第1話―魔獣その1
ガイは驚きとあまりの不思議さに立ち尽くしていた。
「今まで魔術を用いる獣、魔獣を信じているのは漫画に影響され過ぎた奴だけだと思ってた。が、実在するのか」
物凄く興味が湧いた。どのような肉体構造なのか、どのような魔術を用いるのか。思わず手が魔獣の首元に延びていた。
「お主、カディック夫妻の子息か?魔力の波長が似ているぞ」
ちょうど彼が首に触れる直前であった。魔獣は口を動かしていた。通常の犬の骨格とはかなり違うようだ。魔力を使用した感じがしないから、これは魔獣自体が人間と同じように喋られるのだろう。声についてはおそらく個体差があるだろう、こいつはかなり可愛らしい声だ。
「言葉も話すのか」
「ガイさん! 言葉を話す動物なんて危険です! 今すぐに鍋にしましょう!」
「鍋って、おいおい……」
そうして彼が振り返った瞬間、魔獣はリーンの顔に飛びかかった。彼女は驚きながらその場に尻餅をついて急に笑いだした。どうやら彼女の顔を舐めているだけのようだ。犬が顔を舐めるのは気に入った人間だけと聞いた事があるが、奴はリーンを気に入ったらしい。
彼女に近寄ってみると、とても幸せそうな顔をしていた。犬に顔を舐められるなんて今まで無かったのかもしれない。だがそれでも、自分はそんな顔に出来なかったから、嫉妬した。すぐさまそいつの首を掴み、彼女から引き離す。
「俺はガイ・カディックだ。お前の名前は何だ?」
「僕はカームだ。奴等と魔力の波長が似ている者の近くまでやって来たが、どうやら本当に子息らしいな」
彼は妙に苛ついた。明確な理由は分からなかったが、心当たりならある。
「お前、もしかしてアーロン・バレルを操ってたか?」
彼の言葉にカームはきょとんと首をかしげた。
「『あーろんばれる』って食べ物か?僕が逃げ出すまでの10年間で食文化もだいぶ変わったんだな」
その時のカームの声色はとても嘘をついているようには思えなかった。嘘を判別する技量が高いリーンも反応が無いため、きっと本当だろう。
「いや、知らないなら良いんだ」
「ガイさん、話しているところ悪いんですが、そいつ魔力を吸いとる能力を持ってます」
ガイが振り返るのに1秒もかからなかっただろう。だがもう既にカームはそこにおらず、ただ扉が風に揺れるだけであった……
まぁファンタジーならいるよね魔獣。この作品の魔獣の定義は人間以外の魔術を用いる生物全般ですし、この作品で魔術が生まれた理由を考えると逆に存在していないのも不自然ですが。




