第12話―「神の経、通じて人は現世見ん。幽世見んとする時は、その身に神を降ろすべし」
どうも皆さん、お久し振りです。私はガッシュ2更新に満足して更新するのを忘れていました。
「了解いたした!」
武通の叫びと共に、魔獣との取っ組み合いが始まった。ケイレスはその大きな嘴で武通のコアを狙い、武通はそれを受け止めている。体格は武通が圧倒的に大きい。しかしケイレスはなんとか拮抗させている。単なる取っ組み合いは引き分けか、エネルギーの限界がある武通の負けにしかならないだろう。しかし武通はMUが合体したもの、部分的に分離も可能であるため、手数の多さで武通が勝利する。これを活用すれば、見えている札は全て封殺できるだろう。
「アレス・オーダァ・ニヒツ!」
武通はアレスを生成し、戦いを決めに来た。だが……
(アレスを生成しても、きっとケイレスは倒せない。透明化できれば情報収集なんか簡単だ。だが、武通の転送魔術はなぜ知らない?)
理由が気になるな。やはり一旦捕らえるか。
「地獄花火」
フレイム・ショットガンが信号拳銃のような形に変化した。常に炎が揺らめいて、俺の腕に巻き付いている。この銃だからこそ使える弾丸もある。武通たちと距離を取りながら俺は特殊な弾丸を生成した。
「獄炎弾、生成完了……」
自慢のオリジナル技だ。小細工無しなら確実に殺せる。だが相手は魔獣だ、まず間違いなく生き残るだろう。
アレスを生成して形勢が武通に傾いている。アレスの魔術吸収を嫌ったのかケイレスも上空に飛び立ち、距離を取っている。まだ撃つ時じゃない。装填だけして耐えろ。
「なんでお前らは今、このタイミングで来たんだ?」
ケイレスは答えるはずもないだろう。だが、情報を得るのは二の次だ。
「まぁ言うわけないよな。お前ら魔獣の情報なんて渡しても得はないし。ただ、アレスが居る以上、お前の優位性なんかこれっぽっちもない。力は武通、魔術はアレスが対処できる。こんなの俺たちが負けるわけが無い。俺もお前の魔術を無力化できるし、こんなの詰みだ。諦めな」
「勝手に詰みだと言ってるけど、私はまだ全力じゃないんだけどねぇ!」
ケイレスは俺に向かって突進してきた。武通と同じことができるならより弱い俺を狙うという魂胆だろう。予想通りだ。
「武通!」
俺の叫びに応じて武通はケイレスに飛び掛かった。脚部を部分的に分離してバネ代わりにしてケイレスの射線を塞いだ。
一瞬ケイレスの視界を阻んだ隙に俺は上空へと飛び上がった。
「獄炎弾、発射!」
1つ瞬きすれば散弾らしく弾が散る。2つ瞬きすれば更に散る。
「追撃!」
散った弾がケイレスに向かって行く。これが獄炎弾の強みだ。無数に散った散弾が俺の指定した目標まで追尾する。散った弾丸1発のパワーこそ高くはないが量でカバーできる。
獄炎弾の雨がケイレスに降り注がれた。土煙が上がる。俺の元まで広がり、完全に視界が遮られてしまった。
俺はケイレスがいた方に銃弾を放ちつつ、思案していた。
(おかしい、本来ならこんな土煙は立たないはずだ!)
土煙を出す魔術だとしてもここで使う意味がない。そんな魔術があるとして、ナノマシンでケイレスの姿を捉えている以上効果はない。透明化を実質無効化してることからも予測できる範疇のはず。つまりこの土煙はあいつの魔術じゃない。一応円號魔割を使ってみたが、やはり状況は変わらない。
(獄炎弾が地面に的中したのか? 円號魔割は範囲外だったし魔術の効果で避けたってわけか。あーあ、完全追尾できるようにしとけばもっと分かったこと多かったろうに……)
待て、妙なことが起きてないか。俺はナノマシンをあいつに撃ち込んだ。今もナノマシンは奴の血流の中を動いているはず。なのに
(ナノマシンの反応が全く動いていない……血流が止まったのか? いやこんな突然に止まるわけが
……)
俺は辺りを見回した。さっきケイレスがいた位置にずっとナノマシンの反応がある。シルエットも捉えている。だが、他には見当たらない。
「まさか」
俺は意を決して土煙の中に飛び込んだ。そしてナノマシンの反応がある座標にたどり着いた。
何もない地面だった。この地面からナノマシンの反応が発信されている。つまり地面に全てのナノマシンが落ちているということになる。
「やられた……!!」
何らかの手段でナノマシンが排出されている。これで俺が観測する手段はバレットサーチャーしか無くなった。だがたとえ魔獣の透明化だろうと基本体温や足音などはそのままだ。本来なら武通が対処しているはず。ではその武通の場所は?
「武通の反応も無い……あの突進でやられたか。威力は折り紙付きってわけだ」
にわかに背後で土煙が動く感覚がした。振り返るまでも無くケイレスだと分かった。俺は円號魔割を発動し、直ぐに回避行動を取る。だがあの巨体を完全に避けることはできず左腕に直撃して吹っ飛ばされた。
なんて衝撃だ。俺は地面をさながらスーパーボールのように弾んだ。左腕は脱臼どころか開放骨折だ。
「痛ぁ……!! 千切れてないだけマシかぁ……」
気づくと土煙も吹き飛んでいた。奴の姿がしっかりと見える。だが、すぐさま透明化の魔術を使われた。
「せめて奴の魔術の糸口でもあれば……」
俺は折れた左腕に、何か金属質の物が触れるのを感じた。武通の残骸だった。時間が無いが、重要な情報源だ。
(手のひら大の穴があるな。何か遠距離攻撃でも仕掛けてきた、ってわけないか。そんなのがあるなら最初から使ってる。じゃあ突進でできたってことになるが……)
あの巨体だ、色々おかしい所がある。
(完璧に貫通してる。だけど穴の大きさは壺状に変化したりしてない。なら嘴じゃないな、残った候補は……足か?)
足か……そういえばさっきは足じゃなく羽にぶつかったんだよな。じゃあ本来の威力じゃないのか? いや、突進がメイン武器なら羽に当たっても似たような威力のはず。それこそ武通のようになっていてもおかしくない。
(情報は出揃ったな……俺の予想が当たってるかどうか、答え合わせと行くか)
俺はバレット・サーチャーで周囲の環境を把握する。ケイレスの姿は周囲に確認できない。どうやら範囲外、おそらく上空だろう。
好都合だな、今のうちに詠唱を始めよう。
「神の経、通じて人は現世見ん。幽世見んとする時は、その身に神を降ろすべし」
バレット・サーチャーによる燃えない炎に見える影。奴のものとするにはあまりにも小さく細すぎる。だが、それで問題ない。俺はすぐさま回避行動を取った。俺が取れる全力での移動だ。自身に神降ろしを使い、地獄花火をブースターにした。
回避行動を取り始めた後、俺は神降ろしをケイレスに向かって使った。
「神降ろし・他人羽織」
影を起点に周囲の物体の速さが3倍に跳ね上がる。他者を3倍までなら自由に加速させ、相手の調子を崩す魔術、神降ろし・他人羽織。
「なっ!?」
奴の姿が見えた直後、凄まじい速さで地面に突撃した。バレット・サーチャーを止め、俺は奴に近づく。
墜落地点には足が刺さっていた。つま先が空に向き、まるで体は地面に埋まっているかのようだ。いや、本当に埋まっているのだろう。奴の足は解放骨折の状態にあるようで、足の骨が見えていた。
「やっぱり物体をすり抜ける系魔術か……足だけすり抜けてないのは地面に埋まらないためか」
やはりこいつの魔術は生かすだけの価値がある。だが、この腕の借りを返してやりたい気持ちもある。
「こっちに協力してくれるならお前を生かすこともできる。勿論ある程度拘束することになるだろうが、それでも確実に今を生きることができるぞ」
「……姫様、先に逝くね」
はぁ……
「色々言いたいことはあるが……この状況で足掻こうとしない性根が気に食わないな。死にたくない理由の1つや2つ無いのか? そんなつまらない生き方しかしてこなかったのか?」
「……」
さっき普通に喋れたくせに黙ってやがる。
「いいか? お前の生きがいはお前の言う『姫様』の役に立つことだったかもしれない。だが、お前はまだ未練があるだろうが! わざわざ姫様以外が名付けた名前を名乗ってんだろうが! つまんねえ死に様晒してんじゃねえ!」
俺はケイレスの脚を掴んた。
「今の状態で円號魔割を使えば地面に潰されて死ぬ! 死にたいか、死にたくないか! どっちなんだお前は!」
本当に死ぬとは思っていない。コイツもこの弱点はある程度把握してるはず、解除した程度で死ぬわけ無い。だからこそ、俺はムカついてるんだ。
「……死にたいわけない。でも人類の殲滅は姫様の悲願なんだよ。私だって生みの親の願いを叶えてあげたい。そのためには人間に情報なんて残しちゃ駄目、だから大人しく死ぬしかない。だいたいお前が殺そうとしてるのにおかしいと思わないんだろうかねぇ」
そうか。
「……それが本音か」
俺は殺したくないと思った。情報源だからってだけじゃない。俺は、未練があり余ってる奴を見ると、どうしてもちょっかいを出したくなるからだ。
「やはりお前を殺したくない。未練があるような奴を殺しても、俺が嫌な気分になるだけだ。だからな、死ななくても良い、生きなくても良い。それでも俺についてきてくれないか?」
「……はぁ」
予備動作も無くケイレスは地面から飛び出した。魔術を解除したらこうなるらしい。そうだと思ってたよ。
「うわっ! 急に出てくるなよ、ぶつかったらどうしてくれるんだ!」
「安心しなぁ、ぶつからなかったんだしねぇ」
そういう問題か? まぁ良いか。
「……ついてきてくれるのか?」
「まだ保留だよ。早く私を拘束するんだねぇ。私は負けた。自分で魔術を解かないとあらぬ方向に飛び出して結局死んだからね。さぁ私の気が変わらないうちにやってくれ」
「分かった」
俺は手を差し出した。
「それ、握手のつもりかい?」
そう言われ、俺は自分の腕を見た。
「腕折れてるの忘れてた」
俺たちは大爆笑した。まだ魔獣の戦いは続いているのに。まだ人間との戦いは続いているのに。
「あーあ、久しぶりにこんなに笑ったよ。こりゃ姫様を裏切るっきゃないねぇ……」
その言葉の直後、急に違和感を感じた。周囲の環境が急に変化したような、そんな違和感だ。
「……なんだ?」
「もしかして、あの盾消えてないかい?」
盾? 天岩戸か? 俺はさっきまで天岩戸があった場所を見た。
「消えてるじゃねえか……!」
「まずいね……あの魔術が決まっちまったらしい」
あの魔術ってなんだよ。
「詳しい説明は後で! きちんと聞くんだよ。あの牧場に行ってる姫様は……」
女王を殺した後、タリス夫妻は龍魔王・半魔の誂を正しい手順で解除し、2人の人間に戻っていた。
「ん? これは……!?」
魔獣の女王の死体が崩れていく。いや、元の姿に戻っていく。
それは先ほどの姿とは似ても似つかない姿だった。
タリス夫妻は思索する。今までの経験から類似例が無いかと探した。
「もしや……能力コピー系の魔術か!」
彼らはガイたちを探した。あの偽物がリーンを乗っ取っていたなら、洗脳は解除されているはずなのだ。
予想に反して、2人は直ぐに見つかった。
「……まだ洗脳されたままだ!!」
水の魔術の奔流が煌めいていたからだ。
俺はケイレスの言葉を聞き、街の上空を飛んでいた。
(ここまで街が崩壊しているのに気づけなかったとは……ケイレスと戦っていたとは言えども、穴があったら入りたい気分だ。墓地は……木端微塵。数少ない商店も全てが潰れているな)
爆音が響く。天岩戸があった場所からだ。すぐさま駆け付け、ケイレス戦と同じようにバレットサーチャーを発動する。そのつもりだったが、俺が到着するとすぐに魔獣の姫とやらは透明化を解いた。
「初めまして。その顔つき、バレル家の末裔みたいだな」
混ぜ物の体だ、良いとこ取りをしているのか? だが、あの体を維持するのには大きなエネルギーが必要なはずだ。
「お前が魔獣の姫か!」
何か情報が得れればいい。言葉を投げかけよう。最悪、円號魔割で魔術は対策できる。だから少しでも情報を……!
「その呼び方……スズメ型がやられたということか。まぁ奴は人間が好きだったからな、ここまで時間稼ぎをできたなら重畳だろう」
かなり悠長な態度だ。敵である俺を目の前にしても立ち去ろうとしていない。おそらく、圧倒的にこいつの方が強い……!
「墓地を破壊したのは心の支えになるからだな!」
心の支えは魔術画の魔術の支えになる。心が折れなければ結局のところ魔術が弱まるということは無いだろう。だが、魔術をそれだけ弱まらせたいのか? 弱まらせたい魔術があるなら、俺たちにも勝機があるかもしれない……!
「そうだが? どうやらここの墓地にはかつての最強の魔術師、カディック夫妻の墓地があるらしいからな。潰させてもらった」
……どういう意味で言ってるんだ。カディック夫妻の墓地があるにしても、それが心の支えにはならないはず。死体を操られると面倒だからか? だが死体操りの魔術は禁じられている。ここ数十年、使い手が表に出た記録もない。それとも死体から得るなにかが存在するのか?
「王・連・牙」
魔獣の姫が弾け飛び、塵芥となった。これが単なる自殺ならありがたいが、塵芥が尾を引いてこちらに突進している。
「急に攻撃しやがって……! 円號魔割!」
魔術のイメージとしては双頭魔獣カームとヴィントのものと似ているな。なら、円號魔割を発動した時点で元の肉体に戻るはず……
予想通り塵芥が少しずつ纏まってきた。
だが、予想と反して……
「お前、例外か!」
消えない魔術が、俺の肉体を貫いた。俺の意識はここまでだった。
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