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正義のあり方 俺たちの覚悟  作者: 松尾ヒロシ
自分の幸せを代価に周りの平穏を守れ
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第5話―過去/(……改めて考えても自殺しなかったのが凄いですね、僕の人生。)

今回、ちょっと重ためです

 早朝のカレンシティ。その街にある牧場の隅にて、僕、ウォーレンとガイさん、そしてレイナ先生は訓練をしていた。レイナ先生がこの場にいる理由は現在している『魔力切れによる最大魔力量の増加』の訓練にて絶対起きる魔力切れの副作用の対処の資格を持っているから。あと2人の共通の知り合いだから頼みやすいってのもあった。


(はぁ……ガイさんは魔力が多い影響で魔力切れになるにも30分くらい掛かりますし何をして暇つぶしをしましょう……)


 とても暇だった。そりゃ暇ならレイナ先生と話せばいいんだろうけど、僕は彼女と話せない。理由を説明するのには6年前の僕のトラウマについて語らなきゃいけないだろう。



 当時10歳だった僕は夢であった執事の修行をしていた。うちの家系はバレル家に代々仕える由緒正しい家だったため、僕もバレル家に仕えると勝手に思っていた。実際今はアーロンさんに仕えているわけだけど。小さい頃思っていたのは何と言うか、想定外の大きなことは無く安全にバレル家に仕えるのだろう、と思っていたのだ。

 だが、そんなことは無かった。もちろん僕だって大変な修行を経て執事になれるということは幼少期から知っていた。大きなことではあるが、まだ想定内の大きさだ。あの頃の僕に降りかかった事実はそんなちっぽけな尺度で測れる物事ではなかったんだ。

 あまりにも直球ではこの場から逃げ出したくなってしまうから、言葉を濁そう。

 僕はとても遠い親戚で同じくバレル家に仕えている女性に襲われた。当時10歳だった僕にとっては想定外、いや何歳であっても想定外だと思う。

 そうしてその事件の影響で僕は女性不信に陥った。母さんだって会話をするのは不可能で、この事件の前に生まれた妹だって何かで見えないようにしないと会話することさえ不可能だった。



 そのまま5年の歳月が過ぎ、僕は15歳になった日からアーロンさんに仕えるようになった。彼は事件の後も僕のことをいつも通りに接してくれた唯一と言ってもいい友人だ。他は家族でさえも少し疎遠になったし、彼は僕にとって大切な人だった。だから彼以外には仕えようと思える人は居なかった。まぁ彼以外に仕えることが出来る人は彼の父親ぐらいしかいないが。

 彼は15歳になると、両親から社会勉強として数ヶ月間旅をさせられた。もちろん僕も同行した。時には僕の女性不信の影響で買い物が滞るときもあった。むしろその影響で彼の社会勉強は著しく進んだと思う。アーロンさんには申し訳ないと思うけども。

 そして僕に転機が訪れた。それはカレンシティの隣の街、アスナシティの出来事だった。僕は女性不信が影響してある事件を引き起こした。その事件は翌日の新聞にも載ったので、記憶に残っている人も多いと思う。

 その事件の名前は『アスナガール傷害事件』というものだ。このアスナガールと言うのはアスナシティにて毎年独自に行われている大会の優勝者で、例えるなら『ミス・○○』みたいなものだ。

 事件の名前からお察しのとおり、僕はその年のアスナガールを傷つけてしまった。と言っても顔にちょっとした傷を付けただけだ。それにこんなことは言い訳にしかならないけど、僕は悪気があったわけでは無かった。ただ彼女が僕が女性不信だと伝えても『私とイイコトをしない?』と聞いてくるものだから軽く突き飛ばしただけだったんだ。それが思いのほか強かったらしく彼女はこけてしまい、近くにあった木箱の角で頬を切ってしまったんだ。

 もちろんその場で僕は謝ったが、それでは済まずに裁判に発展した。今の魔術を使用した裁判において嘘をつくことは馬鹿のやることだと言われている。なぜなら真偽を判定する魔術があるからだ。彼女はそれは分かっていたらしく嘘自体はつかなかったが、自分に都合のいいように誇張して裁判長に伝えたのだ。これには堪忍袋の緒が切れそうになったが、落ち着いて僕は自分にとっても都合の悪いところを特に誇張せずに伝えた。そして当時のブン屋が独自に調査をしたところ、僕の非は彼女を突き飛ばしたぐらいだと突き止め、それを記事にしたのだ。

 もちろんそれを知った裁判長の彼女に対する心象は底をつき、彼女は傷害罪で罰金を食らった。もちろん僕もしかるべき罰を受けたが軽いものだった。

この事件でバレル家の評判は少し落ちた。その事実が僕に重くのしかかり、当時お世話になっていた家の方に言って家の1室を貸してもらったのだ。

 僕は暗い部屋で冷静になろうと三角になって座っていた。


(僕のせいでバレル家の名に泥を塗ってしまった。でもあの傲慢な女が話しかけなければこんな事件起きなかったのでは? やっぱり女なんかと関わりあうんじゃ無かった。あの時だってあの女を信じたせいであんなことが起きたんだ)


 当時の僕は精神的にやつれていた。女性不信に加えあんな事件を起こしたのだ。なんらおかしくないと思う。

 そんな僕の人生を変えた女の子が現れた。その女の子はセイアちゃん、僕たちがお世話になっている家の1人娘の10歳だ。


「ウォーレンさん、どうしました?」

「セイアちゃん、今は来ないでくれ」


 僕は何とか理性で怒りの感情を抑えていた。そうでもしないと僕は壊れそうだった。


「でもウォーレンさん悲しんでます」


 彼女は僕に近づいてきた。思わず「来ないでくれって言ってるだろ!」と叫んでしまった。彼女は少し驚いて体を震わせたが、まだ近づいてきた。そして僕を背中から抱擁した。


「何で!? 何で犯罪者の僕を癒そうとするんだ! このままじゃ君も傷つくぞ!」

「あなたが傷ついたままじゃ変わりません、心か体かの違いだけ」

「……嘘だ」

「嘘なんかじゃ」

「絶対嘘だ! どうせ心の中では僕のことをあざ笑っているんだ。幼い子は大丈夫だと思ってたのに僕の妄想か。少しがっかりだ」


 僕はそう言うとて僕らの間に静寂がはしる。その静寂を破るように彼女は僕の後頭部に頭突きをしてきた。


「痛ァ!」

「やめてくださいそんな言葉……あなたを心のそこから好いている女性だっています!」

「……どうして、そう言えるんだ?」

「私が……そうですから」


 直後に僕の背中は濡れた。理由なんて考えなくても分かった。彼女の涙だった。


「私がどれだけ傷ついてもどうでもいいですから……私の好きなウォーレンさんに戻ってくださいよぉ……」


 とても、不甲斐なく思った。なんで僕は罪の無い彼女に勝手に期待して勝手に幻滅しているのだろう。罪があるのは僕の方なのに……

 僕はその事実に気づいたとき、何かが変わった気がした。まずは彼女に謝らなければ、そうとも思った。


「ごめん、セイアちゃん……ごめんよ」


 僕は最悪の人間だ。自分が嫌だったことを他人にしている。なんで気づかなかったのだろう、こんな事をしていれば彼女は僕と同じになってしまうのに。


「やっと元に戻ってくれましたね、ウォーレンさん!」


 すると彼女は僕に口づけをした。母を除くとこれが初めてのキスだった。


「私の初めてを捧げられて良かったです」


 どうやら彼女も初めてだったらしい。僕にはその事実は衝撃的で、つい怒ってしまった。なんで僕なんかに初めてのキスを、もっと相応しい人がいるだろうに、と。

 こんなことを言っておいてなんだが、自分でも心の底では困惑していた。だっていつも女性からされたら腸が煮えくり返るほど怒ると思っていたのに、今はとても穏やかだから。


「ふふっ。やっと叱ってくれましたね。ここに来てから初めてです」


 彼女は笑みを僕に向けた。僕は女性不信になった影響もあり、甘やかされて育ったため彼女の言った『叱る』という言葉の意味を理解できなかった。でも心で理解できた。怒ることと叱ることの違い。

 そしてそれを理解した瞬間、僕はこの笑顔を守りたいと思った。それは僕があの事件を経験してから初めて女性にしてあげたいこと。ただ純粋なこの笑顔を大人の邪な考えによって歪めたくないというとても独善的なものだけど。

 それからの僕は、女性不信が幾分かマシになった。なんと精神安定剤があれば長時間顔を見て会話することが可能なのだ。まぁ常人なら3日効果が続くものでやっと1日だけど、この1日はとても重要だ。

 そしてその1日を利用して僕はこの国の首都にあるバレル家の本邸で3ヶ月ほど修行させてもらい、そしてその修行の後からは時折、アーロンさんに休暇を貰っては人間の醜いところが多く露出するスラム街や紛争地帯などの孤児を独自に僕が建てた孤児院で預かってもらっている。もちろん僕は別の定職に就いているので形式上だけ院長だが、実際育てているのは複数人の男女の先生だ。事件以前のつてを辿ってなんとか僕と同じ人を探して雇ったため、変なことをするやつはいたとしても周りが何とかするだろう。

 そして紆余曲折があり、今の僕となったのだ。


(……改めて考えても自殺しなかったのが凄いですね、僕の人生)


 そうやって自画自賛しているとガイさんが魔力切れになったようだ。そこですかさずレイナ先生が症状の分析をし、適切な対処をする。そうやって増えた魔力を更に消費して現在のガイさんの魔力はリーンさんに迫るほどだ。


「さて、もうすぐ朝食時ですしそれで一旦終わって、食後、私と1戦交えますか」

「ああ、分かった」


 そう言うと彼はまた魔術の連続使用を始めました。

 そして次の瞬間、僕らは予想もしなかった出来事が起こりました。街で最も高い山の山頂、そこはバレル家の次期当主であるアーロンさんの父が住んでいるはずの邸宅です。そこにアーロンさんのホログラムが表示されました。街の端から端まで見えるようにかなりの大きさでした。


「さて皆は驚いていると思うが、早速本題を説明しようと思う。僕はガイ君との戦いに疲れた、だから僕は次の日曜日の6月12日にとあるイベントを決行する。それは、僕というボスを倒すことだぁ! 君たちの勝利条件は僕を倒すことだけ! もちろん生死は問わない。そして僕はハンデとしてバレル家の者を使わないと約束しよう。そして私を倒した勝者の発言には一度だけ従うことにする。もちろん生死に関わらないもの限定だがね。では12日を楽しみにしているよ!」


 その言葉を最後にホログラムは消えてしまった。


「……ガイさん、予定変更です」

「へ?」

「明日から第3段階の修行に入ります。気を引き締めてください」

「……マジか」

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