勇者パーティーから追放された
追放ものが溢れてるんでちょっと追放してみました
「貴様を今日、今この場でこのパーティーから追放する」
「は?」
魔王軍四天王・吹き荒れる雷鳴のシュバルツリッターを撃破し、臨時拠点に戻ってきた俺達。
俺達の立場を一言で言えば、『魔王を倒す使命を帯びた勇者パーティー』なのだが、帰って早々、さっき倒してきた四天王の名前並みに頓珍漢なことを言われた気がする。
そもそも吹き荒れるなら風か嵐だし雷鳴は轟くものだし通称でも役職でもなく本名が黒騎士って一体何なんだと小一時間問い詰めたい。
おっと、今はそんな事考えてる場合じゃなかったか。
「ごめん、何て?」
「貴様は戦闘力が低いだけでなく耳も遠い上に頭の回転も遅いのか。
もう一度だけ言ってやるから、しっかり噛み締めて理解しろこの無能。
貴様を、今日、今この場で、このパーティーから、追放する、と言ったんだ。理解できたか?」
聞き間違いかなと思って聞き返したところ、素敵な罵倒とともに、ご丁寧に一句一句区切りながら先程と全く同じ言葉を返してくれやがりましたよこの野郎。
何寝言ほざいてんだこのアホンダラとか思いながら他の仲間(ちなみに何故か全員女性)の方を見ると、3対6個の冷たい眼差しとご対面しました。あっるぇー?
「え、何?この盆暗の世迷言かと思ったらまさかの全会一致系の話なんコレ?」
「役立たずの足手まといなんていらないに決まってるじゃない」
「神の慈悲にも限界がありますわ」
「っつーかアンタがいたらお楽しみができないんだよ」
上から順に、魔導師プリシラ、神術師メアリ、斥候キャシーの発言である。ってキャシーだけ我欲にまみれてるなオイ。残りの二人も顔を赤くして盆暗を見つめはじめたし。
「って待て待て待てウェイウェイ!え、何、役立たずの足手まといって俺の事?」
「他に誰がいる?」
「どの辺が足手まといなのか説明しろよ、いくらなんでも納得いくか」
「「「「はっ」」」」
俺が反論すると、全員揃って鼻で笑いやがりましたよ。しばき回すぞコイツら。
「じゃあ納得できるように説明してやろう。感謝しろよ」
「うっわ殴りてぇ」
「まず貴様は剣で僕に勝てないな」
「そらそうだ」
こいつバカはバカでも剣術バカだからな、恐らくこの世でコイツ以上に強い剣士はいないだろう。
「アタシ以上に魔法を使える?無理よね」
「せやな」
いくらなんでも数百年に一人の天才児と言われたプリシラに魔法勝負とか分が悪いにもほどがある。
「私の神聖術を越えることが出来まして?」
「無茶言うな」
仮にも聖女と言われていたメアリの神聖術を超えられるわけがない。
「ウチみたいな斥候の心得はあるのかい?弓で狙撃くらいはできるかい?」
「本職に勝てるレベルじゃないわな」
斥候の心得も弓の心得も齧った程度だ。
「そら見ろ、貴様は何一つとして僕達に勝てるものがないじゃないか」
「いやそのりくつはおかしい。」
オールラウンダーが特化職にそれぞれの得意分野で勝てるわけがないだろ。
「それに貴様は怪我が多すぎる。なぜ中衛や後衛の位置にいて前衛の僕より負傷が多いんだ?」
「それは…」
「言い訳なんて聞きたくありませんわ。おかげで私がどれだけ負担を強いられてるか考えたことはありまして?」
それがお前の仕事だろ、と声を大にして言ってやりたい。聞く耳持ってなさそうだから言わないけど。
俺の特性上、タゲが向きやすいのは当然の話だし、コイツらもその話は聞いているはずなんだがな。
「そして極め付けは今日の戦いよ」
「あのイカれた名前の四天王がどうした?」
「今日の戦い、あなたはずっと隅っこの方に居たわよね?」
「お前らが俺に『絶対に手を出すな』って言ってたからな」
ボス相手にこちらの戦力枚数減らすとかこのボケ共は一体何を考えてんだとか思いながら傍観してたが。
「結論として、アンタが居なくてもウチらだけで充分ってことになったのさ。
ウチら全員無傷で四天王の一角に勝てたわけだからね」
「…」
俺はもはや何も言えなくなっていた。もちろんこのバカ共の言い分に納得して、ではない。呆れて物も言えない状態ってやつだ。
「そういうわけだ。貴様はこのパーティーに必要のない人材だ。故にここで追放する」
「…なぁ、お前ら、魔族ってどういう奴らかわかってんのか?」
「そんなの聞くまでもない、この世界の敵だ」
「他には?」
「それ以上でもそれ以下でもないでしょ?」
「神に仇為す愚か者ですわ」
「飯の種」
コイツら、魔王を倒す勇者パーティーの癖に魔族の事もろくに理解してねぇのかよ。
魔族というのは『世界の敵』であり『神に仇為す愚か者』というのは間違いではないし、冒険者などにとっては飯の種である。それは間違いではない。
駄菓子菓子、間違えた、だがしかし、魔王を筆頭とした高位魔族は、実は異次元の生命体であり、神のギフトを持つ者にしか倒すことはできないのだ。
そして、そのギフトを持つものこそが『勇者』と呼ばれる存在なのである。
逆説、勇者がいなければ魔王どころか四天王にすら勝てないという事だ。
「…最後に質問だ。お前ら本気、いや正気か?」
「本気で正気に決まっているだろう?
せめてもの慈悲だ。荷物や装備を置いていけとまでは言わん、さっさと失せろ」
「わかったよ」
最後に盆暗…いや、王国第二王子にして聖騎士のマクスウェルに最終確認をし、俺は荷物を纏めて臨時拠点を立ち去った。
こうしてこの俺、聖騎士より少々劣る剣技と天才魔導師にわずかに及ばない魔法技術を持ち、聖女の次に神に愛されし『勇者』ガイは、勇者パーティーから追放されたのであった。
勇者が勇者パーティーから追放されるってなんのギャグなんだよ。たしかに専門技術ではお前らに劣るが、総合能力だと俺断トツだぞ?器用貧乏じゃなくて器用万能だぞ?多分バーリートゥードだとお前ら四人纏めて畳めるぞ?
…もう知ぃーらね。
後日談。
実は俺の『勇者のギフト』は、パーティーメンバーにも効果を及ぼすものだったのだが、歴代の勇者たちは『自分にしか効果が発揮されなかった』らしい。
らしい、というのは、魔王戦争で文献なども散逸し、正確な情報が伝わっていないのだ。
で、元々ソロでも余裕で魔王討伐に行けたところを、利権に目が眩んだ王宮、教会、魔導師組合、ハンターギルドが人員を一人づつねじ込んできた訳だ。
建前は「勇者の護衛」として。
本音は「魔王討伐の功労欲しさ」で。
故に、俺が参加せずに四天王を倒してしまった盆暗一行は、勇者のギフトの事自体がお伽話であり、本当は高位魔族だろうが普通に倒せると勘違いしてしまった挙句、勇者である俺を追放するという暴挙に出たわけだ。俺自身にはなんの後ろ盾もないからな。
なお、魔族の方はどうもしっかりと物語を伝えてきたらしく、勇者である俺を集中的に狙ってきやがるんだよな。
というかなんで俺が勇者だってバレてるんだろうかね?ギフトの所為か。
ちなみに、その盆暗一行は、二人目の四天王である死霊術師ライフセーバーにあっさり返り討ちにあって、アンデッドとして使役されていたので、さっくりと火葬してあげました。
なんで死霊術師の名前が水辺監視員なんだよ。救命措置としてアンデッド化させますってか?やかましいわ!
魔族のネーミングは理解できねぇ。
その後、あっさり残りの四天王(何故か5人いた)と魔王をぶちのめし、通信魔法で魔王討伐を報告して、魔族がいる異次元に殴り込みをかけた俺である。
なんでって?そりゃーお前…
「だから我は魔王、お主は勇者、決して相容れぬ存在だというておろうが!」
「そんなもん愛の前では全く関係ないね!俺はお前に惚れた!だからお前にアプローチを続ける!それが嫌なら俺を殺せばいい」
「ぐっ…一度負けた相手には二度と危害を加えることができない魔族の性質を知っておる癖に…」
「そんなのは知らん。俺はお前が好きだ」
「勇者…」
「ガイ、って呼んでくれよ、魔王…いや、ミコト」
「…が、ガイ…」
男勇者と女魔王のテンプレやってるからさ。
しかし生命に仇為す魔王の名前がミコト(本人が言うには尊と書くらしい)ってのも変な話だよなぁ。やっぱり魔族の名前はよくわからん。
勇者(勇気ある者)がクズなわけないだろいい加減にしろ