プロローグ―義手その1
やぁやぁお久しぶりです。なんかこの長期休暇の課題をやっていたら執筆する時間が無くてですね。
まぁ言い訳は置いといて、今回から新たな戦いが始まります。お楽しみに。
アーロン・バレルとガイ・カディックの決戦から1週間後、ガイは左腕が無い状態での生活に慣れ始めていた。利き腕が右腕だったため、家の手伝いには簡単に復帰できた。ちょうど時刻は8時頃、家族団欒で朝食をとっていた。左腕を失くしたガイでも食べやすいような片手で食べられる食パン、スプーンで食べられるコーンスープなどが並べられている。
リーンは手元のスプーンでスープをすくい、口に運んで考え事をしていた。何かを口に出そうとして彼女は何回か口を開けては閉じる。
「……ガイさん、そろそろ時間ですけど」
そう言われてふと壁掛け時計を見ると、そろそろ分針は6の数字を指そうとしていた。
「ほんとだ」
ガイは残っていた朝食を自分の口に流し込んでリーンと共に飛び出した。
扉の前にはアーロンが立っていた。突然開かれた扉に彼は顔面を叩かれる。目を回しながら、彼は「なんなんだ〜いったい〜?」と言ってその場に倒れた。それを見たガイの祖父母たちは彼を家の中に引き込んだ。ただ彼もただ者ではない、リビングまで引き込まれると軽快に立ち上がった。
「ありがとうございます」
「それはそうと、あんた何しに来たんだ?」
ガイの祖母が怪訝そうな顔つきをして彼を睨む。孫の腕が失くなった原因の1つが目の前にいるのなら、これは優しい対応なのだろう。それを理解しないほど能無しのアーロンではない。
「お2人に謝罪しに来ました」
「……座って」
2人の後にリビングの椅子に座ると、彼は直ぐに話し始めた
「私はガイの腕が失くなった原因の1つです。どれだけ申し訳ないと言葉で伝えても、あなた方の気持ちは晴れないとも思います。そしてそれはどんな行動を持ってしてもです」
「ああ、理解はしとるのか」
祖父は腕を組んで首を縦に振る。
「はい、ですからあなた方の願いを何でも何度でも実現したいと考えています」
ふーん、と彼らは彼らは呟いた。それから数秒だけ辺りは静かになった。張りつめた空気にアーロンは唾を飲み込む。
「悪くない話だね、そんでもって限度とかはあるのかい?」
祖母が話を切り出した。
「いえ、ありません。回数も願いの内容に対しても。」
「そうか、なら願いは2つじゃな、それ以上はいらん。祖母ちゃんもそう思うじゃろう?」
「ああ、私もそう思うよ」
そうして2人は声を揃え、同時に同じ願いを語る。
「ガイが困っている時、全力で協力すること。バレル家の保有するMUの内1部の譲渡」
それを聞くとアーロンはまず、その程度の願いで良いのかと尋ねたくなった。バレル家なら、そして現在当主としての権利を行使できるアーロンなら簡単にもほどがある。だから、彼は改めて問う。
「理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「理由なぁ……ガイがワシらから自立するにはこれぐらいで十分じゃろう」
自立。彼は親の願いに縛られた人間だった。この前にやっと親離れをしたと聞いている。だから自立を願うのは正しいのだろう。だからこれはその程度の願いではないと彼は確信した。
「……了解しました。この命をかけてでも実現いたします」
やっと彼らに罪を償える、そう思えた。とても罪が消えたほどではないが、それでも彼らに何かできたという事実がアーロンの心を救った。
「なんで泣いとるんじゃ?」
祖父が心配そうに語りかける。指を目尻に持っていくと指先が濡れた。
「あれ? 本当だ」
何度手で拭ってもそれは溢れ出す。とても彼には理解できない。自分の事なのに、自分で理解できない。あれ、あれと呟いてずっと拭い続けてもそれは流れている。きっとそれは彼が許されたと勘違いしたから。最悪彼の申し出をはね除けて殺されるぐらいは覚悟していた。だが彼らは予想外なほど冷静で、予想外なほど話が進んだ。それが彼を勘違いさせた。
(もしかして許されたと思って泣いているのか? どう見ても許されてないだろうが、泣き止めよ!)
未だ彼の涙は止まらず、鼻水も流れ始めた。
「なんで止まらないんだよ……」
そこでガイの祖父は彼の傍らに寄って、彼を抱きしめた。彼の涙は余計激しくなった。
10分後、泣き止んだ彼は水を飲んでいた。
「すみません……謝罪しに来たのに、こんな事までしてもらって……」
不甲斐ない。謝りたいと思った。それを察してか、ガイの祖父は笑って彼の頭を豪快に撫でる。
「そんなん気にしなくても良い。お前は既に謝った、だからワシらはお前を助けた。それに……」
「それに?」
祖父は一瞬ここまで喋って良いのか悩んだ。だが他に言う場面も来ないと感じたため、彼に語り始めた。
「それにワシ……いや俺はお前に感謝もしているんだ。知っとるかもしれんが、やつは両親が死ぬ前はもっと明るい子だったんだ。そりゃ両親が死んだんだ、塞ぎこんで暗くなるのもあり得るだろう。だが極端に暗すぎた。1ヵ月に1回笑うかどうかってほど暗かった。だから俺は変態的な話題をガイに回してみたり、一人称をワシに変えてみたりしてもっと笑わせたかった。それで少しずつ笑うのが増えてきた。諦めずに努力していると、リーンちゃんが来た。彼女が来てから格段にガイの笑いが増えてきた。聞いたぞ、リーンちゃんはお前が呼んだって。だからお前には感謝してるし、あれで許したんだ」
きっと本心ではないのだろう。きっとアーロンをまだ恨んでいるのだろう。きっと殺したいとも思っているのだろう。それでもアーロンは彼らの優しさに触れた気がした。
「……ありがとうございます」
アーロンはどんな時でも個人的に彼らの味方でいようと心に決めた。




