第7話―「人形操術・疾風」
どうもお久しぶりです。この回は実は今年の初めくらいには完成していたんですが、たまには書き溜めをしてみたいと思ったんですね。そしたらいつのまにか失踪1周年を超えていたんですね~、不思議。まぁ書き溜めできてるのこれも含めて4話くらいなんですけど。
色々長い間考えていたことでストーリーも初期プロットより面白くなっているので楽しんでみてください。
スペースデブリが衝突したと錯覚するほどの衝撃の後、カプセルには何もいなくなっていた。
直ぐ様水晶に映し出す先を月面基地内部、つまり蜘蛛の魔獣である乱が転移した先の月面基地へと向ける。
突然の転移。人間の反射神経とはどうあがいても行動を起こすのに0.1秒必要だ。これはかつての人類の数値であり、身体構造が進化することによって0.07秒を切る人が多くなった。しかしそれに対して魔獣は奇襲、それに加えて最速で0.0005秒で反応出来るように乱は改造されている。初撃は許さざるを得ない。
だがただ1人、人形遊戯のネロは反応した。右の五指を乱に向けて呟く。
「人形操術・疾風」
ネロの右手の関節が球体となり、肌の色もパールグリーンに変化した。そして右腕のあらゆるところから赤い糸が伸びてきた。それぞれは細いが、亜光速で乱へと接近していく。
糸を断ち切る暇もなく、乱は疾風をくらってしまった。
「よし! 制御下に置きました!」
人形操術。それは洗脳効果のある糸を伸ばす魔術。ある程度は目標に向かって飛ぶが、この人形操術・疾風はその伸びる距離と目標に届くまでの速さを極限まで上げたものだ。その代償として、他の最強たちは一瞬で3回は解除できるほど洗脳の効果が弱まっている。
「凛太郎さん! 今のうちにやってください!」
乱の目の輝きは未だ健在だ。3秒もあれば確実に洗脳を解くだろう。だがそんなことはさせまいと、凛太郎は叫ぶ。
「青天霹靂・大入道!」
凛太郎の腕に黒雲が纏わりつく。次第にそれは大きな黒い腕となり、乱を掴んだ。
「雷収束! 白雷!」
白く輝く雷が乱に流れた。普通の人間なら100回は死んでもおかしくない代物だ。血液は沸騰し、周囲にあった空気は発火点へと至る。皮膚は燃えつつ風船のように膨らんでいく。通路を完全にふさぐほどになると、体内の水蒸気がプラズマ化して内部から燃え始めた。
「灰塵に帰せ!」
乱が灰になって散っていく。それを見たインはもしもの時代に備え、盾の魔術で通路を完全封鎖、灰がこちら側に入らないようにした。
「どんな敵であろうとこれで何とかなるだろう……」
凛太郎は魔獣陣営を信頼していた。自分たちにぶつけるなら、自分たちを殺せるだけの力を持った敵と戦うことになるだろう。だから自分たちも敵を一瞬で殺せる技を創り出した。しかし同時に慢心もしていた。敵は絡め手を使ってくるほど手段を選ばないわけではないと。魔獣たちのプライドにかけて、正面から勝てるようにしてくるだろうと。自分たちに直接的に働きかけてくる魔術を使ってくるだろうと考えていた。
しかし相手は自分の年齢の何百倍も対策を講じてきた存在だ。それだけの執念があり、手段を選ぶほどの正気さがあるわけない。そして、人類の観察を行い、最強たちがどれほどの強さがあるのか知っているはず。その上で、この月面基地に転移してきた魔獣がやられることを考慮に入れないはずがない。
その恐ろしさは未だ最強たちに伝わることはなく、徐々に彼らを蝕むこととなる。
月面の魔獣基地。参謀担当のジースは乱が特筆すべき損害を与えることもなく灰と化したことに驚くこともなかった。それも全て計画通りであるためだ。
彼は水晶に映している光景を幻術双子に向ける。お互い疲れているような様子もなく戦いが続いている。辺りには骸の腕が散らばっているが、その程度の損害は骸に何の影響も与えない。
「……まだやられていないか。確かに殺しづらいかもしれないが、これほど苦戦するか……?」
疑問に感じたジースは戦闘記録を確認することにした。
「まさか……設計・開発部門代表、指令部門に来い!」
(あの時女王を説得できていれば、完成した生物転移システムで人類を蹂躙していたというのに……いや、寿命のこともある。これは無いものねだりだな……)
魔獣設計・開発部門代表はゴリラを基に開発された魔獣だ。代表であることを分かりやすく伝わるように両者はフードを被っていた。
「結論から話そう。貯蔵している魔獣をすべて侵攻させろ。全員出撃だ」
「ほう、そりゃまたなんで?」
ジースは水晶で見た映像のリプレイ動画と戦闘記録を見せる。視覚的に比較できるように戦闘記録のログデータの通りに3Dモデルを動くようにした。
「映像と記録の差が一定じゃねえな、俺の計算ならリアルタイムの戦闘から1秒の差のまま記録されるはずだ。たまたま起きたラグってレベルじゃなくズレの頻度が高いし、長いぞ」
「お前の設計ミスやプログラムミスよりも、あり得るのは双子の知覚不可幻術だな。映像に関しては信用しない方が良い。戦闘記録は光を介しない記録だから信憑性が高い。おそらく、奴らは既に骸を捕獲ないしは自由に操れる状態にし、幻術と合致するように骸を動かし、ダメージを与えているのではないだろうか?」
「仮説としてはあり得るな。時間稼ぎが目的か。仲間の休息のためか? おそらく俺たちの目的が分かってる動き方だが、どうする?」
「事前情報からしても、放っておいても問題ないはずだが……地球に降下する必要もある、貯蔵している魔獣を少しずつ出撃させろ。奴らが対処で戸惑っている隙に降下するぞ」
ウォーレンは骸を倒した後、周囲に気を配りつつも魔力の回復に努めていた。単騎確殺・白灰で使った魔力はウォーレンにとっては10分で回復する程度の量しか消費しない。しかしそれでも10京C以上消費するのだ。これは才能のないウォーレンがこの魔術を再現するために莫大な量の魔力を使っているためだ。あらゆる人類は体力が回復するにつれて魔力が回復する。そのため、莫大な魔力を持つということはその分休息して回復する魔力が多くなるということを意味する。ウォーレンが最強足りえているのは数秒の休息で回復する魔力の量が非常に多いため、ほぼ無尽蔵の魔力で戦うことが出来るためだ。
しかしそれでも疲れるものは疲れる。肉体的というよりも精神的に疲弊していた。それに加えて、単騎確殺・白灰はウォーレンの手も傷つけるため、じっくり回復する必要があった。
(僕を狙ってないのは……まず間違いなく、時間稼ぎか……そう考えるとあの魔獣が3体しか出てこなかったことにも説明がつく。兵士の漸次投入は戦闘が長引くだけだ。おそらく僕たちを殺せるかどうかはそこまで必要ではないのだろう。魔獣の本隊が地球に無事に降下できれば、最悪僕らの生死などどうでも良い……やはり魔獣の本隊には僕らを倒せるだけの戦力が秘められているみたいだ)
「おい……ウォーレン! 生きてるか!?」
通話越しでもうるさい声。カストル・バークランドだ。少し冷静さを失っているのか、いつもの口調とは違うようだ。
「カストルさん、うるさいですよ。プライストシーン使わなかったんですか?」
「いや使った。それよりもな、双子が落ちたみたいだぞ」
衝撃的な情報を聞き、彼は月面基地の状況を確認する。
酸素濃度が極端に下がっていた。このままでは全滅は免れない。確実に魔獣陣営の策略だ。しかし良くも悪くも最強を殺すことを目的としていなかったことが仇となった。最強が2人活動可能ならどんな状況でもひっくり返すことができるのだ。
「中の人たちは……全員息があるみたいですね。かなり危ないですが、まぁ私達のすべきことをしましょう。魔獣は……追加の戦力を投入したようです。あくまで漸次投入を敢行するようですが、このドームを破壊してからでも十分間に合うはずです。カストルさん、今の座標は?」
「オメガ4辺りだな」
「分かりました、ロー20で集合しましょう」
同時刻、月面基地。最強たちは為す術なく床に伏していた。急激な酸素濃度の低下によりまともな動きが出来ず、風属性の低級魔術を用いてこれ以上酸素濃度を下げないようにするだけで精一杯だった。
しかし、人形遊戯のネロだけは違った。彼だけはなぜか意識もはっきりしていて、周りと同じように倒れているふりをしているだけだった。
(接続コード・フィーネ)
心の中で呟くと、彼の目から光が失われた。
次の瞬間、彼の意識はこの月面基地の電脳空間にあった。
「無事接続完了、索敵行動に出る」
この電脳空間は非常に広い。電脳空間とは本来はウイルス対策に作り出されたものだ。一種の迷路のようなもので、電子機器に接続する際に最初に接続する空間だ。どのような権限を持った者であろうと正確な手順を取らなければ機器操作可能な領域にまでアクセスできない。この時代においてあくまで管理者権限とはその手順を知っているというだけの称号なのだ。
そしてネロは管理者権限を保有していて、この電脳空間について知らないことはないほど熟知していた。そして電脳空間から無理やり機器を使用する裏技さえも持っていた。それは、『電脳浸食』という魔術であった。
「敵性存在発見、対象の保有する操作権限を剥奪。酸素濃度の上昇、一時的に濃度規定値を超過することを許可する。内部に居る人間が通常の状態に戻る兆しがあればすぐに規定値にまで下げること」
彼の言葉と共に、基地の状態が元に戻っていく。そして目の前に、乱の姿が現れてきた。どうやら権限削除と共に電脳空間に戻らされたらしい。
乱は状況を理解する時間は無かった。しかし眼前にいるのは自分の敵だと即座に理解し、攻撃を始めた。自分が取れるすべての手段を用いた。ただの人間なら即死するような素早い打撃、毒が混ざった蜘蛛の糸。それだけだ。乱は月面基地の制圧を主目的とした魔獣だ。基本的には殺されてから電子機器に潜入し何らかの方法で拘束することを目的としている。そのためこの場面で取れる手段は限られていた。
もちろん弱い技でもないが、ネロには全く効いている様子はなかった。言い表すなら、無敵。どのような攻撃を受けても微動だにせず、苦しむことはなく、そして何かあったのかさえも気にしていない。まるで何事も起きていないかのようだ。
「ふう、どうやら電子機器接続系と権限乗っ取り系の魔術と……死んでも生きていける魔術。いやそれは危険要素もあるし、コアの縮小とコアへの移動能力付与系みたいですね」
ネロは乱の体の一部を手早く掴み、人形操術を用いて洗脳した。現在使っている人形操術は洗脳効果を最も強力にした人形操術・烈火だ。今まで解除されたことは1度たりともない。どのような命令だろうと実行する精神に書き換えてしまい、本来脳が命令できない範疇の行動さえも取れるようになる。
「コアを貫き、生命活動を停止せよ」
魔獣は胸部を貫き、頭部を自らの腕力でねじ切った。血は出ず、代わりに0と1が噴出した。一旦噴出が止まると残った体も数字に変わっていき、欠片も残らなかった。
「事前情報では基にした生物が分かりやすいほど単純な強化系か、集団で発動する系の魔術になる傾向にあるらしいですが、やはり傾向ということですね。人型生物か蜘蛛かは分からないけど、そこまで基が分かりづらくない魔獣でこんなに特異な魔術を使うなんて……」
ネロは一度ため息をつき、その場に座り込んだ。
「僕は医療用知識は無いしなぁ、全快まで今から何時間だろ……視界に監視カメラの映像を共有。管理者のログアウトと共に共有の停止」
彼は敵襲があるまで電脳空間にいることにした。
カストルとウォーレンが集合したロー20は月の裏側寄りの場所だった。魔獣の集団が進軍している地点からもかなり近いが、魔獣たちの注目を集めて月面基地から遠ざける目的もあった。
そこで2人は炎のドームを壊すための準備をしていた。ウォーレンは風の魔術を吹き付けたり、炎の魔術などをブースターにしてカストルを全力で殴っている。
「どうですか! 貯まりましたか!」
「……良シィ、貯まっタァ!」
「早いですよ……ストレス発散にもなりません」
「まぁ気にすんナァ……じゃアァ行ってくるゼェ」
カストルは真上に飛び出し、右手を差し出して握手をしに行くような形でドームに近づいていく。彼に反応してドームからは巨大なチーターの腕が飛び出し、カストルに殴りかかった。
「的を大きくしてくれてありがとヨォ!」
彼はその腕を掴んだ。
「揺れている手!」
揺れている手とは、シェイク・アンド・ダイを接触限定にしたような魔術だ。接触限定ということから魔力消費がほぼ0である。そして微妙な振動の調整のしやすさに優れている。
ただ貯めた振動を放出するだけでは月の軌道に影響が出かねない。シェイキング・ハンズだからこそ、それに影響が出ないギリギリを突いて最大限の振動を放出できるのだ。
カストルの目論見通り、炎のドームは崩れ始め、地球との位置関係には影響が無かったようだ。
「さテェ……ウォーレン! 今の魔獣は何体ダァ!」
「先程の鬼のような魔獣8体です!」
「なるほどネェ、どうやら本気で戦闘を長引かせるつもりらしいナァ……」
「そっちは僕が対象します、カストルさんは敵基地を全力で潰してください!」
「あいヨォ!」
カストルとウォーレンはそれぞれの目的を達成するために飛び立った。
しかし彼らは骸だけでも100体近く残っていることを知らない。
約11時間後のことだ。魔獣たちが巨大隕石で地球に来襲する10分前。多くの最強たちは
月面から何の攻撃も来ず、魔獣の女王は高笑いをあげた。
「ははは、最強どもが生きていたとしても、こちらに対処できるほど余力は残っていまい」
その直後だ。何も無かったはずの方向から攻撃を受けた。隕石は軌道が変わりそうなほどに揺れた。魔獣の女王はすぐさま魔術を用いて振動を抑え、情報の確認をとる。
「なんだこの揺れは!!」
あり得るとすれば最強たちの魔術だ。しかし全員が気絶ないし行動が満足にできない状態のはず。200体を超える妖怪魔獣を全て対処出来たとも考えられない。
「分かりません!! しかし中部に巨大な穴が開きました!!」
何もかもが謎だ。仮に白雷の凜太郎だとしてもここまでの威力の雷を気づかれずに放つことは不可能だ。可能だとしても幻術双子の魔術が必須だ。しかし幻術双子は子供だ。仮に酸欠状態から復活するにしても時間が足りないはず。
「最外層、凍結していきます!」
意味が分からない。事前の情報では凍結系魔術の使い手は居ないはずだった。虎の子でも隠していたのか。
「損傷部から半透明の白い流体が乗員を取り込んでいます!!」
単騎確殺・白灰の特徴とそっくりだ。最強が活動できる状態であるのは間違いないらしい。しかしどうしてこのタイミングに間に合ったのか。魔獣の女王は一旦考えを断ち切り、指令を飛ばす。
「最外層、いやコントロール室以外の全てを分離!! 10秒以内に必要な装置を転移させろ!!」
女王の指示に従い、必須機器が転移されている。仲の良かった魔獣と別れることになり涙を耐えている魔獣もいる。しかしそれもすべては女王の悲願のため。
「分離並びに転移完了」
「よし……大気圏突入準備!」
コントロール室が異様に寒くなる。大気圏突入にあたり、外周を冷却材で急冷却させているためだ。足元には白い煙が見える。
「大気圏突入準備完了、突入まで5秒前」
(やっとこの時が来た、人類を滅ぼす時が)
魔獣の女王は誰にも気づかれないように感涙の涙を流した。
「5……4……3……2……1……突入!」
これで月面戦闘は終了です。次は地球が舞台の戦い、タリス夫妻の牧場に化け物が落ちてきたところからですね。
僕の更新頻度が低いせいなんですが、皆さん内容忘れてると思います。興味が向いたら読み返して下さい。投稿時より描写増えてたり技名変わってたり、そもそも話数増えてたりするので以前読んだよりボリュームは増えていて面白いはずです。いや、むしろ面白くないはずがないので読み直してください。
ちなみに次の更新は来月か、次のガッシュ2の更新が来たらですかね。




