第6話―奇怪その2
ウォーレン、リーン、そしてガイはバレル邸のある山の麓にやってきていた。先日まではこの道は整備されていなかった。おそらくウォーレンが遅れたのはこれが理由だろう。
「またなんでこんな所に?」
「ここにマクレーン家が所有する修練場があるんです」
「この山一帯全部バレル家の物だって聞きましたけど……」
「麓は2年前にバレル家の一代前の頭首、アーロン様のおじい様が下さったんです」
2年前という言葉を聞き、リーンの顔に陰りが見えた。2年前に心に傷を負った人は大勢いる。彼女もその一人だったと知り、ガイは胸が痛くなった。
「さぁ着きました、修練場入り口です」
「着きましたって……ちょっと大きすぎる木が生えてるだけじゃ……」
ウォーレンはガイの言葉を否定し、その木に指を触れた。すると木の幹に裂け目が生じて、そこから表皮は引き扉のように開いていった。どうやら大樹の幹を切り抜いて修練場の入り口としているらしい。ガイはその技術力に感嘆し、「凄い」と呟くしかできなかった。
「へぇ、隠し扉ですか。私も何度か見たことがありますけど、ここまで精巧に作られているのは見たことはありませんね」
「マクレーン家は執事とメイド以外にも建設業の面で仕えている人間もいますので、この程度お茶の子さいさいです」
マクレーン家っていったい何なんだ、とリーンは思いながら、扉の中に歩みを進める。
中は青銅の色の廊下が数メートルほどあり、ところどころ変な植物の鉢植えも置いてある。おまけに壁が煤で汚れていて、。入り口付近だけを見ると修練場と言うよりSF版魔女の家という感じだ。そんな廊下の突き当りには、まるで自分が修練場であると自己主張するように襖があった。右手にも同様のものがある。襖の柄は前者は金色の雲、後者は風神雷神の黒い影である。
「ガイさんはその金色の雲の襖に、リーンさんは風神雷神の襖に入ってください」
「風神雷神の襖には何があるんだ?」
「んーそうですね……凄まじい量の魔力が必要な物、とでも言っておきます。1分あれば用意が全て終わるので待っていてくださいね」
「そうか、分かった」
「あっそうそう、これを渡すのを忘れてました」
彼はポケットからメモを取り出し、ガイの手に握らせる。それを見ると、どうやら絵のようであった。そしてそれを絵だと認識した瞬間、刀のような形状のイメージが現れた。
「これはまさか魔術画か?」
「はい、そうです。風の刃程度の魔術ではアーロン様に勝てないので用意しました」
「なるほど、ありがとう。今度何か奢らせてくれ」
「その約束、忘れないでくださいね」
ウォーレンと握手を交わし、ガイは襖を通る。すると目の前には、だいたい2haはある白い空間が広がっていた。そこまで広いとどこまでが壁なのか分からなくなるかもしれないが、壁は床と比べると少し鼠色に近いし、部屋の4隅もほぼ真っ黒なので壁にぶつかることは無いだろう。
「へぇ、襖があったし畳があるもんだと思ってた」
彼は白い部屋を見渡して言う。床から5メートルほどのガラス越しの部屋からリーンが手を振っていて、思わずにやけてしまいそうになるが何とか我慢してガイも手を振り返した。
「……! ……!」
彼女はガイに向かって何かを言っていたようだが、ガラス越しであるため聞き取れない。
「なんてー?」
ガイが声が聞き取れないことをジェスチャーで示すと部屋に雑音が小さく流れる。すると彼女の声がやっと耳に入った。
「ガイさーん! 頑張ってくださーい!」
彼女の言葉が聞こえた瞬間、周りの壁がせり上がって壁の向こうに隠していたものを現した。
それは人型の機械だった。人型と言っても胴と両手足が存在するだけで頭部はない。そんな異形のものが、第3段階の修行の相手であることは想像に難くなかった。
「『マジックユーザー』、魔力を注ぎ込むことによって心を持たない無機物であるのに魔術が使用できるようになるロボット。今回の修行はそいつらを倒すことです。では頑張ってください、ガイさん」
ウォーレンが言葉を終えると、やつらは動き出した。今見えているのだけでも100機は超えている。そしてその奥にもまだまだいるようだ。
「少なく見積もって500機か……さてと、出せるか試してみるか」
ガイは先ほど彼に貰った魔術画を思い浮かべ、風の刀を生成した。
「よし……じゃあ、やるか!」




