第三話:独しんの嫉妬
俺の疑問に答えるようにモニターは真っ黒だった画面を歪ませてとある光景を映し出した。
それは、
「ニュース? 」
そう某テレビ局の夜のニュース番組である。中年男のキャスターが神妙な顔で今日起きた事件を伝え、コメンテーターがそれに捕捉を入れている。こんなものを見てどうするんだ?女子アナの天然巨乳しか見るべきところはないぞ。
「これがどうしたんですか? 」
「いいから黙って見てろ。そろそろ出るぞ」
神に言われるままじっと巨乳を見ることにした。デケー。しかし、いったい何が出るんだ? まさか生おっぱいがポロリと出るとでもいうのか? 真面目なニュース番組で?
俄然興味を増した俺だったがその期待は見当違いだったようだ。
画面上に速報のテロップが流れると、スタジオが慌ただしくなり、世界情勢を語っていたキャスターがスタッフから受け取った原稿を読み上げた。
「ここで今入ってきたニュースをお伝えします。つい先ほど、東京都葛飾区の路上で男が突然女性に襲い掛かり周りにいた通行人に取り押さえられるという事件が発生しました。え? なに? 他にも? 失礼しました。類似の事件が多数発生した模様です。犯人は一様に自分には魔法が使えるはずだと供述しており、警察は一連の事件の関連性を慎重に調べると言うことです」
見せたかったのはこのニュースだったようで、番組が他の事件に移るとモニターは消えてしまった。
「え、これって」
犯人らしき人物が警察に連行されるところまでバッチリと映っていたのだが、チラっと見えたその顔を俺は知っていた。というかついさっきまで俺と会話をしていたイキリチンポだ。
「そう。お前と一緒に集められた童貞どもだ」
神は心底面白そうに嗤っている。楽しくて楽しくてしかたがないというように。
「これだよ。この絶頂からどん底に落ちた顔をみるために生きてるんだよなあ俺は? 」
「まさか魔法の力が嘘っぱちだったなんて」
「失礼な奴だな。神が嘘なんてつくわけがないだろ。あの力は本物だ。お前だってさっきまで空を飛んでいただろう? 」
「ではどうしてあいつらは魔法が使えなかったんですか? 」
神は俺の言葉に「チッチッチ」とおどけたように否定する。
「使えなかったんじゃない。使えなくなったんだよ」
「知ってるか。神ってのは全知全能なんだよ。なんでもできるし死ぬことはない。並び立つもののいない、孤高にして孤独な存在だ。当然、この世に神は俺しかいない」
「はあ、凄いですねー」
「だからさ、リア充がのうのうと生きているのを見るとイライラするんだよ。神である俺が独り身なのになんでお前らゴミムシのような分際でイチャイチャしてんのってさ。でも一応俺は神であるわけだろ? リア充どもを全員殺してしまえばあっというまに人類は絶滅だ。そこは血の涙を飲んで耐え忍んでいるんだよ」
目が血走ってしてかなり怖い。
「そこで何かストレス解消法ないかなーと考えついたのが童貞どもに魔法を与えるって遊びだ。魔法ってのは禁忌とセットが定番だ。シンデレラが夜の0時に元の姿に戻るようにあいつらの魔法にも禁忌が一つだけ設定してある。果たして奴らはその禁忌を犯さずに幸せになることができるのかってゲーム。さて、その禁忌とはなんだと思う? 」
あいつらが犯してしまったやってはならないこと?
人前で魔法を使う事? いいやそんなことじゃない。こいつはそんな常識的なこと咎める神なんかじゃない。妬みと嫉妬と憎しみの塊みたいな奴だ。だとすれば……。
「もしかして性交? 」
「イエースッ!!! 性交、セックス、まぐわい。それが魔法を取り上げる禁断の行為なのでした。あいつら思考が下半身に直結してるからな。少し煽れば簡単にレイプしに行くんだよそれが罠だと知らずにな。そして童貞を卒業した瞬間魔法は消える。人魚姫が泡になったように呆気なくな」
「どうしてそんなことを」
「裏切り者には制裁を。俺を差し置いて童貞卒業した奴をなんで幸福にしなきゃなんないの? 同じ童貞だから力分けてやったのに勝手に抜け駆けするなら没収だ。奴らは選択を誤ったんだよ」
なんて器の小さな神なんだ。きっとチンコも小さいに違いない。
「じゃあ俺はセーフですね。いやー、彼らの尊い犠牲のおかげ俺は幸福な人生を送れそうです」
おそらくこの先も童貞のままだったと思うけど、万が一ってこともある。もし禁則事項を知らずに世界一可愛いナチュラルビューティーに出会ったりしたら奴らの二の舞になっていたかもしれない。
「あのさ、なんで俺がこうしてお前に裏幕を暴露していると思うんだ? 」
神はニヤニヤと口元に笑みを浮かべて俺のことを見つめてくる。その視線はネズミをいたぶる猫のようである。
うぉ、背筋がぞくっとしたわ。ものすっごいいやーな予感がするんだけど。
「さ、さあ? 」
「奴らとお前じゃ前提条件が違ってたんだよ。人間ってのはさ理性の動物だろ? だから暴れまわる己が欲求を自分の力で抑えてこそ幸福になる権利があると俺は思う」
さんざん醜態晒しといて何を急に神っぽいこと言い出すんだこの童貞神が! 死ね! オナニーのしすぎで死んじまえ!
「だがお前はそもそも欲求の対象者がいなかったわけだ。それじゃあアンフェアってもんだろ。だから俺は一つの決断をくだした」
このあとの言葉が俺の人生を左右することになる。緊張のあまり口がカラカラだ。唾を飲み込んで俺は言葉を促すことにした。
「…………それは? 」
「おまえ整形した奴らじゃ興奮しないんだろ? だったらそんなもんがなくても美形ぞろいの世界に送ってやろうじゃないか。感謝してくれもいいぞ。この世界の女どもが霞むほどの美人が山のようにいるんだから泣いて喜べ。まあ当然、ヤることヤったらお前の魔法も没収させてもらう。気を付けた方がいいぞ。この世界の奴が何の加護もなく向こうにいったら簡単に死ぬ世界だからな。せいぜい自分の性欲と戦うことだな。ハハハハハ」
その言葉を合図に俺の足元に真っ黒い穴が出現した。反射的に飛びのこうとしたのだが足が床とくっついたかのよう動くことができなかった。
穴の中へと俺の体は徐々に沈んでいく。穴の先の世界へ引きずりこむように。
魔法で飛んで脱出しようとしたけど力が発動することはなかった。そりゃそうだよな、奴から与えられた力だ奴がその気になれば簡単に無効化できる決まっている。体はすでに半分以上飲み込まれてしまった。もうすぐ頭も穴の中へ入ってしまうだろう。
だからその前にひとつだけ聞いておきたいことがあった。
「神よ! 全知全能たる唯一神よ! 最後にこれだけは聞かせてください!」
「ああ、いいだろう。もうすぐ私の手を離れる愛し子のためだ。宇宙の理から人の成り立ちまでなんだって答えようではないか」
神は嘘をつかないと言っていた。きっと真実を語ってくれるはずだ。
「ヤリポっていったいなんなんですか! 」
「ん? ヤリー・チンポッターの略だよ。女とヤることにしか魔法を使おうとしないお前たちにはピッタリなあだ名だろ」
「下ネタかああああああああああああああ」
俺の叫びは次元の裂け目の中に呑まれていくのだった。




