第7話—否定その3
「なんでお前が俺を……?」
「なんでって、仕事ですよ仕事。私とリーンさんはアーロン・バレルに雇われてこの街に来たんです」
「リーンも!?」
「さて戦闘再開しましょう」
歪んだ顔を戻した彼が「マッド・バレル」と呟くと、彼が握っていた土の小銃が大型の弾を発射する大砲のような見た目に変化した。そうして彼はそれを上に掲げ、叫ぶ。
「狂弾の嵐!」
瞬間、彼のマッド・バレルから5個の爆弾が発射され、1秒も経たずに爆発した。爆風にガイは体を押されるが、これで終わりであるはずもない。すぐさま爆煙から無数の弾丸が飛んできた。そこで彼は颯竜刀を振って衝撃波を出してそれらを止めようとする。
「やわい衝撃波程度で、止められると思っているんですかァ!」
衝撃波の軌道上に存在した弾丸はそのままそれを突き破り、ガイの体に突き刺さる。急所に当たった物は無かったが、身体中から出血している。彼は回復魔術を使って、全身を翡翠の光で包んだ。これで傷は塞がったが、まだ全身に痛みはあるし少々視界が揺れている。
「ハハハ! 馬鹿みたいに弱くなりましたね!」
彼は快活に笑った。もちろん彼の言っている事は嘘である。リーンも雇われてきたという発言に気をとられ、力が弱くなっているが大幅ではない。
「リーンさんも雇われたと聞いて心が折れたんですか? あの二人の息子とは到底思えない!」
ガイは彼の言葉を一言一句聞き逃さない。それは聞きたいからそうなったわけでもなく、聞くしかできなかっただけだ。
「もしかして君の両親も本当は最強じゃなかったのかも!」
突然の両親の罵倒にガイは怒りを露わにする。そして怒って血圧が上がったため、頭痛がして頭を抑えた。
「違う……! それに今俺と父さんたちは関係無いだろ!」
「いいや関係大有りです。少なくとも、あなたは両親の遺志を継いで戦っているわけでしょう? じゃああなたの行動や言動は全て彼らの評価に直結する! 関係ないはずないじゃありませんか!」
「そうだとしても! 俺は父さんたちとは違う! 父さんたちのような才能もない!」
ここでガイは言葉選びを間違えた。それを示すかのように、エレンの口元が再び歪み始める。
「フフフ、そうなのかもしれませんね。僕知ってますよ、あなたが『本名を大事にしない事』が嫌いなこと。あなたは僕と初めて出会った時も偽名を使っている。あなたの祖父母のファミリーネームを使っている。才能の無い自分が両親と同じ名を名乗るだなんて、とか思ってね。ある意味それは本名を大事にしているのでしょうね」
ガイは無言で聞き続ける。
「でもその行為は、祖父母のファミリーネームを馬鹿にしているとも思いませんか?」
それは今まで気づいても気にしないようにして来ていた物だった。気にし続けると、とても戦えるとは思えなかったため、自分に嘘をつき続けた。だがやはり他人からその事実を指摘されると心が痛くなる。彼は耐えきれず心臓の辺りの服を握りしめた。
「あなたの嫌う『本名を大事にしない事』の範疇に入ると思いませんか? その矛盾でどれだけの人が不快に思ったのでしょうか? 実際そのダブルスタンダードな考えには僕も不快でした。そしてそれがあなたの両親が死んでからずっとだと聞いた時にはもう呆れかえりましたよ。『あの夫婦ってその程度の事も躾けていなかったのか』ってね」
ガイは何か言い返したかったが、どれも全て事実であった。一度指摘されると自身の否定は止まらなくなる。自分が最も嫌う事をしていたことに対する苛立ちを感じた。彼は頭を抱えるが、今更どれだけ悩んでも後の祭りだ。それでも彼はどこかにある答えを探し続けて、武通の言葉を思い出した。
(俺に足りない物があったから、ここまで気づかなかったのか?)
彼に足りない物。それこそが彼の求めている答えなのだろう。だがそれに今気づくなら、こんな状況になっていない。心当たりを探ってみて分からず、ダメ元で全然違うところを探ってみても分からず、だんだん追い込まれていった。それに応じて右手に握っていた颯竜刀の像が揺れ始めた。
エレンは彼のそばに近寄り、耳元で呟く。
「無駄ですよ。全て後の祭りです。あなたがやった事は無くなりません。あなたは良かれと思って両親の遺志を継ぎ、彼らの評価を下げないよう努力してきました。でもあなたの命はここで潰える。両親の評価を挽回することも、遺志を継いで人を助けることもできません。あなたの人生は全て無駄だったんですよ」
そして彼は颯竜刀を右手の指で挟み、両断した。
自分の信念を否定されて、自分で自分を否定して、でも受け入れなくて逃げ道を探すけどそんな物はなくて、絶望して泣く。
とてもエッチですね、はい。




