プロローグ―義手その3
義手系男子はえっち
義手を受け取った翌日、ガイは家のベッドで起床した。時刻はだいたい5時ごろ。ガイの祖父母も朝の準備をしている頃合いだ。ガイは窓際に立ち、枕元に置かれている義手を見つめる。
「たしか魔力をアタッチメントに流すと自動でくっつくんだっけ?」
彼はいきみながらアタッチメントに魔力を流す。すると義手は緩やかに動き出し、ゆっくりと安全に左腕にくっついた。
「ずっと魔力を流さなきゃいけないのは難点だけど、これが役立つ瞬間もあるのかな」
手を握ったり開けたりしながら、彼は部屋を出て階段を下りる。何故だかリビングの方が騒がしい。ふとそこを覗いてみると、リーンが新聞をかぶりつくように眺めていた。号外、号外と新聞から聞こえる。ふと彼女がこちらを向くと直ぐに寄ってきた。
「ガイさん、これ読んでください」
「えっとなになに……『双頭の犬が発見! 歴史の闇に消えた魔獣か!?』だって?」
嘘のような情報だ。魔獣だなんて実物を見ても信じられないだろう。少なくとも彼は漫画で出てくるような魔獣というのは現実に存在しないと聞いていた。
「魔獣って、漫画じゃあるまいし……」
彼が椅子を引いて座ると何か扉を引っ掻く音が聞こえた。わざわざ座ったというのに再び立つことを億劫に思いつつ、彼は玄関に近づく。そして扉を開けるとその先の光景は予想外そのもので、ガイよりも世界を知っているリーンも目玉を飛び出している。
「おいおい……ドッキリ番組か何かか?」
扉の前には白いポメラニアンがいた。ただし、頭は2つある普通とは違った物だが。
バレル邸の一室、次期当主の直属の執事であるウォーレンはそこで眠っていた。ベッドとちょっとした机だけ。机の上に燕尾服が綺麗に畳まれている。そんな質素な部屋で電話の鳴り響く音が聞こえた。
(うるさいですね……)
悲しいかな彼は十分に眠れる事は少ない。彼は不満そうにベッドから立ち上がった。
「えっと……確かここらへんで電話に出るって言うんだっけ? ここで寝るもの久しぶりだからなぁ……」
壁に手を当ててウォーレンは「電話に出る」と呟く。すると壁一面に鼻の下に立派な髭を蓄えたハゲが写された。その顔に寝ぼけた彼は目が覚める。なぜなら、この屋敷にいる誰よりも高貴な人物であるからだ。
「やぁおはよう、ウォーレン君」
「あなたはガウス国王陛下!? ご無礼をお詫び致します」
彼が現在の国王であるガウス・カーバスであると気づいた彼は寝巻きのまま跪く。
「気にするな、私がこんな時間にかけたのが悪いのだ。それより本題に入ろう。君もバレル家の執事なら知っているだろう? 魔獣の存在を」
「はい、存じ上げております。バレル家は魔獣と人類の戦争において多大な戦果を上げたため、現在の高い地位にいるのだと」
「ああ、その通りだ。今回はその魔獣についてだ」
ウォーレンは「魔獣について?」と国王に尋ね返す。このような時間帯に掛けてくるのだから、きっと非常事態に違いないだろう。
「魔獣は本来人々の混乱を避けるため、存在を隠蔽してきた。まぁ10年前まで私も存在しないと信じていたが。だが、カディック夫妻が偶然発見したサンプルを見て信じざるをえなくなった。おっと、これは国家元首のみが知りうる情報だったか。まぁ良い、どうせお前には伝えるつもりであったし。問題はそこではない。実はそのサンプルが2週間ほど前に研究施設から脱走したのだ」
「脱走!?」
思わず声を荒らげてしまい、右手で口を抑えた。
「今までは厳重な体制で存在を隠してきたが、こうなってしまえばどうなるか分からん。だが魔獣の生息地はおおよその予想はついている。サンプルの表皮の成分などから推測するに、ごく最近に発見された惑星のG34だ。更にG34の方面から猛スピードで地球に近づく物体があるらしい。十中八九魔獣の尖兵、いや尖兵がサンプルだったと仮定するなら本隊だろうか。そしてその物体がちょうど月にぶつかる経路を取っているそうだ。だからお前には月で迎撃をして欲しい。もちろん各国の最強も共にだ。期待しているぞ、世界最強」
その言葉を最後に、国王は電話を切った。
「……本当に現国王は勝手な人ですね」




