第6話―奇怪その9
武通がその言葉を発音すると白き正八面体は獣の形に姿を変化させ、ガイの下へ襲い掛かってきた。そこで何故だか武通が白い獣に向かって炎・風・水・土それぞれの属性の球を放出したのをガイは見逃さなかった。
(なんだ今の? 自分が魔術で作り出したモノに攻撃をするなんて……それにダメージを受けてる様子もない。作りだした者の攻撃は受けない可能性もあるけど、違う気がする)
確実にガイは真相へ向かっている、そのような感覚がした。だが、それを感じ取ったのか白き獣は直ぐ様彼の下へ向かい、自身の爪を伸ばしてきた。子供でも避けられそうな大振り、簡単に避けられるだろうと彼は高をくくった。だが紙一重で避けた瞬間、ガイの額に傷がついたのだ。どうしてだろうなどと思案しているうちに、敵の追撃の準備が始まった。空気が必要で無いというのに白き獣は呼吸をしているようだ。魔術がこんな異常な行動を取るときは確実に大技の準備だ。なんとか避けようと風を噴射して上空に逃げたとたんに、獣は炎の渦を口から発射した。
「あんなの当たったらひとたまりも無いぞ! 殺す気でもあるのか?」
「大丈夫だ、全身やけどしても回復させるから」
武通がそう彼に向かって伝えると、獣に近寄って撫で始めた。
「よしよし、頑張ったな」
これは演技だと、あくまで俺を倒すための演技だと、ガイは気づいていた。意思を持った魔術なんてものが存在するならば、もっと知れ渡っているべきだが、彼の知識に全く存在しないことからも断定することができる。だがそんなことより重要なのは武通と獣の接点に、僅かな緑と青の光が出たことだ。注意していなければ気づくことの叶わない程度の光が。
(あの光の色は風と水の魔術の色? 水の色の方が若干強めに光ってたけどなんでそんな色が?)
「行け! アレス・オーダァ・ニヒツ!」
武通の発言に呼応して白き獣はガイのいる上空の方に水を放出した。先ほどと比べ目に見えて威力は低いが、速さはこちらの方が勝っている。予想外の速さに完璧に回避することは出来ず、服の大半を濡らしてしまった。そして追撃に風の魔術。おかげですっかり体を冷やしたガイは鼻水を垂らして体を揺らしている。
「お、俺に風邪をひかせたいのか? 水の光と風の光が出ていたけど絶対関係あるなぁ」
寒さを少しでも緩和するため、口だけでなく全身を小刻みに動かす。そうして体の感覚が鈍くなったガイはいとも簡単に捕らえられてしまった。炎の魔術の赤の光が見え、獣が呼吸を始めたが、四肢を4本の足で抑えられては完璧に対処できない。
(こっ、このままじゃ負ける……予想はした。でも正しいのか? 間違っていた場合の立て直しはどうする? クソっ、こんな時、父さんたちなら……)
ガイは両親のことを想像する。だが、彼が両親と過ごしたのは6歳までだ。どれだけ考えようにも6歳の記憶は朧気で、とても頼りになるものは出ない。それが余計、彼を焦らせた。
敗北、家の恥、色々な言葉が頭の中を通っては過ぎていく。絶望さえも感じた瞬間、突然に両親の言葉を思い出す。『他人が悲しくて泣いてる時、拭うのは涙じゃねぇぞ……』の先さえも。
『他人が悲しくて泣いてる時、拭うのは涙じゃねえぞ……元凶って言う汚れの方を拭うんだ』
何故今思い出したのか、理由は分からない。だが今のガイにはそんなこと気にならなかった。
(そうだよな……そのためにも、こんなとこで挫けてちゃ駄目だよな!)
絶望は消え、光が見えた。すると不思議なほど冷静になったのだ。
(合ってるかどうかはやってみれば分かる!立て直しなんて後で考えれば良いんだ!まずはこの状態を何とかする!)
そう心の中で呟くと、彼は土の球を10個程白き獣に当てる。獣は難なくそれを吸い込んだ。
(魔術のよる攻撃は吸収する! そうなると確信が出てきたぞ!)
次の瞬間、白き獣は炎の渦ではなく砂や小石などを吹き出し始めた。これをガイは待っていた。彼はそれを見て風の魔術を使用した。丁度砂などが武通の方へ向かうように。
(やっぱり受けた魔術の属性の割合で出す魔術の種類が変わってたんだ! となると次は炎!)
いつ炎を噴射しても対処できるようにガイは水の魔術の用意をした。だが、白き獣は直ぐ様引いて武通の下へと向かったのだ。
(……なるほど、奴のメインカメラはさっきので傷がついたらしい!)
予想外の幸運に笑みを浮かべずにはいられなかった。そしてそのままガイは風の刃を発生させて魔力を込めた。
(とりあえずアレス・オーダァ・ニヒツをこっちに来させたが、これでガイも俺のメインカメラが傷ついた事に気づいただろう。だが奴も視界は悪いはず。魔力も4分の1を切ってるし、ここは慎重に動くか。)
ここで武通は選択を間違えた。素直に吹き飛ばしていれば、彼の勝利は揺るがなかったのだ。武通が右足を1㎝動かすと急に警告が現れた。メインカメラがやられてもMUが元々持っている魔術感知センサーは激しい戦闘でダメージが残ってはいたが、生きていたのだ。
(何!? 正面からだと!?)
そう、正面からある物が猛スピードで武通の下に動いていた。それの正体は先ほどガイが発生させた風の刃だ。すぐさま白き獣を盾にするように動かして回避をする。そして同時に背後から弱々しい魔力を検知したが、気づいた時には後の祭り。それは武通のコアを貫いていた。この部屋の壁から作られた長刀だった。
「……魅了、その効果は攻撃の手を弱めさせること。正確には、攻撃を無意識のうちに当てられないようにしたり、威力を消したりする魔術。ただこの効果が完璧に表れるのは時間がかかる。それに有名だからな。対処法はいくらでもある。その内の1つが『物理的攻撃を魔術で補正しながら当てる』こと。俺を油断させるために、ただの攻撃が効かないと証明させてくれなきゃ確実に勝てなかった」
ガイは淡々と分析結果を述べていく。武通が肯定したわけでは無いが、確実に正解であると確信していた。
「ははっ、俺の慢心か。お前、落ち着いてアレス・オーダァ・ニヒツの分析したな……」
彼は消えゆく意識の中、ノイズの混じった音声を出した。
「それは颯竜刀が破壊されてなかったら確実に気づいてなかった。今回は完璧に運だった」
「それでも……お前の勝ちだ……! ただ、この感じじゃ……今のアーロンには勝つことは無いぞ……お前には足りないものがある……!」
その言葉を最後に、機能を停止した。
数分後、部屋の扉が開いてリーン達が入ってきた。
「お疲れ様です、ガイさん。中々カッコ良かったですよ。」
リーンにそんな事を言われて、ガイはなんだか恥ずかしくなった。
「ありがとう」
2人の会話を遮るように、ウォーレンは今後について話し始めた。
「ガイさん、いよいよ3日後がアーロン様との戦いです。気を抜いては駄目ですよ」
「分かってる、覚悟は決めたさ。でも、今日は、もう休ませてくれ……」
その言葉を最後に、ガイは気絶した。慌てふためく2人の声が室内に響いて、今日も過ぎていく……




