プロローグ―日常その2
西暦2018年ごろのヨーロッパのような古風な町並みのこの街の中央広場にある食料配布所で食料は支給される。
中央広場までの道のりにはたくさんの人々が集まり、食料配布所付近では息をするのも苦しくなるほどの人数がたむろするなどいつもの事だ。場合によっては殴り合いのけんかになっている事もある。そんな住民がヤクザのような街だがルールや作法はきちんと守るらしく、今回のような列に並んで食料を貰う場合などは列の最後尾から誰もが並ぶ。順番を抜かしでもしたら、よっぽど大きな力を持っていて街の者から畏れられていない限り抜かされた者から攻撃を食らわされてしまう。つまり多くの者が義に忠実なので、このご時世に割と治安が悪いこの街に引っ越す者も何人も居る。更に、この街は治安が悪いと言ったが、この街のいざこざは他の街から引っ越してきた者がルールの違いなどを知らず結果的に問題を起こす事になった物が半数を占めているため、逆に治安がいいと言う意見もあるわけだ。
だが、ガイの目の前に広がっている光景を見れば、問題を起こさない方がおかしいと言うものだ。何故なら、普通なら列の整理などをしているはずの警察が文字通り仕事をしていなく、かつ人が多すぎてどこが最後尾かとても分かりづらいからなのだ。
タイミングがいい所に何処に並べば分からない青年が居た。このようにこの街に慣れていない人が居る時は、ガイ達のような先に住み着いていた人々が慣れるまで手伝ったりするのがこの街のルールである。ガイもこの街のルールに従い、目の前の何処に並べば分からないで迷っている人に話しかけた。
「なぁあんた」
声を掛けられた青年は女性のような甲高い声を出して驚いてこちらの方に振り向いた。今時何処に行っても居るような、身長の割に体の肉が全体的に少ない男に話しかけられただけで驚く辺り、おそらくこの街の人間の性格などを知らないで引っ越してきたのだろう。
「な、何ですか!?」
「並ぶ場所が分かんないなら教えてあげるけど」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
そう言って彼が一礼をすると男の物とは思えないほどのきれいな金髪のみつあみが揺れ、彼の背負っているリュックサックの中から物と物がぶつかり合った時のような音が聞こえた。ガイはその音を奇妙に思い、リュックサックを覗き込むように見つめる。
「あっ、これですか? 僕、将来の夢が医者なんで、どこへ行っても勉強道具だけは離さないにしてるんです」
「へぇ、知り合いの医者を教えようか?」
「いいんですか!? お願いします!」
彼はまたペコペコと頭を下げた。ガイが他人に簡単にペコペコと頭を下げる物じゃないと注意すると、彼は犬が主人の命令を聞くのと同じように直ぐに頭を下げるのをやめて気をつけの姿勢をとった。
「あっ並ぶ場所だったな、ちょっと飛べるか?」
「飛ぶって空ですか?大丈夫です!」
「よし、じゃあ飛ぶぞ!」
青年が元気に返事をした事を確認すると、ガイたちはすぐに配布所に飛び立つ。眼前に配布所があるところでガイは止まり、野菜、肉、パンのそれぞれの配布所に繋がっている三つの道が途中で数箇所交わっている所を指差す。
「あそこに配布所に並んでいる人たちが居るだろ? あそこから一本線で繋がっている列があるからそれを辿るんだ」
「なるほど……」
「慣れれば途中の集団を上から見るだけで最後尾の列が分かるんだが今は無理して覚えなくてもいい、さぁ辿りながら戻るぞ」
ガイは空中から最前の集団から一本線できれいに繋がっている列を辿りながら最後尾まで戻りそこに二人で並ぶ。最前列から見てきた様子だとそれほど人は並んでいなくて安心した。
「あの……」
先ほどの彼が少しおどおどしく話しかけてきたので、ガイは彼の方へ振り向いた。
「ん? 何だ?」
「えっと……名前教えてください! ってその前に自分のからですよね~あはははは……僕、エレンって言うんです、エレン・パーファシー。男なのにおかしいですよねぇ~、出来れば名前を変更したいです」
彼は自身の名前を詰まりつつも言おうとしている時、顔を赤らめていた。それほど自分の名前を言うのが恥ずかしいのかとガイは不快に思った。
「俺はそうは思わないけどな~むしろカッコいいよ。」
「えへへ~そうですか~?嬉しいです〜」
(簡単に意見変わるならそんな事言うなよ。)
ガイがこんなにも不機嫌なのには訳がある、ガイは小さい頃に両親を亡くしている。だから両親の数少ない遺品の一つでもある自身の名前を誇らしいと思っていて、名前を大切にしていない人を見ると(よっぽど良くない名前で無い限り)あまりいい印象を持てないのだ。
「おっと、俺の名前だったな。俺はガイだ。」
ガイは直ぐに気持ちを切り替えて自分の名を言った。
「ファミリーネームはなんて言うんですか?」
「……今は、タリスかな」
ガイが自身の名前に今育ててもらっている祖父母の苗字を使ったのは自分の両親の苗字を使えば、売り名をしているのと同義だと思ったからだ。そうやって両親の苗字を穢したくない気持ちをエレンも悟ったのか、これ以上は何も聞いてこなかった。
それから30分ほど過ぎ、配布所が100mほど先に見えてきた頃、後ろの方がざわついていきた。ガイが気になって後ろを振り返るとそこには、どうぞ通ってくださいと言わんばかりに道のど真ん中を避けて通っている人々が居たのだ。
突然後方から高笑いが聞こえた。その笑い声を上げていた男は、何人かの男達がが持ち上げている木の板の上でどこぞのゲームの魔王のように天に向かって腕を広げて顔を上げていた。木の板を持ち上げている男たちはこの街でも金にがめついと特に有名なやつらだったので金で釣ったのだろう、その男達のポケットからは札束とおぼしき物がチラチラ見えている。
「ハハハッ、苦しゅうないぞ、民どもよ! 最も早く肉を貰うのはこの僕! アーロン・バレルだ!」