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助けてください!天狼さん。  作者: 落田プリン
第一章 助けてください!天狼さん。
1/310

すべての始まり。

 すべての発端は一通の電話から始まった。

「ごめん…灯花、彼氏できちゃった!」

小学校からの古き良き腐れ縁、高校からは別になったがより良い関係を築いていたはずだった。

そう…はずだった。

「貴様は今日から敵じゃあああ!」

大声で怒鳴りちらし、待ったなしに電話を切った。

マジか!マジなのかよ!我が同胞よ!なんたる不覚!あの誓いは偽りだったのか!

純情たる我らは決して、リア充を許してよいものか!いいや許してはならない!なぜならばあの苦々しい日々を、あの日々を、忘れてはいないからだあ!

思い出すのは息苦しさが広がる狭い教室、決して日を浴びることができないポジション、かびと埃とカルキの臭いが混ざるそうじ道具入れの前が、唯一寄生できるスポット、身に覚えがない魔名、地獄化した集団行動などなど、思い出すときりがない。

なのになのにあの女は!リア充がもたらした所業を忘れたか!

「おのれーリア充がああー」

「やかましわ!こんのバカが!」

姉の拳、まじで痛い。

「たたくなよう…これ以上頭悪くなったらどうすんだよ…」

「しらん!はよ寝ろ!」

「ひど!」

姉とは同じ部屋で、過ごしているため大声を出すといつもこうして鉄拳が飛んでくる。

しかも最近彼氏と仲が悪いせいかなお機嫌が悪い。

妹である私は、こうして肩身を狭い思いをして過ごしている。

姉は、私と違って頭が良くて運動ができ大学まで行っている、性格はともかくちゃんとしている。

日が当たるポジションを獲得し、見事に彼氏を獲得しているのだ。

今回のを入れて彼氏何人目ーと姉に聞くと6人かなーとサラッと答えたのである。

姉に言わせればかなり少ない方だと聞く姉の友人は軽く10人以上は越えているらしい。

その一方妹は、根暗かつオタクであり、あまり頭がいい方ではなく両親が期待する結果ではなかった。

唯一無為の友人は、高校で別れてしまい一人寂しく高校生活を過ごしていた。

じゃあ高校デビューすればよかったのか。

いいえ違います。

してもしなくても結果的に一人にはなっていた。

入学当時には中学当時の魔名は高校にまで広がってしまった。

じゃあどうしろと?どうしょうもできないじゃないか。

こうなった以上己のスタンスは変えないつもりだ。

そして、我が同胞よ。

なぜ、リア充になった!

あの日誓っただろう!リア充にならないと!純情で聖乙女になると!

なのになのにどうして!

友よ!

そうして布団の上で、うめいているとピコンとメールが届いた。

それは会ってみないかという友からのメールだった。

会うか会うまいか、貴様は敵だとメールを送り付けたが、ポテトとドリンクバーをおごる条件で会うことにした。


 友に会うのは高校の入学式日以来だった、互いの制服を見せあいっこしていたが友の制服の方が可愛いかったりする。

ブレザーは、一緒だがこちらは黒一色の冴えない制服、向こうは赤のリボンに紺の上着に、ピンクのチェックだ、さすがは進学校。

頭のできは友の方が上だった。仕方ないと思いつつ今の高校で頑張るしかない。

友とは、互いにいい趣味している、簡単に言えばオタクである。

その趣味で周りに何かと言われても気にしなかった、二人にか分からない世界が広がっていたのだ。

アニメの話で盛り上がったり、ゲームの攻略には力を合わせていたものだ。

今は懐かしいく思う、風当たりはひどかったが中学はそれなりに、過ごしていたし友といたから楽しかったのは間違いない。

高校入ってからは、メールのやり取りはしていたがそれは自然と途絶えてしまった。

互いに高校生活に忙しかったのは言うまでもない。

 

 そして肌寒い秋空の日、放課後のバーガー屋さんで待ち合わせとなった。

最初は久々の再開に心驚かせていたものの、約2時間近く遅刻と待っている間の飲食類で、だいぶ不機嫌になっていた。

一人で4人掛けのテーブル囲む気持ちを知ってほしい。

どいう事やねん。

会おうって言うたのはそっちやないの!しかも連絡取れないってどいう事やねん!

あの野郎!ウソかウソなのか今さらながら、見栄を張って彼氏できたーとか言ってほんとは、二次元の男だったーとかいうオチではなのか!

女子オタではあるある話である。

携帯いじっても、周りを気にして集中できないし、同じ学校の生徒がいて早く帰りたい。

クラスメイトとかいたら、本当に嫌だ。


 帰りてえー

まじで帰りてえー

帰ってアニメ見てえー

そんな心の中で叫んでいた頃。

「あっ灯花ー!おひさー!元気してたー!」

やけにテンションが高い、JKがこちらに向かっているのだか…

そして、傍らにやけにクラスで、絶対モテているだろう男子がいるのは、どうことだろう…

友と同じ学校の生徒だろうか?

制服が紺の上着で赤のネクタイ、赤のチェックのズボンを着ている。

彼もまたこちらに向かっているのだ。

私は、友に会うためにここにいるのだ、決してリア充に会いに来てはないのだ。

私の友は、こんなにキラキラしてはないし、髪の毛こんなにくるくるしてないし、スカートの丈がパンツ見えるちゃおうか!ぐらいに短くはないし、化粧してないし唇がテカテカではないし、胸はこんなにって最初から…あったか…

こんなんじゃない、決して違う!と祈ったが天には届かなかった。

「灯花ーほんと元気してたー!」

声高々に言い、どさりと私と向かい側に座り、友の連れであろう男子生徒は彼女の隣に座った。

「すいません。人違いですこんなチャラついた人知りません。」

「ちょおひどいー私よ私!」

「ああそういえばいましたね、村上さんでしたっけ?」

「なんで他人行儀なのよぉーみのって呼んでよおー」

「ああ失礼しました、村上みのりさんでしたね」

「もうっ灯花のいじわる!」

ぷいっとそっぷを向く、その動作がなんとも…うぜ。

「みーちゃんこの人は?」

うわあ。

端正な顔立ちをしていて、目は細いが逆にきりっとしていて力強い、口元にほくろがある特徴。

茶髪で少し前髪が長い、遠くからは細い体だと思ったら意外とがたいがいい。

雰囲気がチャラついてなくてどちらかと言うと運動系が近い。

「うん!この子は朝峰灯花!中学の時の一緒だったの!」

「ふーん…。」

あっこの人絶対こいつないなと思ったな…

そうゆう顔している。

極めつけに、人の名前聞いていて、自分の名前を言わない。

私は男子と話をするのは苦手だ、そっちが話す気ないならそれでいい。

「……ずいぶん、遅かったけどなんかあった?」

聞きたかったことを持ち出す。

「ん?なんもないけど?」

うん?えらく明るく言うもんだね。

「待ち合わせ時間かなり過ぎてるよ、ずっと待っていたんだけど…」

「そうなのーごめんねー」

自分が非があることは自覚してなかったのか。

それとも私が、こんなに待つなんて考えてなかったのだろうか。

その平謝りに、ぐわっと私の中の黒いものが、肺を圧迫していた。

こいつ…

「灯花って、全然変わってないよねーすぐにわかちゃった。てかさー、まだそれつけてたんだーそのキーホルダー私なくしちゃってー、でもでも見て見て可愛いでしょー」

そう言って、自分のカバンについている、イルカのぬいぐるみのキーホルダーを差し出す。

いかにも彼氏と水族館デートしました的なアピール。

「もうーまたー見せてるし、今日それずっとみんなに見せてたじゃん。あげた俺の身になってよー」

ほらな…

「だってーイルカさん可愛かっただもん」

もんって!この子今もんって言わなかったか!

「こいつー」

そう言って男はこつんとおでこを指で軽くこずく。

うわ!

 

 ちなみに友が失くした、キーホルダーは中学の時私が友にあげた。

当時流行っていた人気アニメがあり、そのマスコットキャラクターが、キーホルダーになっていた。

名前はウンニャー。黒猫の頭で胴体がタコのような触手をしている。

鳴き声は、普通の猫の鳴き声だが、食べたものをすぐに吐き出すという。

特徴を持つキャラであり、アニメの登場人物すべてに、汚物かけあの人気声優が担当している、可愛らしいヒロインまで、汚物まみれにしたことから汚い猫と言われている。

友にあげたのは、その好敵手であるキャラ。

名前はインニャー。白猫の頭で胴体がイカの様な触手をしている、特徴はウンニャーとは違い、鳴き声は猫であるが咀嚼音なびかせ反芻している。

何を食べているのか不明。

原作を読んでも謎に包まれているキャラである。


 もはや友は友ではなくなっていた。

リア充になってやがる。

それからは彼女らは、私を蚊帳の外にして二人の空間を作り上げたのだった。

聞きたかった話題を出そうとすると、割り込むように友が別の話題を出してきた。

友は彼氏の自慢話ばかりで、ちっとも私の話を聞こうとはせず、むしろこちらからの声はまったくの無視を決め込められているに近かった。

まともに会話が出来ているのは、彼氏だけで私はただその場を居るだけの存在になっていた。

私だけ浮いているような感覚だった。

この時間帯は、学生が多く椅子に座れるのはめったにない、二人にとっては私は場所取りだったのだろう。

だとすると私は何のために…


 「私ちょっとお手洗いに行くね」

二人にそう言って、トイレに駆け込み個室に入った。

はああああーーー

盛大に息を吐いた。

肺を圧伏していた、黒いものを追い出そうと、深く息を吸って吐いての繰り返した。

すると個室の扉ごしに話し声が聞こえてきた。

たぶんあの二人組だろう、トイレに入る前に入り口でたむろっていたし友と同じ制服で目に付いたから、きっとそうだ。

「さっきさー村上みのり来てたよねー」

「そうそう来てた来てた!バスケの先輩と一緒だった!」

「マジでうらやましいー」

「先輩まじで女子の人気がやばかったのによくゲットしたよねー」

「あれ先輩から村上みのりに告ったそうだよー」

「マジで!」

「しかも、一年で学年トップの成績だしさー頭の良さはかなわないしー」

「そりゃあー周りも手出しできねえわー」

「ああー早く彼氏ほしいわー」

「そうよねーってこのあとカラオケ行かない?」

「うーん…また今度にしない」

「どうしたー」

「それがさー、親にさー早く帰ってこいって言われててー、ほらカッター男のこともあるしーなにかと親がうるさくてー」

「そりゃあー帰った方がいいよ事件あった所近くだったんでしょー」

「そうそう、もうかんべんしてって感じよおー、ただえさえ外灯がとか少なくてさー、暗い道とかいっぱいあるしほんとやだー」

「こうなったら駅まで迎えに来てもらったら?」

「そうするー」

そう言いながら彼女らが、トイレから遠ざかるのを聞いた。

その話を聞いて私は思う。

村上みのりは、高校デビューを見事に果たし、そこで成績を修め誰からも認められる存在になってるということ。

久々に会って高校生活は、どうだったか最近のアニメどうだったかとか、ゲームはどれぐらい上達してるかとか、彼氏作ってマジでごめんとか、おわびにポテトとドリンクーおごるからとか、聖乙女卒業するからとか、そんな話を私はしたかったのだ。

あと最後に怒鳴ってごめん。

リア充おめでとう。

とか言いたかった。

でも言えない。

あんな態度!私は嫌だ!

ムカつく!腹が立つ!

こんなの許せない!

言ってやる!

ふざけんな!ってどうつもりかって!ないがしろにするなって!ただ自慢話を私は聞きに来たんじゃない!あんたがまだ親友か確かめに来たんだと!言ってやる!


 そう意気込んで私は個室から出た。

私は怒ると、足をどんどんと地面を踏みつける癖がある。

私ながらの怒りの表現だ。

こうしていると私は、怒っていると周りはそう認識する……はずだった。

はずだったのに周りは、それを遮るようにワイワイ盛りがっていた。

それは、村上みのりと彼氏を囲って、他校の高校生も含めて生徒たちが集まっていたからだった。

なんだ…これ。

私はその輪に入れない。

そして私は、その輪に割って入ることができないのだ。

それに入ろうとすると、みんな嫌な顔をするのだ…そう嫌な顔。

なんでおまえが、ここにいるんだって場違いだって、空気読めよって。

ああーまただ…

私にまとわりつく重力。

私の怒りはその重力に負けるのだ。

どうしょうもなく、足がすくんで一歩も動けなくなってしまった。

そればかりか、その輪から離れる様に隠れるように、足は後ろに下がる。

そして、聞きたくない言葉が私を犯す。

「みのりちゃーん!ほんと先輩の彼氏になれるなんてうらまーしいいー」

「よ!バスケの王子!」

「ねえねえ!みのりちゃん可愛くなったね!よかったらその使ってるリップどこのー!教えてよー!」

「なあなあーこんな可愛い女子どこで捕まえたんだよ!むしろこっちが恨ましい!憎いぞこの野郎!」

「ところでさーさっきさー朝峰いなかったか?」

「朝峰って?」

「ほらっ中学の!噂の珍獣!」

「ああー思い出した!そうそういつも村上にくっついていたヤツ」

「思い出した思い出した!あの寄生虫!」

「あの時の村上可哀そうだったなー、いつもあの寄生虫が付きまとっていたしー、ああー気持ち悪い!」

「村上が優しすぎるんだよ!あのほっとかない精神!どうな奴だって優しく手を、差し伸べることができる心!」

「それに引き換え…あいつは、ほんとうに気持ち悪い寄生虫!!」

「村上の優しさに、甘えてる!」

「高校から、別れて本当に正解だよ!みのりちゃん!」

みんなの前で笑顔で答える友がいた。

「えぇーそんなことないよー、別れてなんだか寂しいなーって思うよ!それに私がいなきゃダメかなーって思うの、だって高校生活、出来てなさそうだったしー!」

他の高校生がその話に乗ってきた。

「みのりちゃん、それって中学も面倒見てたのに、高校も面倒見るのー?しかも他校だよー」

「そうしてあげようかっなー!ほらいじめられていたら大変だしねー!先生たちもそこんところ気にしてたみたいだし、先生にこれ以上ー、気を使わせないないようにしないとだめだよー!」

友の彼氏が親友へ悪口を気に留めてなかった。

「みーちゃんがそんなことしなくていいってば!気にしてばっかりだと体壊すよー、最近ほらかなり冷え込んできたしさー、心配なの俺は!」

友の甘い声に嫌気が差してきた。

「もうー大丈夫ってばー!!」

「甘ーい!」

「あまあまですなーお二人さん!」

「でっ朝峰は?」

「あっ寄生虫?」

急激に怖気震えた。

心臓を、圧し潰される感覚だった。

悪口言われるより、名前を挙げられて吊るし上げにされるのが、なによりも恐ろしい。

吊るし上げにされる前に逃げなきゃいけないのに、カバンを座席に置きぱなっしだった。

それにカバンの中に、電車通であるため定期が入っているし、当然お金もある。

徒歩で家に帰れないし、携帯もカバンの中だ。

まさにバットエンド。

そうして、朝峰灯花は彼らに大人しく、吊るし上げになるのだ。

彼らは飢えた獣だ、必ずネタというものが大好きなのだ、悪意はないしてもあったとしても、常に笑いたい、そういう生き物。

皆で探し出して、私を見つけた感想は、どうですか?

いま、どんな気持ち?


 「あっ!みーつけた!灯花。」

視線が痛い。

あれだけ騒いでいたのに、今はシーンと静まり返っていた。

私はゆっくりと歩きだす、あんなに怯えていたのに、身体がすんなり動く。

私が座っていた座席には、私と同じ高校の女子生徒が二人座っていた。

こちらを睨めつけるような強い視線を感じる。

テーブルに着くと私は声を出した、たった一言。

「カバンいいかな?」

女子生徒の一人は答えた。

「はあ!勝手取れば!」

カバンは、女子生徒の下敷きになっていた。

分かっていてやっている。

私は、早くこの場から立ち去りたい思いで、下敷きになっているカバンを取り出そうする。

さすがは女子の尻の下…動かない。

ダイエットはするべきだ、デカ尻女!

力いっぱい引っ張って、カバンを取るが尻餅をついてしまう。

狙っていた。

これを。

笑いがそう言っている。

このとき、はじめて村上みのりの顔を見た。

黒髪のクルクルパーマの下に、こちらを見下して、笑っている。

きれいな笑い方だった。

テカテカしている唇がきれいに弧を作っていたから。

「だいじょうぶ?だめじゃない!ちゃんととってあげないと…ねぇー」

それを察した女子生徒は言った。

「ああーごめーん!気づかなかったわー」

そして周りも賛同する。

「今の朝峰が悪いじゃん!ちゃんと言わなかったし!ちゃんと言えよなー」

「もっとはっきり言えよ!」

「そうそうほんとダメな奴」

笑いが飛びあう中…

一刻も早く店から出たくて、カバンを抱きかかえて走ろうとした時、突然体がまた転んでしまった。

足を引っかけられたのだ。

となりのテーブルもグルだった。

となりもそのとなりも…

目の前がかすんできた。

ああーやだ…やだ。

ここで泣いたらあの女の思い通りじゃない!

急いで店から出ようとしたら、お店の店員に呼び止まれてしまった。

お金はキチンと払えって言われた。

高校の名前を言われた。

警察を呼ぶと言われた。

私の分は払ったはずだ…2時間近く待っていたら、飲み食いするし同時に払うはず。

「わたしちがっ違います!!払っています!」

そっそうだ!レシート!

「れっレシート!レシート!あります!。」

その言葉は空しく店員の耳には入らなかった。

周りに助けを求めたが誰一人声を上げる人はいなかった。

周りは冷たい視線だけだった。

当然だった。

店員から、腕を掴まれて店の奥の方まで、連れていかれた。

奥に連れていかれる際、彼女と目が合ってしまった。

あっ笑っている。


 それは、店員の勘違いで終わった。

警察事には、ならなかったが、お店で騒いだことや散らかすだけ散らかして帰っていく学生が多く一般のお客さんまで迷惑かけたことから、ひどく注意を受けた。

これを機に、それぞれの学校に連絡して、学校で注意してもらうことになった。

勘違いで、終わったものの店員からは謝罪はなかった。

店長が来て、ようやく勘違いが分かったからだ。

それまでずっと、怒鳴り散らされたままだった。

明日学校に行って、この事を話さなければならない。学校に連絡が行くという事は、私のことが学校に知られる事であり、当事者である私は先生に事情を言わなければならない。

私は見せしめにされたのだ。

店からようやく出られたのは、お店が閉店して9時を回っていた。

「ご迷惑おかけして本当にすみませんでした。」

「今度からは気を付けるんだよ!」

店長のその言葉で、最後となった。

駅に着いて、慌ててカバン開いた。

何か取られているかもしれない!!

そう思い中を確かめる。

よかった!なにも取られてない!

貴重品は、キチンと持っておくべきだ、何が起きるか分からないから本当にそう思った。

電車を待つ時間はボーとしていた。

いつもだったら、アニメのことやゲームの事を考えて電車を待っていた。

でも、今日は何も浮かんでこなかった。

少しでも、考えようとすると、彼女の笑った顔を思い出すからだ。

そして、突如として自分に巻き起こった出来事がまだ信じられずにいた。

自分にとってはありえないことだった。

いくら地味でオタクでキモイ姿だろうとも、周りに迷惑かけるようなことはしないし、ましては彼女に対して少し怒ったぐらいで、こんなことにはならないはずだ。

そんな日であるはずだった。

すると、私の足元に黄色い線に目に入る。

一歩前に出そうとすると待っていた電車が来た。

あっ乗らないと。

 

 電車に降りた後、ゆっくりと帰り道を歩いた。

道筋は、外灯が少なく暗いが怖くて帰れないことはない、いつもこの道を通っているから慣れている。

山道で細い道だがいい運動になる。

数少ない、外灯の一つに差しかかった時、人影が飛び込んだ。

一瞬だが息が止まった。

そして、

「なーにーとぼとぼ歩いているんだい!我が妹よ!」

と背中を思いっきり叩かれた。

「いいったたあああーーー!なにすんの!バカあねー!」

「なにって!天下の姉様があんたに気合を入れさせてんのよ!下を向くな向くな!下を向くときはうんこ踏んだ時だけでいい!」

「まだ根に持ってるの、今朝あくびしながら歩いていたら踏んだから」

「だまらしゃいいいー!」

「いたたいたい痛いよ!頭ぐりぐりしないで!」

姉の容赦ない攻撃に、今まで黒くてどんよりしたのが一気に吹き飛んだ。

どうやら姉は、バイト帰りのようだった、丁度、同じ電車で乗ってきたのだろう。

「大体!犬の糞が道端にある方が悪いのよ!マナーが悪い飼い主が悪い、そこら辺にする犬も悪い、私の足元にあったうんこも悪い、たち悪いわ!」

「ほんとだねー」

もう気力がわかない。

「あんたさーもう少し早く帰りなさいよ!最近ここら辺物騒だしー」

早く帰りたかったけど、出来なかったんだよ。

「ん?物騒なの…ここら辺?田舎なのに?田んぼと畑ばっかりのここが?無人駅しかないここが?」

「そう言うな妹よ!田舎でも悪い奴はいる!」

「ほんとだー」

姉が指さすのはうんこである、しかもだいぶ踏まれてペシャンコしてる。

「つうかさー、もっぱらの騒いでるのに何で知らないのよー、どうせ体が痒くなるゲームやアニメの事ばかり考えていたんでしょ!」

もっと、別のことを考えていたよー姉よ。

「カッター男よ!カッター!」

「カッター男?」

「そうよ!ほら今朝パトカーが何台も通っていたでしょ!聞き込みだってしてたし、ほんとなんも考えてない証拠ねーまったく、無人駅の近くに公園あるでしょう。その公園で殺人事件が起きてんのよ!」

「ええぇ!」

駅の近くに公園はあるが、私たちが帰る道とはまったく反対の道だったため、公園の近くを通ることはないがかなり物騒だ。

「その公園にある、公衆電話あるじゃない。その中で死んでいたのよ!女の人が!」

「うげ!」

ここまで聞くと私は、本当に今日の事しか考えてなかったのだろう。

まさか自分の家の近くで、こんな事件があったんなんて、姉に言われるまで知らなかった。

あるいは聞いても聞き流していたのだろう。

「そんでねー女の死体がやばくて、カッターで切りつけられてて、カッターの刃が体中埋まっていたんだって!」

「うええ!」

「まだあるわよー、腕がないの…両腕が」

「いやーー聞きたくない!」

「言っていて私もおぞましいわよ。犯人は男らしいしー、じゃないと女の力だけでカッターで腕切れないでしょ!」

すると、黒い人影が私たちの目の前に映った。

「「ぎいやああああああーーーー!!!」」

「コラあああ!おまえたち!」

後ろを振り返ると、お巡りさんがいた。

私たち姉妹は、お巡りさんに軽く注意をされてしまい、いそいそと帰るはめになった。

暗い夜道に、怖い話するもんじゃないね。

家に着くと姉は、私を顔を見て言った。

「なにかあったかしらんけど、あんたが元気じゃないと張り合いないわよ。」

「ねーちゃん…」

じんわりと、熱いものが目からこぼれた。

私は姉に抱き着いて、わんわん泣いた。


  たくさん泣いただけだった。

お母さんには、聞かれたけどはぐらかしてしまった。

あんな事やっぱり言えない。

学校生活や友達関係とか恥ずかしくて言えないし、なにより心配かけておおごとにしたくない。

そうして、朝になるとまた学校に行く。

姉も大学があるので一緒の通学。

すごーく行きたくない。

人は落ち込むと下を向く、当然周りに注意がなく物にぶつかるというオチ。

見事に電柱に、ぶつかりおでこをさすることになる。

それを見ていた姉は、だから言ったでしょ下を向くときはーと言う。

はいはい!うんこねうんこ!

電柱をふと見ると貼り紙がされていた。

それはだいぶ風化していて、写真がプリントしていたんだろうが、薄れているし破れている。

文字は辛うじて読める。

さがして…います…。

ああーこれ行方不明の貼り紙かー。

中学の時にもあったなーこれーまだ見つかってないんだー。

すると、姉からの呼び声が聞こえて、急いで追いかけた。


 学校に着くと、職員室に行くことになる。

二度目の事情聴取ですか…

先生ー冤罪ってつらいっすね。

担任の先生は、そんな私の様子に同情してからか、追及はせずに教室に返してくれた。

他校の生徒から、いじめられています。なんて言えないし、言ったらところで村上みのりの思いツボじゃないかと思った。

教室に入ると、灰色とうるさいノイズの世界が広がっていた。

1時限目は耐えたものの、2時限目には耐えきれず、早退した。


 ひきこもりとは、なるべきしてなる。

なってしまったなー。

もう外には出たくない!外の空気に触れたくない!日光に浴びたくない!

ずっとダラダラしていたーい。ずっと昼まで寝ていたーい!

ここ最近、学校を2週間近く休んでいた。

今私は、ゾンビゲームをしている。

「あれー盾のカギって、どこで手に入るっけー?母さーんやーいーちょいと、教えてくれー!」

「なに!まーたゲームばかりして、少しは勉強しなさい!」

「わかったわかってば、で、カギどこ?」

このてのゲームは母さんのほうが詳しく、分からないことがあると教えてくれるはずだが…

「学校を休む理由、そろそろお母さんに教えてくれないの?あんたまさかいじめられ……」

「あああーーゾンビ犬出てきた!ちょ母さんテレビの前に立たないで、どいて!喰われるから!くっ喰われるー!」

ユーアーデット!

「ああーー最初からだー、5時間クリアめざしてたのに!」

こんなやり取りが、繰り返されるのだ。

私がこんなんだから、母さんもさすがに勘付く。

「灯花ー最近物騒だし、お母さんとしては家にいたほうが安心するし、別にいいー。でもねー、灯花ーもうすぐ期末じゃないの?」

これをどう乗り切るか。

「…………てへぺろ!」

「勉強しろ!」

怒られてしまった。

「あと灯花ー、まだ犯人捕まってないんだから戸締りちゃんとしとくのよ。屋根を上ったりして、窓から入る可能性があるんだから!気をつけなさい!」

「はーい!」

テスト勉強かあー、ノートを枕にして寝そうだ。


 その日の夜、姉のとんでもない発言によって、再びゾンビ犬に喰われてしまった。

テスト勉強のあと、息抜きを兼ねてし始めたゾンビゲーム。

同じところでやられるとは…

「灯花!合コンに行くわよ!」

「………いっていらしゃーい!」

「あんたも行くのよ!合コンに!戦場に!」

何を言っているんだこの姉は!

「今忙しいからーって、テレビの前に立たないでよー、親子そろって邪魔するな!」

「合コン行くのよ!行って彼氏を作るのよ!灯花!」

「彼氏って!ねーちゃん彼氏いるじゃん!」

「別れた!」

「はあー!」

だからか!

深く気にせず、ゲームを再開した。

「行くならひとりでどーぞ!」

早くどいてくれないかな…ゾンビにやられたくはないんだけど。

「灯花!彼氏を作ると世界は変わるのよ!」

「その世界を壊してきた人が、なにを言っているのー」

この人に失恋期間はないのか。

「よく聞きなさい!彼氏を作れば勝ち組なのよ!」

はいはい…痛いほどわかりますって!

「彼氏さえ居れば、どんな逆行にも打ち勝つことができるし、共に苦難を乗り越えることで強くなれる!そして、何より己の一番の味方でもあるのよ!」

ビシッと指を突き付けて姉は言い切り、私今いいこと言ったと満足気味に鼻をならすのだった。

「一番の味方。」

その言葉が、私の心につき刺さった。

パァアン!

その時、ゾンビをヘットショットした音が部屋中に響いた。

狙って当てたわけでもなくただ当たった。

「そうよ!灯花!彼氏を作るわよー!」

曇り一つない気合ぶりにこっちが根負けしてしまう。

姉はスイッチ入るといつもこうだ。

ガツガツしてるって、また言われるんだからーまったくしょうがない姉。

「ねーちゃんに任せる。」

ぶっきらぼうな言い方だったと思う、ほんの少しの姉への反抗。

「じゃあ決まりね!」

姉は携帯を手にし電話を始めた。

相手は合コン仲間であろう。

私はため息をついた。

 

 自分だけの味方を作るの悪くないと思った。 

だけど、今まで敵だと思っていたことを認めることになる。

己が否定してきた事であり、抵抗があるかというとあるほうだ。

もし、自分がそれになって誰かを見下して笑うくらいならならない方がいい。

明らかに悪いはずなのに、それを黙って見てみるふりして、一緒に笑ったりそれを手助けして、仲間に入るのならずっと一人でいいと思う。

そして、好きな人が出来て、一緒にいられてそれは幸せだろう。

だけど、自分の非をきちんと叱ってくれない人は嫌だ。

好きすぎて、己を見失って誰かを傷つけたり周りの人に迷惑かけたくない。

私は村上みのりのような、リア充になりたくない。

あんな彼氏は、私は欲しいとは思わない。 

それに、一人ぼっちはもう嫌だ。

店員から腕を引っ張られた時、私の味方が誰一人いなかった。

どう考えてもおかしいことに誰も気づかず、誰も声を上げてくれなかった。

小さな声でもいいから、言ってほしかった。

誰でもいいから、助けてほしかった。


私の味方がほしい!助けてほしい!


もし、私に彼氏ができるのなら、こんな私を助けてくれる人がほしい!

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