序幕の準備―変化
20191223 現当主ジョージ・バレルが街にいない理由を国王に呼ばれていたのではなく当主の権利を受け継ぐ儀式があるために変更
20191225 ガイが操られていないアーロンと会話するシーンを追加
20191226 塩害で農作物育たないのに何で森林に囲まれてるの?って自分でなったので修正
俺はオムレツを口に運びながら、アーロンと始めて出会った日の事を思い出していた。
ちょうど例の社長の会見から1ヶ月が過ぎた頃だ。俺はガニメデで何も出来なかったのを悔いていた。だが今の自分に何ができるのか分からず、日課の事件解決も事件自体が発生しないためできない。まぁ俺の仕事はそれだけじゃないし街が平和なのは良い事でもあるのだが、どうも良い気分にはなれなかった。
そんな時にアーロンは1年前からの社会勉強の旅を終わらせて一人で帰ってきた。彼がカレンシティに足を踏み入れた瞬間、バレル家の帰還を示すラッパが鳴り響く。それを聞いたマクレーン家の執事たちがバレル邸より飛び立ってくるが見えた。そして執事長であるウォーレンの祖父が改めて発表を行う。
「改めて発表いたす。ここにおられるアーロン・バレル様は、現当主様がこの街を不在にしている間だけ、この街を統治する次第である。くれぐれも失礼の無いように、そして恥ずかしくないような行動をとることを意識するように」
先月から領主のジョージ・バレルは当主の権利を受け継ぐ儀式で本邸に呼ばれている。そのため彼は1年前から社会勉強として旅をさせていたアーロンにカレンの統治権をある程度貸し与えた。もちろんそれは社会勉強もして、世間の事情を知った次期党首としての腕を見込んでの物だった。しかしそのあては外れることになる。
当時、カレンは食料配布ではなく食料販売を担当とする役人が週に2度ほどやって来る決まりだった。カレンシティは塩害でここ50年は農作物が育つ場所が少なく、物価も高めであるためだ。他にも隣街に向かおうにも、街の周囲を巨大な岩と滝が覆っているため安全に往復しようにも大量の魔力が必須であり、獰猛な動物も多く生息しているため街から出ようとする者はいない。逆に入ってくる人間は少なくないが。
その日も販売を担当とする役人が来ていた。彼らはいつもこの街の住民全部が買い物を済ませても有り余るほどの食料を持ってきていた。だから買い占めるなんて出来るはずもないと誰もが考えていた。
だがアーロンはそれをした。バレル家の財力を考えれば不可能ではない。もちろんその事実はすぐさま街中に広がり、ついには奴を正すために人が集まった。俺もその中のいた。
そうしてその日のうちに襲撃をかけたが、街の全戦力を用いても敗北した。
その事件の後、俺は今回と同じ様に寝込んでいた。それで祖母ちゃんが作ってくれた朝御飯を食べながら、絶対強くなると覚悟したんだ。
「御馳走様でした」
完食した俺は食器を流し台に置いて、何かやれることはないかと探した。だが数分経っても何も思い付かなかった。
突然玄関からチャイムが聞こえた。急いでドアに駆け寄ると、そこにいたのはエレン・パーファシー、あの自分の名前を恥じていた男だった。
「エレンか」
「こんにちは、ガイさん。家がここだと聞きまして色々と話をしようかと思いまして。」
「そうか、じゃあ入ってくれ」
そのまま俺は彼をリビングまで案内した。直ぐに彼が椅子に座ったのは驚かざるを得なかった。彼は尊大な人間なのだろうか。そうしてある程度世間話をしていると、彼は急に本題に入り始めた。
「さてガイさん。僕が話したかったのは他でもありません。アーロンの矛盾についてです」
「アーロンの矛盾? 奴の行動についてか?」
「大正解です」
彼は人差し指を俺に向けた。
「奴の行動原理はおそらくあなたの殺害でしょう。ただ食料を占領するだけなら力で蹂躙したら良いだけです。でも彼は気絶すると殺そうとはしない。何故なのでしょう?」
「それは以前奴から聞いたことがある。目的は俺を絶望させてから殺す事らしい。だからただ気絶しても俺は殺されない」
「なるほど納得しました。じゃあなんで奴はあなたの祖父母を狙わないんでしょう?」
そう言えば、奴は俺以外の家族を狙ったりしなかった。確かに謎だ。
「きっとプライドもあるんでしょうが、殺害を目的としているのに彼らを殺さないのは矛盾を感じてあまり好きではないですね」
俺は「ああそうだな」と相づちを打つしかできなかった。彼はその話をしたら満足したのか直ぐに帰っていった。正直アーロンの行動の謎より彼の行動の謎の方が気になった。
それから入れ替わるようにウォーレンがやって来た。
「そろそろ起きると思ってました。さぁ、バレル邸へ行きますよ!」
彼は俺を凄まじい速度で抱え込み、マーベルのスーパーマンのように飛び立った。家から出た瞬間、器用に扉を閉めていた。
叫ぶ暇も無いまま、ウォーレンはバレル邸に到着した。驚きのあまり俺の心臓から脈打つ音が聞こえた。アーロンとの闘いレベルで緊張していた矢先、彼はバレル邸のある一室の窓を叩いた。部屋の中を覗くと、そこにはアーロンがベッドで寝ていた。ここまで驚く事は人生でも一回だけだ。つまりこれが初めて。逃げようにも次の瞬間には奴がベッドから起き上がって窓を開けていた。
「さぁ、入ってくれ二人とも」
奴は何も問題が無いように俺たちを中に入れた。いや色々と指摘する事はあるだろう。窓から入ってきてる事とか、俺がいる事とか。それらに対して何も説明されず、俺は部屋に降ろされた。領主代理でもある人間の部屋にしてはかなり質素で、クローゼットの扉と2人は乗れそうなベッド1つ、そして勉強机が壁に向かってあるだけだ。床は青めのカーペットが敷き詰められている。
「ガイさん、何か説明して欲しい顔ですね。実は早朝だけアーロン様は操られないんですよ」
「……なるほど。操っている魂にも起床時間があって、早朝のその魂が起きていない時間帯だけ操れないってわけか。で、なんで俺が連れてこられたんだ?」
「『俺』が連れてくるように言った」
奴は俺の方を向いて言った。そのまま俺は奴の言葉に耳を傾ける。
「……まぁ色々と言いたい事はあるが、すまなかった。俺が不甲斐ないばかりに、お前を戦わす結果となってしまい申し訳ない。そして今まで根気強く戦ってくれてありがとう」
「いや、俺は気にしてないさ」
「そうか、すまない」
そうしてアーロンは何か突然思い出したように「そうだ」と呟く。
「この魂、仮にソウルとでも呼ぶか。ソウルは今度の戦いに助っ人を呼んでいるらしい。どうやら近接戦闘ではソウルを超えるほどの実力者だそうから気を付けとけよ」
それから次の瞬間、奴は白目をむいた。
「どうやらもう直ぐタイムリミットらしい。今度の戦いでは俺へのダメージを考えずに戦ってくれ」
「分かった」
俺は一呼吸おいてからひと言、「もし、俺が生きてたら友達になろうぜ。」と伝えた。なぜこんな事を言ったのだろう。同情か、何かに共感したのか分からない。何にせよ、アーロンは笑い返してくれた。
白目から戻ると、直ぐに俺の方を睨めつけた。
「ガイくん、なんで君がここに?」
どうやら俺の知っているアーロンに戻ったらしい。今逃げるだけなら簡単にできる。俺はそうっと窓に近づいて行った。
「まぁ良いか、どうせ今度殺すし。さぁさっさと帰ったら?」
俺は拍子抜けした。以前から戦っていてもしやとは思っていたが、妙に頑固な性格をしている。いや自分で決めたことには忠実と考えた方が良いだろう。
「さぁガイさん、ここは一旦帰りましょう」
「……ああ」
そうして俺たちは窓から飛び出た。背後からアーロンが何か呟いた気がした。「だいぶ自分に対し寛容になってきている」と聞こえたがどういう意味だろうか。
家の目の前に到着すると、彼は直ぐにバレル邸に飛び立った。忘れていたが、彼はアーロン直属の執事だった。それからしばらくやる事は無いし疲れていたので、俺は二度寝することにした。
次に起きたのはちょうど正午だった。俺が起床すると、裏口から誰かが入ってきた。
(足音からしてリーンか。朝御飯のお礼言わないと)
階段を降りてリビングへ向かうと、そこには右腕が存在せず、後頭部の髪の毛が銀に染まった女性がいた。俺は叫んだ。彼女も叫んだ。
「実は私、以前事故で後頭部と腕に障害ができてしまって。隠すつもりは無かったんですが……」
彼女は包み隠さず説明してくれた。初耳の情報しか無かったけど、祖父ちゃんたちは知っているのだろうか。
「実はガイさん以外には伝えていたんです。ガイさんには伝えるのを忘れてました」
なんてこった。なんだか悲しくなった。耐えきれなくなった俺は家から飛び出し、近場で熊を狩った。晩ごはんの熊鍋は旨かった。
義手系ヒロインって良いよね




