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第十七話:騎士王風なおとぎ話

それからしばらくは、街へ遊びに行ったり、ギルドで依頼を受けたり、スピアと勝負したりと大した事件も起こらずに日々が過ぎていった。

あまりにも平和すぎて俺は自分がただの冒険者だったのかと錯覚するほどだった。

だけど冒険者生活はガーネットがことを起こすまでの暇つぶし。俺の役割は別にあることを思い出すは次期国王の誕生を間近に控えた頃だった。


それはミミルに起こされ、みんなで朝食を取ったあとのことだった。

いつものように報酬の良さげな依頼を探しにギルドへ行こうとしたら、ガーネットに呼び止められたのだ。


「ギルドに行くのならこれを持っていってもらえるかしら」


これは珍しいことだった。

基本的にガーネットは朝食を食べると、書斎に籠るか、リビングで読書か

だったので俺は驚いた。

差し出された封書は蜜蝋で止めてあり、ちょっとしたお手紙といった感じではない。


「まあいいけど。これって一体なに? 」

「依頼書よ」

「依頼? ああ冒険者ギルドへの依頼か。でもさ、わざわざギルドに頼まなくたっても俺に言ってくれれば力になるけど? 」

「ふふふ、情報収集の依頼なのだけどあなたにできそう? 」

「あー、それはちょっと難しいな」


魔物を倒せというのなら簡単なんだが、情報収集ってことになるとこの街に来てから日の浅い俺では荷が重い。


「そういうこと。じゃあ頼んだわよ」

「ああわかった」


俺は封書を手にギルドへ向かった。


ギルドの中はいつもよりも騒がしかった。

気にはなるけど、まずはガーネットの頼みごとをこなすことにした。


「すみません、これをお願いしたいんですけど」

「お預かりしますね」


手際よく封を開け、中に入っていた紙を取りだして読む職員。


「依頼主はユニオ・コンドー。目的はヘルズ山周辺の聞き取り調査。報酬は金貨5枚。こちらの内容で間違いありませんか? 」

「え? ああ、たぶん、それで大丈夫だと思います」


依頼主が俺になっていたことには驚いたが、考えてみれば王女の名前で依頼が出るとどうしたって話題になる。話が広がれば敵対関係にある彼女の兄たちにも伝わることだろう。それならば俺が隠れ蓑になった方がいいはずだ、そう思ったから受付嬢の話を否定せず受け入れいることにした。しかし、報酬金は俺の口座から払われるのだろうか。まあ、依頼はそこそここなしていたから貯金はあるからいいんだけどさ。


「依頼を受け付けました。それでは依頼料として金貨1枚を口座から引き落としておきますね」

「お願いします」


さて、どうにも依頼を探す気がなくなってしまった。

頭の中は疑問でいっぱい。こんな状態では仕事に身が入らないってもんだ。

依頼の発注に俺の名前を使ったんだ。何をしようとしているのか聞く権利が俺にはあるはずだ。


居ても立っても居られなくなり屋敷にとんぼ返りした俺はガーネットを探してリビングに行くと、最初からそうなることが分かっていたかのように屋敷の住人全員が揃っていた。


「早かったわね。依頼書はしっかり渡してくれた? 」

「聞かなくても分かってるんだろ? 」

「そうね」


そこへミミルがお茶を持ってきてくれた。


「どうぞ」

「ありがとう。ふぅ、で、あれがなんなのか教えてくれるんだよな? 」

「ええ、もちろんよ。でもそれにはこの国の成り立ちから説明しなきゃならないわ」

「それでもいいから頼む」

「資料などは残ってないからほとんどおとぎ話のようなものだけどね」


そう前置きをしてガーネットはセントラル王国の物語を語り始めた。


◇◇


はるか昔、セントラル王国の王都があるこの場所には五つの村がありました。

そこは豊かな土地であったため魔物や蛮族がたびたび襲ってきます。しかし五つの村は互いに協力することもなく常に争っていました。

ある時、村の男がおかしな夢を見ます。それは神のお告げにも似たもので、五つの村の中心に位置する岩、そこに刺さっている剣を引き抜いた者が王となり国を作るというものでした。


(あれ、どこかで聞いたことがあるような)


お告げを聞いたものはその男だけではなく、他の村の男たちもお告げに従って岩を探しました。はたして、岩に刺さった剣は存在したのです。

各村の力自慢たちが我こそはと剣を引き抜こうとするがまったくダメでした。

そしていつしかプライドの高い男たちは抜けなかった剣のことを忘れて自分たちの力を競い始めます。

しかし三日三晩たっても決着は着くことはなく、誰もが自分の村に戻ろうとした時、一人の少女が岩の前に立ちました。


(うん、アーサー王の物語だよ。俺の知ってる話と多少ズレているけどこれはアーサー王伝説だ)


男たちは彼女のことを大いに笑いました。鍛え上げられた上腕二頭筋をもつ自分たちが抜けなかった物を白樺の枝のように細腕な少女に抜けるわけがないと。

誰にも期待されず誰からも馬鹿にされる少女はそれでも毅然としていました。彼女には王の器というものがあったのです。

少女は両手で柄を握りしめ力の限り引っ張りました。


(王の剣を抜いてこの国を作ったんだな)


しかし剣はピクリとも動きませんでした。


(あれぇ? )


少女は剣から手を離すとおもむろに柄を蹴飛ばします。

すると剣は中ほどからポキリと折れて地面に転がりました。


(王の器ちっせーな! めっちゃキレてんじゃん! てか、王の剣が壊れちゃったけどどうすんだよ! )


誰もが言葉を忘れて少女を見つめます。


「みんな聞いて! 一本の剣は脆い。こんな風に私の足で蹴れば折れる脆い存在なの。もし私が剣を抜いて王になったとしてもきっと簡単に折れてしまったことだわ。

でもここにいるみんなの剣を合わせて大きな剣を作れば決して折れることのない剣になる」


少女は協力の大切さを訴えます。

これだけであれば少女の戯言だったのですが、彼女の演説を聞いていた者が他にもいたのでした。


「よく言った小さき者よ。汝の魂の輝きは我が財宝にも負けぬ黄金。本来であれば巣に持ち帰って愛でるところだが、それではこの輝きは失われてしまうだろう。だから汝は王となれ。そしてこの世界を汝の輝きで染めて見せろ」


それはドラゴン。

空の覇者にして超常の存在。

彼女はドラゴンと契約をすることでその後ろ盾を得ました。

ドラゴンに庇護された少女を否定できる者はいません。

村人たちはいがみ合いを止めて少女を旗印に一つの国を作りました。それがセントラル王国の始まり。


(色々混ざってるから! )


しかし、女王の統治は長くは続きませんでした。

国としての基礎ができあがったころ、再びドラゴンが現れたのです。


「契約に従い我が至宝を頂きにきた」


ドラゴンは少女をその腕に抱くと、西へ飛び去って行きました。


◇◇


「これがこの国の成り立ちよ。あら、どうしたの変な顔をして」

「いや、なんというかコメントに困る話だな」

「ユニオはこの国の人間じゃないからそう思うのかもしれないわね」


そういうことではない気がするのだが。


「それで、その昔話が俺の届けた依頼とどう関わってくるんだ? 」

「ドラゴンがこの国にとって大事なものってことは理解したわよね? 」

「ああ。ドラゴンがいなきゃこの国は生まれていなかったってことだからな」

「そう。ドラゴンの存在は王権の正当性を証明する物。圧倒的に不利な私が逆転するにはそれを使う必要があるの」

「もしかして調べてたのって」

「もちろんドラゴンの巣よ。古文書や冒険者の手記を総合して場所を絞り込んでいたのよ。あなたに渡した依頼はその裏付け調査ってこと」


そんな資料だけで特定できるなんてさすがはガーネットというべきか。


「ドラゴンの巣は本当にあったのか? 面白そうだ。あたしに行かせてくれないか」


俺とガーネットの話をよく分からなそうな顔で聞いていたスピアだったが、冒険者の血が騒ぐのかドラゴンの巣という単語に目を輝かせる。

冒険者がドラゴンを退治するとドラゴンスレイヤーという称号が与えられるのだがそれは冒険者にとって最高の名誉である。

冒険者にとってそれだけドラゴンという存在は大きいのだ。あこがれと言ってもいい。

さすがに時間が経ちすぎてドラゴンそのものはいないにせよ、その巣を探索することは夢の残骸を辿る、いうなれば甲子園の土を持ち帰るようなものだ。興奮するなというほうが無理だ。


「ごめんなさいスピア。あなたには私の護衛を頼みたいの。もし私がドラゴンゆかりの物を探してることが知られたら強引にでも始末しにくるかもしれないから」

「でも……」

「おいスピア。その足りない頭でよく考えろ。いいか、俺とお前がドラゴンの巣に行ってる間にここが襲われたらどうなる? ガーネットだけじゃないミミルさえも死ぬかもしれないんだぞ? お前はもうミミルのごはんが食べられなくなってもいいってのか! 」

「ちょっと待って。私の命はミミルのごはんのおまけなの? 」


ガーネットはちょっと黙っててくれないかな。


「っ!? そんなのは絶対ダメだ! 」

「ね……」

「だろ? もしドラゴンが本当にいたなら、きっと他にも巣はあるはずだ。冒険の機会はまだまだある。なんだったら俺が一緒に探してやってもいい。だからお前はこの街に残ってくれ」

「わかった。あたしに任せろ」


俺とスピアは熱い握手を交わしていると。


「あ な た た ち。私が誰か分かっているのかしら。この国の王女よ? 王女なのよ? それを無視して! 敬意ってものが足りないんじゃないかしら! 」


あ、キレた。

しかもちょっと涙目。

Sっ気のところがあるガーネットだけど意外と打たれ弱いのか。

まあ王女さまだしなー。


「聞いているのかしら! 」

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