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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第三章 契りって何ですか?天狼さん。
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三途の川の箱。

 石を積み重ねて出来た鳥居を進んで行くと、古い小屋が見えて来た。

小屋は山道を挟んで静かに建っていた。

小屋の先にも、石の鳥居は続いているようだが、灯花は小屋の前で待つ陽炎を見つけた。

灯花は慌てて彼の元へ駆け寄った。

天狼と話し込んで、大分遅れてしまったからだ。

「すみません、遅れてしまって…」

オタ面さんは、オタクでもここの監視者だ。

舐めてはいい人ではない。

「おっそ~いでござる~もう~ちょんちょんしちゃうぞ☆」

「…………」

「拙者が悪かったでござる。灯花たんのおでこに川の字がっ!」

人がちゃんとしてんだから、そういうネタはやめてほしい。

あと、ちょんちょんって何だ?

そんな二人の様子を遠目で見ていた天狼が後から合流する。

天狼は何かの気配に気づき、小屋の方へと目を配る。

「この小屋は…」

灯花も天狼の様子に気づき、小屋の方に注目が行く。

見た所、古くなった小屋だ。

木材で出来ていて、貼り付けている板は大分傷んでいた。

風が吹くたびに、板が軋み、今でも崩れそうなくらいガタガタな小屋だった。

灯花は、物置としては設置している場所に違和感を覚えた。

まるで、突然現れたかのようで奇妙だ。

「まさか、ここが出口じゃないですよね……」

灯花が怪しこむと突然、小屋の扉から音が鳴った。

ギイィイと傷んだ扉を軋みさせながら独りでに勝手に開いた。

「…だい、じょうぶなんですか…」

音だけで軽くホラーだ。

灯花は妙な胸騒ぎして、一歩下がった。

天狼も灯花の前に出ては警戒をし、陽炎に言った。

「綾女は、道を用意すると言っていた。わかりにくい道でもあるまい。陽炎、少しはかったか?」

「う~ん、ただ運が悪かったと思うでござるよ~、コンビニのくじで3等が当たるくらいの確率でござる」

そうだとしたら、普段当たらない現象が今起きているということだ。

な~んか、嫌な予感。

てか、オタ面さん、そんな恰好でコンビニ行ったの?

灯花が心の内でつっこんでいると、小屋の中からゆっくり枯れた枝木ような長い腕が現れた。

その腕は、年寄りのような萎れた皮膚と鋭い爪を持っていた。

「…………」

灯花は言葉が出なかった。

小屋の中に化け物がいる。

腕だけ出しているが、にじみ出る殺気は嫌でもわかった。

灯花は天狼の後ろで、びくびく震えながら硯鬼を抱えていた。

硯鬼はガラス瓶の中でも、灯花の振動は伝わっていた。

震えている灯花を静かに見上げていた。

陽炎は天狼の前に出た。

「風のように走ることを、おすすめするでござる」

「言われなくとも」

天狼はすぐに行動に移した。

「…へ?うわあっ!」

いきなり身を引き寄せられ、抱き上げられた。

このスタイルは、逃げのスタイルだ。

「天狼さん!」

「硯鬼をしっかり持て、走るぞ!」

天狼さんの言葉で事の度合いが伝わる。

ただの化け物じゃないのだろう。

白猿同様に、何かある。

「はい!」

天狼さんが走る邪魔にならないように、できるだけじっとする。

変にジタバタすれば、よけいに重荷になるからだ。

自分はたわらだと言い聞かせて、状況を見る。

天狼さんが山道を走り始め、オタ面さんも後に続いて走り、後ろを振り返っては鈴を鳴らした。

すると、小屋が崩れた音が響いた。

派手な音を鳴らして、こちらに向かって来たのは、蜘蛛のような六本の長い腕に長い脚、ぼろぼろの布切れを着ていて、目が黒く沈んだ白髪の老婆。

額には、二つの白い角にそのうちの片角は折れていた。

そんな化け物に天狼は呟いた。

「あの姿、堕鬼だきか……」

灯花は天狼の言葉に違和感を覚えた。

まるで、前の姿を知っているかのようだった。

天狼は灯花を抱えて、何十門と連なっている石の鳥居を飛ぶように駆けて行く。

風のように駆けると六本の腕の一つが、私達に向かって伸びて来た。

天狼はそれを高く跳んでかわし、その隙に陽炎は黒糸を使い老婆の動きを縛り上げる。

老婆の動きは黒糸によって止まったものの、すぐにでも解けてしまいそうだ。

身体に絡み付く黒糸を六本の腕と爪で引き千切って行く。

あの黒糸を簡単に引き千切るほど、老婆の力は相当なものだ。

どうりで、天狼さん達が逃げる訳だ。

今の天狼さんには折れた刀しかない。

それにオタ面さんだけじゃあ、力不足かもしれない。

私の心配しすぎかもしれないが、彼らは禁忌の箱に入ってから、連戦だ。

疲労だって重なってくる。

ここは、身を引いた方が賢い。

黒糸での逃亡の時間はそう稼げないが、距離は開けた。

オタ面さんは石の鳥居を使って、黒糸を張り巡らせては、黒糸の壁を作った。

なんとなくだが、ところどころ鳥居が崩れていた理由が分かった気がした。

老婆が石の鳥居を崩して通ったのではないだろうか?

そうだとしたら、老婆はこの場所にゆかりがあるのではないだろうか。

灯花がそう思考を巡らせていると、天狼は急に立ち止った。

その反動が灯花に伝わり、乙女としては汚い声が出た。

「うげぇえぇ!」

「あ、すまない…」

天狼がすかさず詫びて来るが、それどころではないだろう。

今は、陽炎が老婆を足止めをしているが徐々に追って来ている。

灯花は少し咳き込みながら、天狼に問う。

「げほっげほ、ごほっ…で、てんろうさん!どうしたんですか?って…ええぇっ!!」

灯花は、目の前の光景に驚く。

天狼が立ち止った理由がそこにあった。

道が幾つにも別れていたのだ。

別れた道に沿うように幾つもの石の鳥居が、私達を囲むように建っていた。

どれが本当の道なのかわからない。

灯花は、叫んだ。

「綾女さまああーー!!!」

帰り道、わかりやすくしてるって言うたやん!

「ばかあああー!!」



 綾女は、その叫びを聞いていた。

「誰が馬鹿だ!このはえ娘め!」

暗がりの畳み部屋の中で、燭台しょくだいの青火が揺れる。

綾女は布団を被っていた。

滑らかな長い黒髪を広げて、枕元の手鏡を見ながら言葉を出す。

「ふんっ!我は、嘘など言わん。見えとらんお前が悪い!」

今度は枕に顎を乗せ、鏡に映る灯花たちを見ては悪態をついていた。

「馬鹿め!甘い道などないわ!精々、堕鬼だきに追い回されるがいい!あと、天狼!お前は大人しくしててくれよー頼むからー!壊すなよー!頼むからー!」

天狼に対してだけは、懇願こんがんする。

「くっくく…狼狽えておるな小娘」

灯花たちに動きがあると、逐一ちくいち口に出しているようだ。

「鬼の導きは甘くはない、文句があるならば、道は己が開けよ。それに、日が昇る前にここから出なければ、迷い子のお前は道を外す。時はあと一刻もないぞ?さあ、どうする?くふっふふふ…」

綾女は笑いながら、続きを覗き込んだ。



 霧が立ちこむ山道で、灯花たちは迷っていた。

山道は、複数に別れていた。

複数の道に沿うように石を積み重ねて出来た鳥居が、私達を囲うように建っていた。

この中に出口への道は、確かにあるのだろう。

これを一つ一つ確かめたら、そのうち出口は見つかるかもしれない。

だけど、追ってくる老婆に、それを相手する二人の人狼の事もある。

迷っている時間もなく、留まっている時間はない。

これって、大ピンチだよね!

綾女さまを恨みたくなるが、それどころではない。

道を選らねばならない。

灯花は焦る気持ちを押させながら、思考を巡らせ、周りを見渡した。

私達の周りにそびえ立つ、石の鳥居。

崩れている鳥居もあれば、きちんと建っている鳥居もある。

石を積み重ねて出来た鳥居は、一人で崩れたかもしれないが、そう簡単には崩れないように出来ているだろう。

だとしたら、崩れた鳥居は誰かが崩したという事になる。

しかも、その鳥居は、一度誰かが通ったことだ。

それも、力がある者、無慈悲で暴力を振る者。

すると、派手な音が鳴った。

大きな石が破裂する音だ。

粉々になった小石が鉄球の如く飛んで来る。

天狼は片手で青い火を放って、飛んで来た小石を弾いた。

例えば、鬼のような老婆だったら?

老婆が通る道とは?

それは、私達が求める道ではないことは確かだ。

 

 派手な音と共に鬼のような老婆が、石の鳥居を破壊し、また私達に近づいた。

陽炎は再び、鈴を鳴らし、黒糸を張り巡らせる。

黒糸を使い、崩れた石を絡ませ、それを老婆に投げて当てる。

石のより、硬いものって何ですかね…

陽炎が投げた飛ばした石は、それなりに一人で抱えられないほどの大きさの石だ。

老婆の顔に当たったものの、あまり効いていない。

老婆の身体には強度がある、そう簡単に倒せないことがわかった。


 崩れた鳥居は、誰かが通った道だと仮定する。

すると、一気に道は二つになる。

崩れた鳥居を通るか、崩れてない鳥居を通るか、そのどちらかになる。

崩れた鳥居が誰かが通った道ならば、同じ道を進めば出口まで出られるかもしれないが、今は違う。

天狼さんが言っていた、ここは時が経つ、そして変化もしている。

二度通ることは、全く違う道を進むことになるだろう。

そして、今を知っている綾女さまの言葉が、答えに近いことになる。

ここで、綾女さまの言葉を信じてみる。

彼は、この禁忌の箱の管理者だ。

天狼さんは、人狼たちにとって神に等しい存在だ。

そんな天狼さんをここで無下には出来ないだろう。

それを踏まえて考えてみる。

綾女さまは、わかりやすく道を用意しておくと言った。

わかりやすい道が崩れた鳥居のはずもない。

これで、崩れた鳥居は道ではなく、閉じられた道だと言えるだろう。

すると、道は絞られる。

崩れていない鳥居が新たな道となる。

一つの答えを出した時、鬼のような老婆が飢えた声を漏らした。

それは、私達を食べ物か何かだと思っているのだろうか。

天狼が立ち止って、数分が経つ。

突然、天狼は抱えていた灯花をゆっくり降ろした。

「天狼さん…?」

天狼さんの表情は、何かを覚悟した真剣な顔立ちだった。

「えっ…?」

自分の着物の襟を掴み、夜明けの瞳が怪しく光り出した。

まさか…!?

灯花は天狼が言っていた言葉を思い出して、すかさず天狼の動きを止めた。

天狼の着物の袖を掴んで、待ったをかけた。

「待ってください!天狼さん!」

天狼はじろりとこちらを見た。

まるで、蛙を睨む蛇のようだ。

「なぜ、止める?」

その視線と言葉に身体が痺れる。

それでも、言葉を絞り出す。

「あ、こ…壊しちゃ、駄目です…」

「もう限界だろう?あとは任せてくれ、すぐに出られる」

その言葉を聞いて、一層、駄目だと思った。

「駄目です!駄目!」

駄々っ子のように、着物の袖を必死に引っ張る。

灯花の言葉が伝わったのか、天狼は息を吐いた。

「もう時間がない、聞き分けてくれ」

そんなこと言われて、引き下がれない。

今度は、強く言葉を出した。

むきになったのかもしれない。

「天狼さんが言ったじゃないですか!お前は前を進めって!後ろは任せろと!」

「……灯花」

天狼はじっと灯花を見た。

同時に灯花は、天狼の瞳の中に刃が見えた。

ここで引き下がるわけにはいかない。

「だったら!……」

道は、まだ閉ざされていない。

「最後まで私に任せて!私があなた達を必ず導くから!」

「……っ!!」

その言葉を聞いた天狼は、目を見開き、そして笑い出した。

袖で口を押さえて、愉快そうに笑った。

「くっふふふっふ…」

「天狼さん!」

何を笑って!人が必死に…

「…くくっふふふ、そうだったな…」

天狼は、灯花に笑みを向けた。

そして、静かに言葉を出した。

「わかった…」

その笑みは、特別な笑みだった。

いつもの優しい笑みではない。

人を試すような笑みだ。

それは、私を初めて人として見た瞬間だった。

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