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第四話:メイドと遭遇

 長くて長くて長ーい異次元トンネルを抜けるとそこは異世界であった。


「って、長すぎるわ! すぐ着くのかなーと思ったいっこうに着かないし! しかも息ができねーし! 殺す気か! 」

「きゃああ」

「ん? 」


 ここへ送り出したあのいけ好かない神に対してぶちぎれているとすぐそばから若い女の声がした。

 そちらの方へ顔を向けるとそこにはとても可愛らしいお嬢さんがいた。ゴシックなメイド服に身を包む金髪碧眼のいわゆる西洋系の美少女が地面に座り込んでいたのだ。

 さすが神が美人だらけというだけはある元いた世界では拝めないレベルだ。それも天然物。俺の違和感レーダーにピクリとも反応せず、代わりにチンコがピクリとする。

 これはすごい。マジですごい。是非とも結婚を前提にお付き合いをしたいところである。

 しかし彼女はどうしてこんなところで座っているのやら、ああ、そうか。俺が大声を出したことで驚かせてしまったんだな。


「驚かせてゴメンね。別に君に怒鳴っていたわけじゃないんだ」

「い」

「い? 」

「嫌あああああ。変質者あああああ」


 彼女は俺を見るなりその整った顔を怯えたようにひきつらせ一目散に逃げて去ってしまった。

 そしてポツンとこの場にひとり取り残される俺。


「そういや神は美形だらけの世界だとか言ってたからな。元の世界でフツメンだった俺じゃここでは化物扱いか……グハッ」


 女の子に嫌われるってこういうことだったんだね。カサカサと高速移動する害虫を見つけた時のように泣き、叫び、逃げられる。

 これは俺にとって初めての経験である。まさか顔面偏差値の低い者がここまで毛嫌いされるなんて思ってもみなかったよ。

 言葉の暴力がここまで恐ろしいものとは……心に負ったダメージは計り知れないものがある。

 はあ鬱だ死にたい。


「そう考えるとアイツらのことが少し好きになれるかもしれない」


 神に踊らされ散っていった元童貞たちがあの世で俺に手を振っているような気がした。


「だけどいくらこの世界にとって低レベルな顔でも、見た瞬間に逃げるのってちょっと酷いんじゃあ……ん? いや違うな。あの子は何て言ってたっけ? ……変質者? そういや視線はやや下側だったような? 」


 俺に癒えない傷跡を残していった少女の視線を思い出し、トレースするように自分の体を確認してみると衝撃の事実がそこにあった。


「おう」


 全裸であった。こいつはびっくりである。

 そういや空を飛ぶときに服を脱いだままだった。そのまま流れでシリアスな展開になったりしたけどその間ずっと裸のままだった。

 裸のまま穴に呑まれ、裸のまま異世界にたどり着き、そして裸のままうら若き少女に話しかけてしまったのだ。そりゃ驚くよね。道を歩いていたら全裸に遭遇するんだから。俺でもビビるわ。


「とはいえ、服はあっちに置きっぱなしだし。着るものなんて持ってないぞ。代わりとなる物を探すにしたって……」


 代用品は無いかとあたりを見回してみるが、あるのは木木木。木が三つで森のなか。昔の人のセンスがあると思うね。まさに木がたくさんある森の中。服になりそうなものなんてどこにもない。


「さすがに葉っぱでは隠せないよな」


 隠せたとしてもビジュアル的にどうだろう。

 股間と乳首を葉っぱで隠した森のヴィーナス。さらに変態度が増した気がしてならない。


「他に方法は……お」


 そこで俺は下腹部に熱が生じていることに気づく。

 それは少女に全裸を見せつけて元気になった息子などでは断じてない。俺の丹田に眠る魔法の子種。


「そうだよ。俺には魔法があったじゃないか。なんですぐ思いつかなかったんだろう」


 まずは大きく深呼吸。吸って、吐いて。体をリラックス。

 意識を丹田に向けてそこに宿る熱を体の隅々にまで行き渡るよう押し広げていく。

 キてます。キてますよー。あとはこの魔力を望む形に変えるだけ。ここからは頭を使うクリエイティブな作業である。

 さて、どんな服を作ろうか。

 さきほどは現地の女の子とのファーストコンタクトに失敗してしまったがまだ次がある。女の子に「きゃあカッコイイ」と思われるような紳士的な格好を用意しなくちゃね。

 幸いヒントはすでに得ている。さっきの子は西洋系だった。

 ならば黒のコートにシルクハット、これがベストなんじゃなかろうか。もちろんコートの中は裸、なんてことはなく燕尾服をきちんと用意する。

 肉体が16歳ほどだからどうしても服に着られている感が出てしまうが他に代替案は思いつかない。だって西洋美少女との遭遇なんて俺の人生で初めての経験だし。

 よし、イメージは固まった。


「クリエイト マイ ファッショ……「きゃあああああ」 ふぁあああああああ!? 」



 俺が即興魔法で服装を創造していると遠くの方で女の悲鳴があがった。



「ウッ!? トラウマが……。女の子に変質者と言われた古傷が……」


 一滴の冷汗が俺の頬をつうっと流れていく。

 そして自分の意思とは無関係にまるで生まれたての小鹿のように手足がプルプルと震え、体中の筋肉という筋肉からは力が抜けていき、俺は立っていることもままならずその場に崩れ落ちてしまった。胸のあたりはジクジクと古傷が痛み、立ち上がろうとする気力を根こそぎ奪い去ってしまう。


 一応魔法はちゃんと発動したようでシルクハットに黒のコートを纏った英国紳士風の姿へと変身することができたのだが、ハハなんて情けないざまなのであろうか。俺はあの不思議な空間に集っていた非モテ連中を心の中で見下していたけど、いざ自分がその立場におかれてみたらどうだ。まるで同じじゃないか。

 結局は同じ穴の狢、目くそが鼻くそを笑っていただけ。神に弄ばれ行きつく先は地獄の一丁目。あー鬱だ死にたい。


「誰か! 誰か助けてええええええええ! 」


 彼女がどういう状況なのかは分からないがかなり切羽つまった自体なのは確かなようでその声には悲痛さが籠っている。


「くっ、何を弱気になっているんだ俺! 近くで天然物の美少女が助けを求めているのに、それを助ける力が俺にはあるのに下を向いてシコシコ床オナをしている場合か! 俺は奴らとは違う! この力を自らの性欲を満たすだけに使うあいつらとは違う! 俺は……俺は! 俺はヤリポーなんかじゃなーい!!!! 」


 地獄に落ちた元童貞どもが親指を下に向けてブーイングしている気がしたが負け犬の幻想なんかこの手でぶち壊してやる。

 お前らは中古品の偽物で満足していろ。俺はお前らじゃ思いもつかないビッグなドリームを手に入れてやるんだ。


「うおおおおおおおおおおおおおお」


 魔力が(たぎ)る! 精力も(たぎ)る! 今の俺ならなんでもできる!


「童貞の翼よ、天に羽ばたけ! 」


 あふれる魔力が光の翼となって俺の背中に宿る。だがこれで終わりではない。


「みなぎれ俺の精力よ! 純潔のこの身に堅牢なる力を! 」


 俺の体に薄い膜のようなものが張り付く。これは魔力によるコーティングである。全身を魔力で覆うことで何人たりとも犯すことなどできない鉄壁の防御力を得たのだ。さて、飛行能力と鋼の肉体これを合わせてやることはなんでしょう? そう、そんなものは一つに決まっている。


「突撃だ! 」


 白い翼を羽ばたかせるとこの身は重力の鎖を断ち切って真なる自由を体現す。

 そしてくるりと円を描くように後ろへ一回転。助走のついた体は最初からトップスピード。木々をなぎ倒し、アクセルを緩めることなく声の方向へと突き進んでいく。


 声が聞こえるということは大して距離は離れてはいないはずだ。目を凝らし、視界をものすごい勢いで過ぎ去っていく木々を見渡しながらさっきの少女を探す。

 時間にして一秒くらいだろうか。


「見えた!!」


 少女の姿を俺は捉えることができた。

 コスプレ衣装なんてチャチなもんじゃない、見ただけで高級品だと分かる仕立ての良いメイド服に身を包んだ金髪美少女。

 蒼いその目に涙を浮かべ、迫りくる脅威に身を震わせている。その視線の先には……


「魔物か! 」


 とぐろを巻いた大きな蛇がいた。

 尻尾の先まで合わせると東京タワーといい勝負をするんじゃないかってくらいデカイ。

 こいつにかかれば人なんてあっという間に呑みこまれてしまうだろう。むしろいまだに少女が食べられていないことの方が不思議と考えるべきだ。


 その理由は少女の魔法にあった。

 彼女は自らの周囲を透明な結界で覆うことにより蛇を近づかせまいと必死の抵抗をしているのだ。

 蛇はそのまま呑みこむのは嫌なようでまずは邪魔な結界を取り除くため、その巨体を巻き付けて締め上げることにより破壊しようとしている。

 俺の目には無数のヒビが入りあと数秒も持たないだろうことが分かった。


「なんとか間に合ったか。いま助ける」


 俺は少女と蛇に割って入ろうとして、そのまま止まれず通過してしまった。


「しまった。車は急には止まれないってか」


 さすがに音速を越えた体をピタリと止めるには無理があったようだ。ふたたびあの場所に戻るとなるとかなり大回りの迂回となってしまう。それじゃきっと間に合わない。ならば、俺の進む先は空だ。


 体を持ち上げるようにして高度を上げ、グングン上昇していくと分厚い雲が目の前に。スポっといい音を立てて雲を突き抜け成層圏にまで到達。よし、ここで反転。

 バーティカルループで空にハートマークを描きながら地面に急降下。森の一点を目指して加速。


「既に捕捉は終わっている。あとは突っ込むだけ。喰らえ、メテオォォストラァァァイクゥゥゥ!!! 」


 ドゴーン


 その日、剣と魔法の異世界に隕石が衝突した。その破壊力は凄まじく直径数十キロにも及ぶクレーターを作りその周囲にあった(ことごと)くを灰燼(かいじん)に変えてしまった。

 そして衝突時に舞い上がった粉塵が空を覆い、明けぬことのない永遠の氷河期に世界は包まれるのであった ~完~



 ってちょっと待った待った。頭の中で壮絶なエピローグが流れちゃったけどそれはイカンでしょ!! 

 俺の冒険は始まったばかりだよ? これから面白くなってくところでしょ? いきなり打ち切りはダメだって。

 この最悪な結末を防ぐためには、えーっとえーっと。そうだ! 速度と威力を落とせばいいんだ!


「出でよ! 鉄壁の盾! 」


 俺の前方に無数の白い六角形の壁が現れる。本来であれば敵から身を守るために使うべきなんだけれど、今回はその逆を行く。

 俺がそこにぶつかっていくのだ。古代中国に矛盾というお話がある。

 それは最強の矛と最強の盾がぶつかったらどうなるのか、という物語。

 もはや世界を終わらせる死の流星となり果てた俺を止めるには俺をぶつけるしかないのだ。

 俺対俺。

 まさに矛盾。作戦名は矛盾大作戦。

 まずは一枚目の盾を突き破る。


「ぐっ」


 パリンっという甲高い音と共に強烈な衝撃が俺に伝わる。絶対の防御力を持つはずの肉体にダメージが入る。

 しかし、この程度では止まるには全然足りそうにない。


「よっしゃ、次こいやああああああああ」


 パリン、パリン、パリンパリンパリンパパパパパパパパパパパパパパパリン。


 最後の一枚を破壊し、無限に続く生き地獄にも思えた体当たりを終えた俺は既に満身創痍であった。


「ぜえ、はあ、ぜえ、はあ」


 だが多大な代償を支払った代わりに速度は制御できるまでに落ちている。

 頑張れ俺。ここがふんばりどころだ。


「標的ロックオン。死に晒せこの化け物があああああああ」


 俺の体は蛇の上半身を貫通し、地面にぶつかる直前に魔法による衝撃緩和を行い無事大地に着陸することができた。


「あ、あの? 」


 背後からは美少女の声が。

 今度こそやり直そう。美少女との出会いを、初めから。

 彼女の中では俺と、少し前に会った変態とは結び付いていないはずだ。だから振り返ったとしてもバレることはない。だって彼女は俺の顔をよく見ていないはずだ。彼女が見ていたのは俺の息子だし。

 俺は瞬時に運命的な出会いの演出方法を脳内シュミレートし、ファッサーとコートを翻して振り返り、シルクハットを取って一礼。


「大丈夫ですかなお嬢さん。私は通りすがりの紳士です」


 ふっ、決まったな。完璧だ。我ながら惚れ惚れするほどのかっこよさである。

 絶体絶命のピンチに颯爽と駆け付けるヒーロー。そのシチュエーションさえあれば多少顔がイマイチだってときめいてしまうはずだ。


「あ、あ、あ」


 ありがとうございますって言いたいのかな?

 きっと衝撃的なことが何度も起こったせいで心の整理がついていないんだろう。いいさ、俺は待つ。彼女が動揺から立ち直るまで付き合うだけの度量は持ってるさ。


「あああ、あああ」


 だけどおかしいな。彼女の見つめる先にそこはかとない既視感が。……あ。


「いやあああああ変質者ああああああああ」


 し、しまったああああああ。

 あの時の魔法は不完全だったのだ。シルクハットとコートは用意できたけど、肝心の燕尾服ができていなかった。おかげで俺はコートと帽子だけを身に着けた露出狂。まごうことなき変態だアアアアアアア。

 あ、ダメだ。意識が遠ざかっていく。三度目の精神攻撃に俺の心が耐えられないみたいだ。……ガクリ。

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