第3話―勉強
20191123追記 今後の敗北イベントと若干役割がダブる描写があったため削除しました。本当にすみません。
時刻は午前7時。牧場の仕事もひと段落し、リーンたちは休憩に入っていた。ちょっとした談笑を4人がしていると突然訪問者が現れた。それはウォーレンだった。以前見たタキシード姿ではなく、診療所のレイナ先生のような白衣に身を包んでいる。少なくともアーロン直属の執事として来たわけではないらしい。
「お早う御座います! ウォーレンです!」
「ウォーレン君おはよう」
ガイを除いた中で唯一ウォーレンのことを知っている祖母が反応した。
「祖母ちゃん、この人誰じゃ?」
「ガイがあんまりにも負けすぎだから無償で鍛えてくれるらしいのよ」
「それは語弊を招く言い方ですご婦人。正確には双方目的を達成できない、いたちごっこの状態から脱するためにです」
ウォーレンが紳士的な言葉遣いで返した。
「あらごめんなさいね」
「それはそうとウォーレン、今日は一体どんな用で来たんだ?」
「今日はちょっと勉強でもしようかと思って」
ガイは勉強する意義がどれだけ考えても分からず硬直した。実はガイ、魔術に関しては幼少期両親に教え込まれたため、その気になれば博士号を取れるくらい詳しい。まぁそんな事情ウォーレンが知るはずもない。
何とか断ろうと言葉を模索していると、リーンが手を上げた。
「ウォーレンさん、でしたっけ? ガイさんはそう言うの詳しいらしいんで私が代わりに勉強してもいいですか?」
「別に問題ないです。ガイさんもやりますか?」
ガイは断りたいと言う気持ちと同時にリーンと一緒に勉強したいという気持ちが湧き上がってきた。欲と欲が争った。そして結果、欲が勝ったのだった。
「はいというわけで勉強していきましょう」
3人は事務室を借りて勉強することになった。ここにのみホワイトボードがあるためである。ウォーレンのみ立って、他2人は隣り合った席に座っている。もちろんガイは赤面しているが、そんなことは気にせずウォーレンはホワイトボードに図を描いた。赤青緑と黒の4色でフローチャートのような直線的な図だ。左端には『風の系統』とあり、そこから一直線に並んだ4つの四角形の中に『風の発生 小刀 刀 刀(装飾追加&威力上昇)』、そしてその上には『下級 中級 上級 最上級』と書かれている。
「はい。これは風の、中でも刀剣の系統に限定した場合のみの図です。武器系の魔術は基本発生させる時に加え維持するのにも魔力を使います。維持するのには風や炎などの属性を問わず多少の誤差はありますが全て同じ消費量です。そして1秒に対して消費する魔力量を基準として1Cとされています」
「確か魔術開発の第一人者であり現代の魔術開発の全てを担う企業『オールヘクス』の初代社長『フィン・ヘクス』が定めたんでしたっけ?」
ここでフィン・ヘクス氏について簡単な説明をしよう。彼は現在の魔術と科学の共生社会の基盤となる魔術式の量産体制と科学団体との提携をした男である。それだけでも十分歴史に残る偉業と言えるのだが、彼の凄いところは医療系の魔術式を全て完成させて世界中の医療機関に無料で配布したことだろう。この偉業を称え、彼は『魔術医療の父』と呼ばれるようになったのだ。
「はい正解ですリーンさん。ここで間違えやすいのが魔術を世界で初めて発現させたのは彼ではなく、父の『エール・ヘクス』という点ですね」
ちなみにヘクス家は家名の通り魔術において天才的なものを発揮し、魔術史において彼らの出てこない時代は無いと学者に言わしめるほど偉人を多く輩出している。その分悪名高い偉人も何人か輩出している。おそらく愚かな現社長はそっちの方で歴史に残るのだろう。それを踏まえてガイは『ヘクス家は凄いなぁ』と言った。
「そうですね。さて話を戻しましょう。政府に仕えている戦闘職の成人男性の最大魔力量平均は1億33万69.4Cです。まぁ数少ない1垓Cを超える人々を含めないと5004万43C程度だと思います。これは上級魔術を5つ発生させて半日は持つ計算です。最上級は最低でも1億を超えた魔力量が無いと無理ですね。これらの例から自身の最大魔力量を計算してみてください」
ガイは記憶を探って自身の最大魔力量を推測した。概ね7000万Cと言ったところだ。平均を上回っているのはおそらく幼少期の修行の影響だ。この魔力量がなければアーロンとほぼ同等に戦うことができなかっただろう。心の中でガイは両親に感謝の意を述べ、ウォーレンに自分の最大魔力量を伝える。
「私は1億8000万です」
リーンのその言葉を聞いたとき、2人は空耳だと一瞬思った。ガイは16歳だ。この年齢で平均を超していることでさえも凄いのに同等の年齢でありそうな風貌の彼女がその2倍以上の魔力量を保有しているのだ。
ガイは『ああ、俺って井の中の蛙だったんだな』と思って彼女に年齢を尋ねる。
「リ、リーンって今何歳?」
「えっ16ですけど」
ガイと彼女は同い年だった。まだまだ3人の勉強は続く……




