第2話―会敵/その6「すみません姉御。それよりなんか魔獣の臭いがするんです。めちゃくちゃ強い臭い」
戦闘導入回とか言ってたくせに三日前から戦闘も書こうとしてる事に今気づいたんで切り取ってから投稿しました。
まーたテスト期間目前なんで投稿頻度が今より落ちますが少し待っていてください。
翌日の昼。タリス家での出来事だ。テーブルの上にはミルクコーヒーと無糖コーヒーが乗っている。それぞれガイとリーンの物だ。2人は錬金術の色々で過激な表現が無くなった、はっきり言ってつまらないテレビ番組を見ていた。だがそれ以上に面白いものがあるのかと言われればそうでもなく、かと言って自分たちに何か面白い話題もないから黙って画面を見つめている。
時々机のコーヒーを飲んだりしていると、臨時ニュースが画面の上部に流れた。「◯✕△□◇国大統領射殺」と重大な事実が流れているが特に気にする素振りも見せない。なぜならここ最近はそういう事が増えてきているからだ。
「ほんとこういうの、あの会見から増えたよなぁ」
「忘れがちですが、この街と隣街のアスナシティは治安が良い方ですからね。酷い所とか死体の山が出来てるなんか当たり前ですし」
「こえーな……」
街の外の話題が出て、彼はあのガニメデタウンでの悲劇を思い出してしまった。それをミルクコーヒーと共に飲み込んでやりたかったが、どうも無理だったようでまだ思考の中心にそいつがいる。思いきって彼はリーンに尋ねる。
「そういえばリーンは依頼でこの街にやって来たけど、どうするんだ? 街の外に出て旅でもするのか?」
リーンは熱々のコーヒーを口に含む。予想以上に熱かったためか、舌を火傷したらしい。何事も無かったかのように彼女は話を続ける。
「分かりません……私、ある組織に属していたんですけど、それも先日味方を裏切ったせいで命を狙われる一歩手前ですし……何かきっかけがあっても……」
彼女が視線をテーブルの下に向ける。そこではヴィントが寝ていた。
「私のわがままで彼を飼っているんですし、直ぐには無理です」
「……それもそうか」
なんだか安心した。このまま離ればなれになるのは嫌だったのだろうか。ガイの話が終わったのを見計らい、彼女はヴィントを撫でようとテーブルの下に身を沈める。すると奴は突然頭を上げてガイの顎にぶつかった。
「すみません姉御。それよりなんか魔獣の臭いがするんです。めちゃくちゃ強い臭い」
彼女が確認のための復唱をする前に裏口の扉が開く音がした。入ってきたのはガイの祖父だった。切羽詰まったような顔をしている。
「早く出ろ! なんか落ちて来てるぞ!」
ヴィントの発言も考慮して魔獣の何かが落ちて来ているのは自明の理。彼らは直ぐに家から出た。動物の運搬はそういう事が得意な祖母に頼んで、彼らは出来るだけ遠くに向かっている。数秒もすると牧舎から弾丸のように尖っている物が複数、祖母と共に飛んできた。よく見ると半透明になっていて、中には動物が座っていた。
魔獣はもう少しでガイたちの家に墜落する。だが未だに十分な距離は取れていない。この距離なら飛んできた無数の破片で死ぬかもしれない。
「リーン!」
「分かっています! ロ・ミュール!」
リーンの言葉と共に彼らの周囲は水で球形に覆われた。
「ドリッテル・ファルシュ!」
そして彼の魔術によって一瞬でロ・ミュールは三倍となり、先程までそれがあった場所に全く同じ物が作り出された。
墜落の直後、数々の破片が飛んできた。それに関してはガイたちの合わせ技で耐えきれたが、問題はその墜落したものだ。そこには鳥のような羽にウサギや猫のような強靭な脚、そしてゴリラかと間違えるほどの腕の生き物が……いや生き物というにはあまりにかけ離れているものがいた。
誰もが理解できなかった。カームやヴィントのように元の生物がなんとなく分かるとかの次元でもない。何かにカテゴライズするならば、と考えても事例が少ないため不可能だ。
「あれはなんなんだよ……!」
ガイの嘆きがカレンシティに響いた……
4分前。バレル邸での出来事である。カームとアーロンは彼らの部屋で寝転がっていた。
「……昨日のやべー量の仕事やってると、休みの偉大さがよく理解できた」
昨日、彼は書類の山の処理をしていた。100の書類に却下もしくは許可の印鑑を押すのに1時間、そしてそれを食事中以外ずっと行っていた。
「見てるだけでも大変だったしな。本当にお疲れ様」
そう言ってカームは彼に近づき、頭を肉球で優しく叩いた。アーロンは彼の気遣いに、ありがとうと答えた
「良い飯食わせてもらってるし、礼は要らんよ」
ある程度頭を叩くと、突然カームは窓の外を見つめ始めた。何かあるのだろうかとアーロンもそこを見つめるとガイたちの牧場に隕石のような物体が落ちようとしていた。
「なんなんだあれ……隕石だとしたら国から連絡があるし……もし魔術なら魔力検知器が鳴ってないから魔力を使用してない魔術って事だよな……まるで魔獣、というか魔獣そのものなのか?」
「十中八九、魔獣の長である姫様だ。感覚と匂いで分かる」
「ガイたちの家に向かって落ちてるな……もしかしてガイたちが狙いか」
バレル家の指揮系統を担っている彼は即断し、壁に手を当てる。この家のバレル家血縁者の部屋には屋敷全体と執事たちに直接放送をかけることが出来るようになっているのだ。
「皆、聞いてくれ! 今、タリスさんたちの牧場に向かって魔獣の特徴を持った物体が墜落中だ。これから言うことは絶対厳守だ。俺が今から円號魔割で無効化を試みる! それで無理なら街の人々を衝撃から守れ! 出来る限り避難させ、一斉に防御系の魔術を発動だ! 後は各々で判断しろ! 以上だ!」
放送を終えて、アーロンは窓から飛び出した。以前円號魔割とは触れないと発動できないとカームに説明したが、実際は違う。触れなくても発動できるように修行を積んでいたのだ。魔獣に情報が伝わらないように嘘をついていたのだ。
「発動! 円號魔割!」
アーロンは嫌な予感がしていた。これじゃ駄目なんじゃないかと。何も起きないのが理想だが、そんな理想は実現しないのが現実だ。あの物体を完全に分散させる事は出来なかった。数匹だけ物体の外に出たぐらいだった。
予想通りの最悪の事態だ。直ぐ様彼は自分の部屋の壁に手を当てて連絡を行う。
「すまない、最悪の事態だ! 無効化は出来ず、数匹だけ分離しただけだ! 辛いのは分かるが、民衆のため、心を鬼にして分離した数匹を攻撃してくれ!」
マクレーン家の人間は大の動物好きだが、自分のためだけに動く人間ではない。涙を堪えつつも彼らはその数匹を狙い始めた。無事にそれらは跡形もなく消滅させられた。
「執事長! マイクを寄越せ!」
「了解いたしました」
執事長と呼ばれた男性はマイクの子機をアーロンの眼前へと投げ飛ばし、彼はそれを握りしめる。
「街の皆! 今隕石が落ちてきている! 俺の魔術で5分はもたせるから、全力で隕石から遠ざかれ! 警察署まで逃げれば、あとはバレル家の執事たちが守ってくれる! 押さず駆け出さず喋らず戻らずを心に唱えろ! 以上だ!」
この街の人口はざっと数えて10万人足らず。陸路空路の両方から避難する事を考えても十分避難が可能な人数だ。実際避難は直ぐ完了し、執事たちの配置も完了した。
墜落までもう既に20秒を切っている。その場面で街中に散らばっている執事たちが声を揃えて唱え始めた。
「守護術式・天之岩戸」
それが発動すると、辺りには巨大で透明な盾が複数現れた。1つだけ見れば曲線三角形で、それらが複数個隣り合って盾の層を作っている。自然と発生してしまう穴はその上に盾の層をもう1つ作る事で対処。そして最終的には20層からなる盾が生成された。これで範囲の外にいるのはリーンたち墜落地点の人々だけ。だが墜落の直前、遠方でリーンのロ・ミュールが発動した。これで完全に被害者は0に抑えられた。
バレル邸への衝撃を3分の1に抑えていたアーロンはその光景に安堵する。
「これで後は魔獣の姫様とやらか……一番ヤバそうな奴が来てるのは、カームたちが居るからか、それともガイが居るからか……いや、その両方か。俺も行かないとな」
彼が足に炎を纏わせて向かおうとすると、突然背後から殺気を感じた。振り返ってみるとそこには以前体を乗っ取られる直前に見た、白い狐火のような何かがあった……
20221021 色々修正




