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正義のあり方 俺たちの覚悟  作者: 松尾ヒロシ
自分の幸せを代価に周りの平穏を守れ
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第7話—否定その4

まぁまぁグロいです

 オリジナルの名前を使用した魔術を壊され、ガイは叫びだした。獣が最期に助けを求める時のような醜ささえも感じた。そしてそれが自分でも嫌で、でも止められなくて風の刃を生成して体中を傷つける。それでも体は生きたいと思っているのか、常に翡翠の光に包まれて体の傷が瞬時に回復していく。


(馬鹿なんですかねぇ、こんな簡単に絶望しちゃって。さて、もう充分絶望させましたし殺せないわけでもないんですがねぇ……)


 エレンは彼を左右からどうやって苦しめようか考え、そして決断する。


「よし決めました。一応だめ押しです。発動、この手に挟(アブソルゥテリィ)めぬ物なし(・インターポーズ)


 そう彼が呟くと彼の金髪が赤色に輝き始めた。強力な魔術を扱う代償のような物だろうか。赤髪となった彼はゆっくりガイのそばに近寄り、右手でガイの左腕を手首から少しずつ切っていった。悪魔のような笑い声をあげながら。傷口自体は瞬時に回復していくが、もちろん痛みまでは治まらない。彼は涙を流し、先ほどとは比べ物にならない喚き声をあげるが、逃げようとまではしなかった。


「おや、逃げませんねぇ。そんなに殺されたいのかな……」


 それから肘関節を切ったあたりで彼は右手をガイの喉に動かした。


「もう死んでください」






 場所はバレル邸の巨大倉庫。そこには世界中の名画や像、更には名作映画やアニメの映像作品のDVD・ブルーレイディスクやビデオテープがあった。ちなみにこの時代の映像機器は空中に像を映し出して見たりデータを購入して昔の映像作品を見ることも可能だが、現当主がDVDなどが好きであるためその様に保管している。

 そこには本来現当主の許可なく立ち入る事は禁じられている。しかし今は当主の不在により、アーロンの許可さえあれば簡単に出入りが可能なのだ。ガイが喚き声をあげ始めたちょうど今もその中に人影が一つあった。

 その正体はリーン・ターナー。ガイを確実に絶望させて殺すため、彼女はこの倉庫のMUを合図で指定座標に飛ばす役割を担っている。その彼女は泣いていた。

 今まで彼女は依頼を受ければR18系と薬系の依頼以外は全てやってきた。それほど彼女は今を生きるために必死だった。ガニメデタウンのあの事件の生き残りである彼女は生きるという一点でこの世界の誰よりも強かった。今を生きて、あの事件を起こした人間を片っ端から殺してやろうと思っていた。だが今は憎しみを忘れ、自分のやってしまった行動を悔いている。

 彼女は以前、ヘレナ・ターナーと名乗っていた。とても複雑な事情があるため深くは言及しない。彼女はガイがガニメデに住んでいた頃から彼に恋をしていた。あのぬいぐるみを失くした日も、彼なら見つけてくれるかもと期待をしていた。自分のせいで彼が喧嘩を起こしたと聞いた時は、自分のせいだと激しく責めて自殺しかけたこともあった。それでも彼に生きて会うために生きてきた。小遣いを貯めて、探偵に依頼し、彼の住所を突き止めて翌日にはそこへ向かおうとしていた。でも翌日にあの事件があって、当面の目標が犯人たちの復讐に変わった。それでも彼への気持ちは揺ぎ無かった。だから彼女は純潔を守ってきた。


「MU送らなきゃ良かった、私のせいでガイさんが死ぬんだ……」


 そう呟き、彼女は薄暗い天井を見上げる。


「風の噂には聞いていたけど、あの頃の彼とほとんど変わって無かったなぁ……大好きだったよぉ……キスしたかったよぉ……抱かれたかったよぉ……」


 静かな倉庫の中に、彼女の心からの声がこだました。

 そこに突然入り口の扉が開く音がして、彼女は振り返って立ち上がる。


(なんでこんな時にも泣かせてくれないのかなぁ……今までの罪が積もり積もってたのかなぁ……)


 そうして彼女は水の三俣槍(アクア・トライデント)を生成して臨戦態勢をとり、そして鼻水と涙を流しながら尋ねる。


「私でーす、ウォーレンでーす」

「何でウォーレンさんがここにいるんですか。ここには暫く入らないでと伝えていましたよね」

「いやぁ屋敷で見かけてなんでここに居るんだろうと思ってつけていたら見失って、後でここに入るなと執事長に釘を刺されたんでもしかしたらと。それよりもリーンさん。あなたがなぜここに居るのかはこの際どうでも良いでしょう。何故泣いているんですか?」


 その言葉に彼女は何も返さない。


「……泣いている時というのは心が助けを求めている時か、嬉しすぎる事があった時のどちらかなんですが、あなたはどっちですか?」


 彼女は何も返せないまま、彼を見つめる。


「……そうですか。言いたくないですか。じゃあ一つだけ助言を。泣きたい時はしたい事をしたら自然と涙は止まりますよ。ではこれで失礼します」


 彼は扉を再び開けて去って行った。扉の向こう側では「ゲッ、執事長!?」「入るなと言ったじゃろうがぁ!」などと聞こえてきた。


「したい事……」


 決心は早かった。彼女は非常口から飛び出す。彼女の愛する者を助けるために。


(ごめんなさいガイさん! 私、決心がつくのが遅くって。急ぎますから生きていてください!)


 彼女は獣のような喚き声のもとへ一直線に進んでいく。するとそこにはMUによって作られた球体が存在した。そこで彼女はオリジナルの名前を叫ぶ。


「ミ・ファミリア!」


 三俣槍の左右の穂が外に開いていき、ピッケルのような形を作られる。それが完成したと見ると、ある言葉を叫びながらそれを投擲した。


我が槍は(アセール)ただ貫くのみ(・アグヘロ)!」


 本来、それはただの投擲。だがオリジナルの名前をつけた魔術武器が威力が上がるのと同じように、オリジナルの技名をつけた方が威力は高まる。ミ・ファミリアは青く輝きながらMUの球体を貫いた。中にいた二人は驚きすぎて体を硬直させていた。そこにリーンが高速で入ってきて、槍の柄でエレンをガイから引き離した。


「ガイさん! すみません! どんな事を言われたのかは知りませんが、生きていてください!」

絶望の中に現れた一つの希望って良いですよね。

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