第6話―奇怪その4
ガイの周囲に真空が作り出された。風の魔術の応用だ。そして全ての風の刀を消した彼はその状態で背後に風を出しつつMUの集団に飛び込んだ。
「まさかあれは神降し!?」
ガラスの向こうのウォーレンが思わず叫んだ。
「神降しって何ですか? ウォーレンさん」
「神降しは自身の周囲に真空を作り出す技です。移動するたびに真空を作り出さないといけないので大量の魔力を使いますが、空気抵抗が無いに等しい分だけ攻撃の威力が上がります。後方に向けて水・炎・風のどれかしらを放てば威力の分だけ速度も上がりますし、熟練の人間ならば素人集団を一瞬で制圧することが可能です」
二人の会話の合間にガイは素手で胴体の水晶を貫き、その奥にあるコアを引き抜いていく。
「なるほど……デメリットは息ができないことと大量の魔力を使うことぐらいですか?」
「他にも体がもたないことがあります」
「体がもたない?」
「はい、あれを使うと手首や足首が通常味わうことの無い負担に耐えられません。それに真空状態ですし、集中力も切れやすい」
そのようなデメリットに苛まれている中でも彼の顔は苦痛に歪むことは無かった。本来なら鉄を貫く拳なんて手首にダメージが残るだけでなく骨折しているのが普通なのに。それは毎秒回復魔術を自身にかけているからというのもあったが、彼の心の中では両親に恥をかかせてはいけないからというのが大きかった。
(回復魔術を使いながらですか……そこまでリーンさんにカッコいいところを見せたいのでしょうか……いや、彼の動きは色恋で動いている者の動きではない。まるで義務感で動いているような……)
何かを悟ったウォーレンはとてもいたたまれない表情でリーンに声をかけた。
「……リーンさん、最後の仕事です。さっきのMUの倉庫の最後の一機を出します」
半数のMUが無残に撃破されて、何かしらの対処が行われてもおかしくないほどの時間が経ったというのにMUは反撃を仕掛けてこなかった。よくよく見ると、水晶が輝きを失っていた。
(MUがシャットダウンされてる……じゃあ第三段階は終了したのか……?)
ガイはくたびれた様子で腰を下ろした。
(さっきの技、父さんたちは神降しって言ってたっけ。やっぱり自分の周囲を真空状態にするから息もできないし、集中力も削がれる。戦闘で使えてせいぜい10秒ってとこかな。魔力も予想以上に使うし、ちゃんと使いどころは考えないと)
そんな風に考えていると、目の前の床から大きな文字で『魔力回復ドリンク』と書かれたビンが上がってきた。
「ガイさん、それ急いで飲んでください」
「急いでって、第3段階はまだあるのか?」
「はい、それはここまで来た人の、言わばご褒美です」
「なるほど」
ガイがビンを手に取ると、眼前の壁が開いた。出てきたのは全身が真っ赤なMU。造形も他のものとは異なっており、全身が鋭く尖っている。
「ガイだったか? 初めましてだな、俺はMUTUだ」




