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正義のあり方 俺たちの覚悟  作者: 松尾ヒロシ
自分の幸せを代価に周りの平穏を守れ
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第8話―独立その3

 時刻は午前1時を回る頃。ガイの祖父母が運営する牧場へと炎で作られた弾丸が直進していた。新鮮な酸素に触れているせいか、その炎の色は青に近づいていく。そしてちょうど牧場の真上へとたどり着くと、それは無数に爆散した。爆散したそれは散弾のように牧場周辺に落ちていく。このままでは良くても牧場の焼失は免れないだろう。

 そこにそれを良しとしない人間が1人現れた。


「……ガイさんはもしかしたら狙われるかもと言っていましたが、予想が当たるとは。ミ・ファミリア!」


 そこにいたのはリーン・ターナーだった。ガイの依頼の内容は牧場の守護であった。彼女は自身の残存魔力全てを用いてミ・ファミリアを巨大化させる。


「皆を守って! ロ・ミュール!」


 彼女が叫ぶと、巨大化したミ・ファミリアから水色の壁が出て辺りを包んだ。落下していく炎たちはそれに飛び込んでは消火される事の繰り返し。誰から見ても、アーロンの最後の足掻きは無意味となった。





「そ、そんなバカな! この時間帯ではあの夫婦は寝ているはず!」

「あれはリーンだ。俺が牧場を守ってくれるように依頼したんだよ。お前が俺の祖父ちゃん祖母ちゃんを狙わないのは最後の切り札としていると思ったからな」


 それを聞いて、アーロンは絶望の表情を浮かべた。ガイも殺せず、ガイを絶望させるのも叶わず、自分の目的は全て実現できなかった。涙を浮かべてこの状況から抜け出す何かを模索するが、思い付いた案では少なくともガイを殺せない。だがもうどうでも良くなった彼はそれを実行することにした。

 彼は自身の肉体を炎で包み込む。


「おいバカ! 自殺することは無いだろ!」


 ガイは手に持っていた颯竜刀で土をかけて消火を図った。実際数秒後には消火できたから間違いではないだろう。回復魔術を使えば数秒の内にできた火傷は全て治せる。そのため彼は回復魔術を使おうと土に覆われた場所に手を突っ込むが、この中には何もなかった。


(何も無い!? そういえば禍津日の頂上であるここからは救助用に街の至る所に繋がる経路があるはず、もしかして!)


 ガイの予想は正しかった。今アーロンはあの牧場へと繋がる経路を進んでいた。それほど近くではなかったが、魔術を使えば3秒もあれば到着するだろう。


(こうなったらこの手であの女を殺してやる……!)


 そう思いながら通路を出た。そこはちょうどリーンの目の前であった。直ぐに彼女の額に指先を押し付け、彼は殺そうとする。だが上空から落ちてきた颯竜刀に手首を切られて止められた。


「なんとか間に合った!」


 ガイはリーンを守るように立つ。


「ごめん、リーン。後は俺にやらせてくれ」

「分かりました。ご飯作って待ってますね」

「助かるよ」


 まるで勝つのを確信しているような会話にアーロンは怒った。


「クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがァ!」


 怒り狂った彼はガイに向かって散弾を集中させて放つ。何度も何度もそれを繰り返す。ガイはそれに対し颯竜刀ではなく水の刃で対処した。


「なんで水で! お前は水が苦手のはずだろ!」

「ああ苦手だよ。炎を消すのにも風の方が確実に消せるくらいにはな。だが今はそれで十分だ」


 それが虚勢でも何でもないのは現状が説明していた。だが彼は理解できずに何度も同じ事を繰り返す。


「俺にはお前に、言わなきゃならない事がある」


 ガイは何度も発射される炎の散弾に同様の対処をして少しずつアーロンへと歩み寄る。


「お前はこの街の人々を悲しませた。だからお前は罪を償わなきゃいけない」


 ガイは時折地を蹴って飛び出し、彼をかく乱した。


「だが同時に、俺はお前に感謝している。お前がいたからリーンと再会できた。俺の考え方が間違っているって気づけた」


 彼はついにアーロンの脳天にみねうちをして彼を尻もちをつかした。これでも問題ないだろうが、彼は更に首に刀身を触れさせる。


「それで、これは誰にも言ってないが、俺はやりたい事も見つけたんだ。今まで、父さんたちならこうするって考えと、父さんたちの遺志を継いで街を平和にするって気持ちで動いてたからさ。なら今度は俺がやりたい事ばかりやるんだ。そりゃ平和の維持だって望んでやった事だけど、どうも父さんたちの真似事なのが否めない。だからとりあえず、今は俺がカッコいいと思う事ばかりやるって決めているんだ。これが終わったらな」


 彼は頬を赤らめ一度言葉を出そうとして口を噤んだ。そうして1秒ほどの沈黙で、彼は再び口を動かした。今までにしたことの無いほどの笑顔で。


「……まぁ色々と言ったが、改めて礼を言おう。お前の出会いにも価値はあった、ありがとう」


 ガイは今まで殺されかけた事を許すまで心が広くなかった。だから許さずに彼を嫌がらす方法である感謝をする事にした。先ほど赤くなっていたのは、感謝するだけの度胸が無かったから。流石に悪辣過ぎるのではないかと憚られたからだ。


「最も嫌ってた俺に感謝されながら、とっととどっかへ行きやがれ。このクソ野郎」


 空気中に水の刃を固定して、ガイは彼の腹を思いっきり殴った。内臓から出血するほどの拳で、アーロンは気を失った。そして首筋から何か白い靄のような物が天空に上って行った……

いやぁ、ついに第一章もアーロンを倒して大ボスを残すのみとなったかぁ。一応第一章とか言ってますけどこれ「自分の幸せを代償に周りの平穏を守れ」は次々回で終了です。次は「自分の心を代償に復讐を果たせ」になります。

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