第4話―用語
「さて魔力について学んだことですし、魔術を使用するにあたって魔力とは別に用意する必要のある魔術式、魔術画について説明しようと思います」
どこかから取り出した指示棒ウォーレンが再びホワイトボードの前に立つ。
「さて問題です。魔術式は魔術画に描かれている様々な柄などを分析して作成されますが、その魔術画はどうやって創られるでしょうか?」
「えーっと……」
リーンは頭を抱えた。もちろんガイはこの程度のことは覚えているが、あえて言わないことにした。
「あっ思い出しました! 確か3大欲求と異なる欲望が本能や3大欲求を超えたとき、浮かび上がった絵を魔力を使いながら描くと魔術画になるんでしたっけ?」
「はい、正解です。原初の魔術画は自己顕示欲が食欲と睡眠欲を超えたときに創造されたと伝えられていますね」
ウォーレンはまた話を脱線させたことに自己嫌悪を覚えつつも話の本筋を元に戻す。
「魔術画の利点は、通常の魔術に比べ払う魔力量は多いですが感情に呼応して威力が変化するというところですね。倍以上の変化もありえます。欠点はその人が得意な属性以外使用不可能であること。まぁ属性の無い回復魔術などは誰でも使えますが。 それに対し魔術式は、魔術画の魔術の最大威力には1歩譲るが誰でも使えていつも安定した威力を出せるところです。得意不得意の影響で威力は変わりますけど」
その言葉が終了し、数秒間の沈黙が奔った。
「えっこれだけですか?」
リーンは思わず口に出してしまった。ガイは『いくらなんでも失礼だろう』と注意したが、勉強した中で多くの人が親からは教わらないであろう内容が魔術画関連の内容しかないためそう言ってしまうのも無理ではないだろう。
「あー……じゃあリーンさんは魔術画を持っていますか? 確かガイさんは中級の風の刃くらいでしたよね?」
「ああ、そうだけど……」
「私は最上級のを1つ持ってます」
ガイは驚き過ぎて一瞬心臓が止まった。
「嘘じゃないですよね?」
「嘘じゃないですよ、ほら」
彼女はそう言って水の槍を発現させた。ガイが以前見たことのある上級の水の槍とは違い装飾や切先の鋭さが段違いだった。
「嘘じゃ無かったんだ……」
ガイは彼女が嘘をついていないと納得すると、今度は最上級魔術について好奇心が沸いてきた。この物価が高いご時勢にどうやって手に入れたのか、どのような時に使ったのか、どういった絵柄なのか、とても気になった。
「あのすみません。魔術画って今持ってますか?できれば拝見したいのですけれども」
口に出したのはウォーレンだった。どうやら彼もガイと同様に興味が沸いたらしい。
「いいですよ。けど今は持っていないので絵を書く為の紙あります?」
「ありますよ~」
ガイはふとウォーレンの方を見ると、彼の手が妙に揺れていることに気づいた。
「なぁウォーレン、その手どうしたんだ?」
「ん? ああもうそんな時間ですか」
彼はリーンに紙を渡しながらまた懐から薬の入った容器を取り出した。そしてそれを口に含むと、手の震えが収まったのだ。
「ちょっと色々事情がありましてね。できれば詮索はしないでいただきたいのです」
「ああ、分かった」
「出来ましたよ~」
リーンの言葉が耳に入った2人は、彼女が描き上げた絵に視線を移す。
魔術画という物は基本どう解釈すればいいのか分からない物ばかりで魔術を行使してやっと効果が分かるものだ。だが最上級の物となると話は変わってくる。武器系の物なら武器の輪郭が、回復系の物なら傷ついた人が描かれているのだ。今回の魔術画は他の最上級に比べて輪郭がはっきりしており、最上級の中でも上物だと理解できた。
「輪郭がはっきりしてるの初めて見た……」
「あれ? ガイさんの両親はこう言うはっきりした魔術画を持ってなかったんですか?」
「多分持ってたと思うけど、俺が見たことのある中には無かった」
「なるほど」
その後、彼らはリーンに様々な質問を投げかけた。彼女はたじたじになりながらもほとんどの質問に答えてくれた。そして質問と応答が全て終わった後、知的好奇心が満たされた彼らは満足げな顔をして、魔術画についての考察を2人で言い合う。それを見たリーンは笑みを浮かべながら、「満足そうでなによりです」と呟き、自身の部屋へ戻っていった……