は振られたのだ。

複雑の感情を持ちながら、私は頷いた。

恋と言うものは、難しいものだと知った。

「所で、よくわかったでござるな~見事に道を選んだござる」

オタ面さんの言葉で、はっとした。

「そうでもないですよ…」

見上げたらわかることだったのだ。

「私も聞きたいな、どうしてわかったのだ?」

「えっ?ああ…」

天狼さんが聞いて来たので、硯鬼が教えてくれたことや、夜空の川の事を話した。

だが、帰って来た言葉は意外な言葉だった。

「灯花がいなかったら、私はそのまま、閉じ込められていたな…なぜなら、私はその川を見えていなかったのだから」

「そんなっ!だって、あんなに分かりやすく…」

「本当だ。見えていたら、あそこで立ち止まらん」

「…………」

啞然とした。

「だからこそ…灯花、よくやった。硯鬼もよくやったな」

天狼さんは、硯鬼にも言葉を贈った。

「けっ!」

硯鬼は瓶の中で、ぷいとよそを向いた。

照れているのかな?

「よかったね、褒められて」

ぷいぷいとまたよそを向いた。

「もしかしてですけど、実はオタ面さん。見えていました?」

こちらも、ぷいとよそを向いた。

「見えていたんかい!」

下手な口笛までしてる。

「もういいですよ…」

オタ面さんが、ああなのは禁忌の箱の中で十分わかってる。

「でもどうして、天狼さんが見えなかったのだろう?」

「綾女殿は、意地悪だからでござらんか?」

そこは答えてくれるんですね…

「まあ、見方が違うと道が異なるのは必然的でござる」

天狼さんと私達と何が違ったのだろうか?

「ん~、難しい…」

「いづれ分かるでござるよ。それに、当の本人も理解しているぞよ」

天狼は静かに頷いた。

「天狼さんがわかっているのなら…いいか…」

実際、よくわかんないけど…

天狼さんが最初から出口を見つけ出そうとはしなかったことと関係しているのかな?

だとすると、出口が異なるのはわかる。

話を変えて。

「そう言えば、あの老婆は一体何だったのですか?いきなり、出て来ては襲って来て…」

「あれは…」

天狼さんは言葉を出そうとして、それを遮ったのはオタ面さんだった。

「あれは、堕鬼だきと言って、悪の組織が作ったキメラでござるよ」

「はっ?きめら?」

「地獄蟲と鬼のとの融合体でござる」

「うえぇ…」

なんで、そんなものが…

陽炎は言葉を続けた。

「…堕鬼が箱に入れられた理由があるでござる。あの堕鬼の恐ろしさは、その繁殖力にあるでぞよ」

「まさか…」

天狼さんが驚いている。

ってことは、天狼さんが思っていなかったことが起きていたことになる。

「今頃、次の堕鬼が産まれているでござろうな」

「えーっと、うまくわからないです」

天狼さんがわかっても、私はさっぱりだ。

「あの堕鬼は、子供を産んでいたでござるよ」

「マジ」

「マジマジ」

なんてこったい!

あれが、何体もいるのかよ!

「禁忌の箱って、マジでやばいものばかりじゃない!」

「だから、禁忌でござる」

「うわあぁああ~~~!」

灯花は頭を抱えた。

もう二度と入るか!


 二度と入らないと心に誓った後。

私は、オタ面さんに向き直った。

陽炎の手の平は血に濡れていた。

ハンカチとかあったら、手当してあげたかったけど、生憎それは持ち合わせてない。

「その、手、大丈夫ですか…」

「ん?ああ…男の勲章でござる」

「さいですか……あの、助けてくれてありがとうございました」

ぺこっと礼を言った。

「ぬふふっ拙者は、ただでは動かない主義でござる。灯花たんの礼は、コスと決まっているでござるよ」

「ああ…そうでした」

ああ、どうしよう…まじでどうしよう。

「ぐふふ、楽しみにしてるでござる」

天狼が何か言う前に、陽炎は瞬時に動き、その場から離れた。

「それでは、さらばでござる!」

鈴の音を鳴らして、陽炎は高く跳んで行った。

あまりにも早すぎて、どこに行ったのかわからなかった。

あの人、忍者なの?

「灯花、陽炎と何をしたんだ?」

「あ、いえ、その…」

安易に引き受けるんじゃなかったな…

このことを天狼さんに言った方がいいんだけど…やめておく。

なぜなら、これは自分の失態だから。

これ以上甘えたくないし、それに…

「私、強くなりたいです」

「うん?」

いきなり何を言っているんだと言わんばかりの顔だった。

「今回のことで、自分のことわかったんです。弱かった理由がわかったんです。これから、きっと何度も幽世に堕ちてしまうだろうし、そうだからって、そのままに居たくないんです。泣き虫のまま、無力のままで、自分を責めたり、相手を責めたりもうしたくない。だから、強くなりたい」

私は初めて、己の意識し、変えようと思った。

変えなければいけない。

後ろはたくさん見て来たし、体験してきた。

それに、りんさんのような悲劇を繰り返したくない。

「だから、その…」

『天狼さん』ともう呼べないだろう。

これからは…

「久遠先生、私を強くしてください。お願いします」

頭を深く下げた。

図々しいお願いごとだと思う。

けれど、私一人じゃあどうしようできない。

ぐっと頭を下げるが返事は、なかなか返っては来なかった。

おずおずと頭を上げると…

目を点にしている天狼さんがいた。

私がこうゆう事すると思っていなかったのだろう。

「えっと、久遠先生?」

「…………」

「久遠先生」

「…………」

「先生!」

天狼ははっとしたが、灯花の言葉に悩んでいる様子だった。

「…………」

「あの、先生?」

「…考え、させてくれ…」

「え」

やっぱり…ダメだったか…

図々しいかったよね…

灯花がずうんとなると、天狼は慌てて言葉を言った。

「いや、違うんだ。灯花、違うんだ。そのだな…」

天狼はまいったと言わんばかりだった。

「…………」

灯花が黙っていると、天狼は灯花の頭を触れようとした。

だが、すぐにその手を引っ込めた。

「…………」

しばらく、悩んだ末。

「…わかった。引き受けよう」

「本当ですか!」

「だたし、条件がある」

灯花は頷いた。

天狼は真剣な面持ちで答えた。

「私を『天狼』と呼ぶことだ」

「………いいん、ですか…?」

「ああ」

天狼は頷いた。

「だが、学校にいる時は無理して呼ばなくていい…」

「じゃあ、今まで通りで?」

「そうだ」

なんだか、ほっとした。

自分で言っておいてなんだけど、天狼さんが急に遠く感じてしまった。

胸にぽっかり、穴が開きそうだった。

だから、安心した。

「それとだ…」

「………?」

天狼さんは、腰の刀を取り出しては地面に置き、その場に屈んで片膝を着いた。

「天狼さん……?」

いったい、何を…?

「お前が強くなりたいと望むのなら、お前が強くなれるよう私が支えよう。お前はこれから幾度もの困難が待ち構えている、だからこそ、守らせてくれ。これからのお前を守ると、私は誓う」

それは、誓約うけい

契約より強い結び。

日の出のせいだろうか…

夜明けの瞳が強く輝いていた。

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