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第十六話:贈り物

無事に焼き菓子を手に入れた俺たちはぶらぶらと街を歩く。

空を見上げれば突き抜ける青さは健在で、太陽はまだまだ沈みそうにない。

十分にデー……おほん、買い物の時間はありそうだ。


「ユニオ様はどんなお店に行きたいんですか? 」

「そうだな。部屋に飾る雑貨店や家具の店、あとは武器や防具なんかも見てみたいかも」


せっかく街にきたのだから色々な場所を回りたい。


「分かりました。ここから一番近いのはダーントの雑貨店ですね。まずはそこへ行きましょう」


彼女は俺に手を差し出す。

俺はその手を握る。一度は離れたぬくもりが再び繋がれる。


「……」


なんとなく手を繋いだまま黙って歩くの気まずかったので気になってことを聞いてみることにした。


「なあ、勢いであの男たちと喧嘩しちゃったけどマズかったかな? 」

「どうしてですか? ……その、かっこよかったですよ? 」

「そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ。もしかしたらギルドのルールに抵触したかもしれないんだよなあれ」

「冒険者同士の私闘を禁じるというあのルールですか? 」

「そう。俺だけならどうってことないんだが、ガーネットが保証人のような感じになってるからさ、俺が問題起こすとあいつの顔に泥を塗るんじゃないかって思ってさ」


俺がそう言うとミミルは、


「ふふふ、ガーネット様はそんなこと気にしませんよ。むしろあの場で戦わないことの方が怒ると思います。あの人は弱い人の味方ですから」


と何かを懐かしむように微笑む。

その表情があまりもきれいだったからしばらく見つめていると、ミミルがこちらに振り向く。


「っ! そ、そっか、それならよかったよ。胸の支えがとれてスッキリした」

「胸のつかえですよ」

「そうそう、それそれ」


おっと、うっかりうっかり。焦りからつい言葉を間違ってしまった。

まったく胸の支えってなんだよ。それってまるでブラジャーのことじゃないか。

いくらミミルの胸がデカくて、つい視線が顔から下へ移動しがちだからと言って、女性の前でブラジャーが取れるだなんてセクハラ発言をしちゃうとはちょっと気持ちが緩みすぎてるな。

でも、うん。ブラジャーね。……この世界にあるんだろうか。

産業革命も起きてないような中世ヨーロッパ風の異世界でワイヤーとかを使った、高度な文明の象徴であるブラジャーを作れるというのだろうか。

もし。もし仮にだ。ブラジャーがないと想定しよう。するとどうだ、ミミルのDを越えて居るだろう胸は今ノーブラということになる。

乳袋のような服で抑えられているとはいえ、中ではたゆんたゆんのぽよんぽよんだ。

……聞く? 聞いてみるか? 聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥と言うし。

俺の恥的好奇心がムクムクと勃ちあがる。


「ユニオ様? 」

「ああ、ごめん。恥を晒すことはあっても恥晒しになるのはダメだよな。それでなんの話だっけ? 」

「そうではなくもう着きましたよ」


考えに没頭してたらいつの間にか雑貨屋に到着していたようだ。

本当に手を繋いでてよかったと思う。もし繋いでなかったらブラジャーのことを考えながら迷子になってたかもしれないからな。


「さあ、入りましょう」


ミミルに続いて店内に入る。

ミミルが勧めるだけあって中々に広く品ぞろえも良さそうだ。


「いらっしゃいませー。当店自慢の品をそろえていますから、ごゆっくり見ていってくださいねー」


へー、生活雑貨だけじゃなく、アクセサリーとかも売ってるのか。

こういうおしゃれな店って男だけじゃ入りづらくて元いた世界じゃあまり行かなかったんだよな。


「ユニオ様は小物が欲しいんですよね? こういうのはどうでしょう? 」


ミミルが持ってきたのは木彫りの猫だ。

リアルさはないがデフォルメされてて可愛らしい。鮭を咥えているのもポイントが高い。


「悪くはないな」

「あ、これなんかもどうですか? 」


ミミルが別の商品を持ってくる。

それも猫をモチーフにしているやつだった。ことごとく彼女が持ってくるのは猫の雑貨。しかも、猫の顔がどことなく……。


「なあ、ミミルって猫が好きなのか? 」

「え? ああ、はい。そうですね。自由気ままでそれでいて気品も持っているところがなんというか」

「ガーネットに似てるから? 」

「……はい」

「恥ずかしがることじゃないだろ。二人はいつもいっしょの姉妹みたいなもんなんだし。家族愛ならいいじゃない家族愛なら。……家族愛だよね? 」

「そ、そうです! 家族として好きなんです! ぜ、絶対に誤解しないでくださいね! 」

「お、おう。そこまで念を押さなくても」


ちょっと安心した。

二人で嫁入りとか言っておきながら、実は俺を隠れ蓑にして二人でイチャつく偽装結婚とかだったら泣いてるところだ。

俺は寝取られ耐性なんて持ち合わせていないから、もしそうなっていたら立ち直れなかっただろう。


それから店の中のものを色々見てみたけど感性にビビっとくるのはなかったので俺の部屋に飾るものは何も買わずに外に出た。

成果なしではあるけど二人であれこれ言いながら商品を見て回るのは楽しかったから

それでいいだろう。ミミルも同じなのか笑顔である。


「次のお店はですね……」


その後も日が暮れるまでデートを楽しんだ。




「あ、そうだこれ。はい」

「なんですか? 」


屋敷に着く前に渡しておこうと思ったものがあったんだった。

ローブのポケットから小さな小箱を取りだしてミミルに渡す。


「今日、付き合ってくれたお礼」

「ありがとうございます。開けてみていいですか? 」

「うん、どうぞ」

「っ!? 」


小箱の中身を見たミミルが突然固まった。


「どうかした? 」

「こここれって、あ、あああ、あのあのあの。ブローチ……ですか? 」

「そうだけど? あの若い女の店員にさ、プレゼントするなら何がいいって聞いたらブローチが良いって勧めてくれたんだが。……大丈夫か? 」


それにしてもミミルの顔が真っ赤なのはなんでだろう。夕日に照らされてるってだけじゃないし。もしかして、ダーントの店員がニヤついていたのと何か関係があるのだろうか。しきりにどんな関係ですか?って聞いてくるから大切な人って言ったら鼻息荒くしてたし。


「わ、わかってます。大丈夫です。あ、用事を思い出したので私さきに帰りますね! 」


そう言うとギクシャクした動きで俺に背を向け、猛スピードで屋敷の中に入って行ってしまった。

本当にどうしたんだろう?



「ただいま」


俺が屋敷に戻るとちょうどガーネットが階段を降りてくるところだった。

だがその視線は少し険しい。嫌なことでもあったのだろうか。


「ユニオ。あなたあの子に何かした? 」

「あの子ってミミルか? いや、普通に買い物しただけなんだが」


ガーネットは俺が嘘を言っていないか確認するように顔をじっと見つめてくる。

特にやましいことのない俺は彼女の視線を見返すけど、十秒ほどでその物騒な雰囲気が消える。


「あんなに動転している姿を見たことがなかったから、てっきりあなたが原因なのかと思ったのだけど」


ガーネットの言いたいことは分かった。

猛ダッシュで屋敷の中に入っていったミミルと鉢合わせしたんだろう。それで俺が何かしたのだと思ったわけだ。

しかし俺にはまったく心当たりはない。しいて言うならブローチを渡したことくらいか?


「俺にもよく分からないんだが、プレゼントを渡したら勢いよく走って行ったんだよな」

「プレゼントって何を? 」

「ブローチだけど」


盛大なため息をつかれてしまう。なにかまずかっただろうか。


「……はあ。ねえユニオ。男が女にブローチを贈る意味を分かってる? 」

「いやまったく。どういう意味なんだ? 」


呆れた表情のガーネットに聞き返す。


「胸元につけるブローチはあなたの心に射止めますって意味。ようはプロポーズと同じことよ」


ああ、なるほど。

そういうことか。それならミミルの態度がおかしくなってもおかしくないな。

俺が、プロポーズねえ。うっわ恥ずかしい。

顔がものすごく熱い。

普段エロイことを考えてる俺だけど、実際のところはプラトニックチェリーボーイなわけで男女交際なんかまったく経験のない恋愛童貞でもあるわけですよ。

それが告白って。

しかもお付き合いしてくださいではなく結婚してください。

順序すっ飛ばしすぎだろ。


「その反応。ほんとうに知らずに贈ったのね」

「やめろ。そんな生暖かい目で俺を見るな! 」

「まあ、私との婚約を断ったあなたがプロポーズするわけがないってミミルも分かっているはずだからあまり深く考えなくていいわよ」


言いたいことを言ってガーネットは歩いていった。


結局、恥ずかしさは夕食時まで続き、それはミミルも同じだったのかお互いにギクシャクしてたけど、スピアがアホなことを言い出してたりしている内に自然と解消された。

ただ一個だけ変わったこともあった。それは


「ユニオ様」

「ん? なに? 」

「いえ、何でもありません」


ミミルの胸元にブローチがつけられていることだった。

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