第2話―注射/その3(ヴィント……ありがとうございます、姉御)
なんてこった! ただ途中で構成クソ過ぎねって考えて新しい話を考えたのが5日前の27日で、それから書いてたら5月が過ぎてたなんて……
これから日常に5話くらい使って、戦闘パートに入ります。戦闘パートは間の話を抜いても8話くらい使いますが、話自体はバンバン進む予定です。
彼らがカームと初めて会った翌日の6月21日の事だ。ガイの祖父母から案外すんなりと飼育の許可が出たため、本日は昨日のうちに予約していた予防注射をする予定だった。現在時刻は動物病院が開いてから一時間後、11時。リーンはカームを病院に連れていくため、本日は
リーンに犬用ハーネスを着せられながらも、カームは注射をしに行くのを嫌がっているようだ。
「うぅ……姉御、いくら偽装のためとは言え予防注射をしに行く理由なんてあるんですか?」
「ありますよ、あなたがどんなウイルスを持っているか分からないんですし。少なくとも牧場の動物に感染する病気のワクチン接種は必要です。さぁ行きますよ」
少しばかり涙を浮かべながらリーンたちは扉を出た。カームは嫌な事はさっさと済ます質のようで、「さぁ早く済ませましょう」とリーンの前を進んでいく。だが何かを忘れていたのか、リーンはそういえばと言って先行していたカームをひき止めた。
「念話、心に思うだけで会話できる魔術をかけるのを忘れてました」
念話をかけた後、2人は改めて出発した。
カレンシティは辺鄙な場所にあるが、人工は中々の多さで街も広い。最近はアーロンの尽力により商店が増えた。それに伴い、住民に金銭を給付したため、ある程度物価も下がっている。他にもバレル家の財力とマクレーン家の技術力があっても長年実現出来なかった隣街への安全な道路を建設する事が決定され、人々の心も例の会見がされる前に戻りつつあるのだ。
そんなこんなでいつもより人通りが多くなった街中を歩きつつ、リーンは辺りを見回している。
(姉御、そんなにキョロキョロして何かあるんですか?)
(いいえ。最近、街並みが急に変わったので改めて道を覚えているだけです)
(そんなに変わったんですね……)
(ええ。前はこんなに店もなくて、あっても値段設定がとても高かったんですが、他の街と比べても少々高いくらいに抑えてます。店員も見た感じ最近まで住所不定の無職だった人が多い。そのため土地に合っていて買いやすい価格設定なのでしょう。先日、この街の住民にお金を給付したのも関係していそうですが)
そんな会話を挟みながら、2人は動物病院に着いた。扉を開いて目に入ったのはレイナ先生が勤めている診療所と同じ構造の部屋であった。違いは床の肉球の模様の有無だけ。これは単純に業者が同じ設計図を流用したせいである。肉球の模様は水性転写デカールを用いたらしい。
「噂には聞いていましたが、レイナ先生の所と同じ構造ですね」
そう呟くと、リーンはさっさと受付に行って色々と準備を進めようとする。だが入り口に付いてあるベルが鳴り、そちらの方に視線を向けた。カームとアーロンだった。アーロンの方は帽子にマスクをつけて変装している。だが、カームを連れてきているため事情を知っている彼女からすると意味の無い物にも見えた。
何事も無かったかのように備え付けの長椅子に座り、手のひらをこまねいて彼女を呼ぶ。彼女は彼の意図が分からなかったが、とりあえず近づき、そして彼女がカームに使った魔術と同じ物を使われた。
(……おはよう)
(おはようございます。こちらは予防注射に来ましたがそちらも?)
(ああ。それより、もう既に受付はしたか?)
(いいえ。それが?)
(いや、全く同じ生物であるこいつらに同じ名前は流石にまずいだろ)
(そっか。じゃあこちらでは未だに命名してないですし、こちらでやっときます)
頼んだという彼の言葉を聞いた後、リーンは自分の脳内の候補を挙げていった。カタカナ、ひらがな、漢字、アルファベットのいずれも候補に存在したが、今回はカタカナにした。
(そうですね……カーム、あなたはこれからヴィントと呼ぶことにします。よろしくお願いしますね、ヴィント)
(ヴィント……ありがとうございます、姉御)
リーンが飼っているカーム改めヴィントは静かに返事をした。だがその声色は嬉しそうであった。